呪われた橋
夕日ゆうや
小説家橋
この橋を通ると、小説家になる、という呪いがある。
そんな言葉を胸に俺は橋に一歩踏み入れる。呪われた橋に足をかける。
今で一文字も小説を書いたことのない俺だ。
本当に小説家になれるのなら、こんなに嬉しいことはない。
文字を書くのは苦手だが、それでも俺は小説家になり、印税生活を送りたいのだ。
もうサラリーマンなんてこりごりだ。
何が楽しくてパワハラ上司と飲み会をせなあかんのや。
俺はそんな思いを胸に、この『小説家橋』を渡る。
向こうに着く頃には暗雲がたちこめてきた。
橋の向こう側にたどり着くと、驚くほどにアイディアが浮かんでくる。それらをメモし、家に急ぎ戻る。
念のため、橋は別のを使う。
家に帰り、黙々と書く作業を始めると夜明けになっていた。
「よし。最高のできだ」
感慨深い。
処女作が10万字を超える大作になったのだ。
それをネットで応募する。
なんともまあ、楽な時代になったものだ。
▽▼▽
しばらくして、応募した作品は無事書籍化を果たした。
それからが地獄だった。
浮かんでくるアイディアを書きながら、改稿作業に映るのだ。
小説家になったからと言ってそこで終わりではないことを痛感した。
そんな忙しい日々に終われていると、次々とプロの作家が現れてくるではないか。
なぜ? と思い話を聞いてみると、みな『小説橋』を通ったとのこと。
その日の内にたくさんのアイディアが浮かび、小説を完結させたとのこと。
俺と同じだ。
そんな人が10人はいる。
小説家が難しい職業ではなくなったことで、小説家という職業がただの趣味に変わっていく。
誰も小石を集める趣味を仕事にしようとは思わないだろう。
誰でもできる、ということを証明してしまった以上、もう職業ではなくなったのだ。
俺はどうやって生きていけばいい?
職業としての小説家を失った俺は途方にくれていた。
バイトで食いつなぐ日々。
あの頃は良かった。
サラリーマン時代を思い出し、今の生活水準と照らし合わせる。
金で困ることがなかった時代を思い出し、今日も小説を書く。
これは
呪われた橋 夕日ゆうや @PT03wing
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