第11話

「前職に戻りたいですか?」と訊かれて首を振った。

弁護士は私の立場と、考えられうる限りの手段を難しい単語を並べて説明してくれたが、ほとんど頭に入ってこなかった。一方的な首切りに近いので、派遣会社の人を読んで説明してもらった方がいいんじゃないか、場合によっては前の会社への慰謝料の請求も可能かもしれませんと言われて少し驚いた。

労働基準監督署で聞いた話では、私を雇用していたのは派遣会社で、前職の会社は派遣先だから、仮に私を首にしたのが派遣先だとしても派遣先に文句を言っていくのは難しいはずだった。なぜそんなことができるのか?と思って質問したら、また難しい単語を並べられていささか閉口した。でも、その弁護士としても、それが精いっぱいのコミュニケーションのとりかたのようだった。それ以上、易しくしゃべると間違ったことを言ってしまうのかもしれなかった。

時間がきてお礼を言って帰った。行動を起こす気があるなら連絡をくださいと言われた。意外に弁護士という偉いはずの人がふんふんと訊いてくれて、それだけで満足だった。というか、たった1時間なのに疲労困憊した。トラブルは嫌だが、何か行動を起こさないと手元にお金が全くなかった。


自宅では、老鳥2羽が待っていた。インコは飼い主が戻ってきてほっとしたようだった。

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