第13話

労働局やそこで紹介された弁護士に話を聞いてもらってちょっとすっきりして落ち着いたし、前の仕事を首になった件は泣き寝入りしてもいいような気がしてきた。働いていたころのことを思い出そうとするだけで気が滅入った。

 その三日後、アパートの管理会社から電話がかかってきた。立ち退きを暗に勧められているんだとすぐにわかった。耐震構造に問題があってほぼ全面的な建物の改築が必要だという。引っ越しにもお金がかかるし、新しく受け入れてくれそうなアパートのつてがないと答えると、アパートの管理会社としても心苦しい面はあるから、なるべく協力すると言って電話が切れた。

 一晩考えて、少しでもお金が手に入らないかと、例の弁護士のところに電話した。とりあえず事務所に来いというから、その弁護士の事務所へ行くと、彼はとれそうな手段と今後の見通しについていろんな説明した。正味一時間くらいの面談だったと思うが、難しい単語が多くて頭が混乱してきて、弁護士の言っていることはよくわからなかった。法律扶助が使えるとか、派遣会社と派遣先の会社に問い合わせを出すという流れになった。

 事務所からの帰り道、私は電車代を節約するために歩きながら、これでよかったのだろうかと自問自答していた。なにしろ弁護士のサービスを買うなんて人生ではじめてだから、最終的にもとがとれるのか、お金になるのか微妙だった。少しでもお金になりそうな可能性があるなら、全部当たってみる他なかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る