第10話
私の話は要領を得ず、事実をなんとか時系列に並べようとして、ますます分かりにくい内容になったのではないか。会社を退めてからどんどん記憶が薄れていっているのを痛感した。事実だけを並べたノートを事前に作っておけばよかったのだろうけど、思い出したくないことばかりノートに書くなんていやだった。
会社で受けたいじめやいやがらせの話も、弁護士に「その時、だれかそばにいた?」とか「その場から逃げようとは思わなかったの?」と訊かれたけど、そういうことを思いつかなかった。
いじめの証拠もないのでそっちで訴えるとか無理ですねとか、それにしても労働者が退職に同意していないのに、勝手に職を取り上げるのはひどいんじゃないかとか、その点は弁護士は同情してくれた。
労働基準監督署の総合労働相談センターで一度、話した内容だったから、なんとか話せるだろうと思ってやってきたけど、あの時の女性職員とはまた別の雰囲気だった。彼は私の話を聞きながら、時々、少し離れたところに目をやった。壁掛け時計でもあるのかと思ったけど壁しかない。
彼は人の話を集中して聞いている時は、少し離れたところを見て話しの内容に集中しているみたいだった。マスクで顔を覆われていたけど、少し吊り上がった切れ長の目だけが強く印象に残った。
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