呪われた橋

Tempp @ぷかぷか

第1話 

 亀裂のような谷間からビョォウと強く冷たい風が吹き上がり、俺の前髪を揺らす。

 目の前には蔦製の心もとない幅1メートル弱の橋が風に煽られ、ギシギシ不規則に揺れている。ゴクリと喉が鳴る。震える足を踏み出そうにも蔦の隙から垣間見えるその断崖にその一歩が決断が出ない。

 背後でがさりと音。一瞬忘れていた恐怖が再燃し、背中が硬直する。まずい、早く渡らないと。けれども、目の前に横たわる橋の恐怖。


 籠屋山かごややま山中のすずり橋。

 神津の街アプリのホラーちゃんねるでもこの橋は3つの理由でヤバいと有名だ。1つ目は物理的にボロくて渡れば崩れ落ちそうなこと。2つ目は橋の先はヤクザの私有地で、ヤバい目的で使われているといの噂がまことしやかに流れている。渡れば何をされても文句を言えない。どころか橋の先に監視カメラがついてて立ち入れば拉致られるという噂。

 けれども背後からはもっと直截的な恐怖が近づいてくる。

 俺は肝試しで硯橋に行く途中でソレに引っかかった。カンと乾いた音に思わず茂みを振り返れば、頭に蝋燭をさした女と目が合ったのだ。一瞬互いにぽかんとして、俺は脱兎のごとく逃げ出した。

 こんな道からすぐの所でまさか藁人形打ってるとは思わないだろ。藁人形は途中で見られれば効果が自分に帰ってくる。けどだって普通はもっと奥で打つだろ、常識的に! 確かに丑三つ時だけど、ここはホラースポットだぞ! 一番人が集まる時間じゃないか!

 酷く動転して思わず進行方向、つまり橋の方向に駆け出した。


 そして今も確かに、背後の道から走り寄ってくる足音が聞こえる。まずい。逃げるには先に進むしか無い。滝のような汗が垂れる。

 どうしたらいいんだ! まさに前門の虎、後門の狼。

 けれどももう、選択肢は既にない。藁人形の女は当然ハンマーを持っているだろう。俺は武器なんて何もない。回りには木の枝すら落ちてない。

 ……渡るしかない。乾いた笑いが口から漏れる。

 ヤクザでも何でも、他に道はない。

 震える膝に命令し、何とか一歩を踏み出せば、蔦はギィとしなりつつ思いの外しっかりしていた。勢いに任せておたおたと慌てて真ん中ほどまで進んで渡り振り返る。女は橋の袂で足を止めた。ヤクザの噂を知っているのかもしれない。

 このまま朝まで膠着できれば渡らずにすむ。

 胸をなでおろした瞬間、足首に違和感。

 見下ろせば、足首を掴む腕。

 忘れてた、この橋の3つ目の呪い。橋を渡ろうとする者を谷底に引きずり降ろそうとする女。

 どないせいいうねん!

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