第6話

合同庁舎のビルにはいくつもの省庁が入っていた。私のような明らかに外部からきた客は少なくて、背広姿の男性が忙しそうに歩いていた。労働基準監督署は1階にあった。「労働問題総合受付」とか書いてある戸をくぐると、受付窓口があった。


相談の方ですか?どうぞと、眼鏡をかけた年輩の女性職員が声をかけてきた。

1か月前に派遣先でトラブルになって、なんだかよくわからない理由で首になったので、失業保険とか対象にならないか、調べに来たんですと言った。来所の目的を口にするのも恥ずかしかったが、そんなことは言っていられなかった。


10分ほど話し合ったが、前職を退めたことに関して「何ももらえそうにない」という事実が判明して、私はがっかりした。脱力感や疲れを感じた。そもそも雇用保険に加入させるのは派遣先ではなく派遣会社だし、派遣会社はそれらしき掛け金を負担していないので無理ですと職員は説明してくれた。


女性職員に「がっかりするくらいなら、もっと失業保険について調べてから職に就けばよかったのに…」と言われたので、「一方的に退職させられた」というと、そのトラブルに対して、会社になんらかの抗議をしましたか?と訊かれた。

ひとりで抗議したって無駄じゃないですかと私は言った。

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