第26話 理想的最終回

「ひどいことをしてくれる」

 神は目元を聖布に隠し、大仰な羽衣をまとっていた。つややかな黒髪は半ばからバサリと切り落とされ。声音は細く、けれど発せられる威圧感は尋常なものでない。


「あなたは……」

「原初の魔女。あるいは、不知火ミナ」


 できそこないの情欲をいやに刺激する、艶めかしい仕草で神は名乗る。


【へぇ。いまはソレを騙るんだ】


 拙たちはきゅうしゅうからここ、墓場とうほくへと参った。列島は海の底、同胞たちは命をしずめただろうか。

 

 赤き海を自在に操れるから、ふるさとが表出する。いまならきっと、大陸だってたたき起こせる。わざわざどうしてこの地へきた──、見せつけるためだ。


「墓場とうほくは記録しています。五百年間の戦死者をすべて。神の復活をまちわびているのですね」

 演じるように手を広げて。


 墓石が立ち並ぶ。どこまでも。景色いっぱいに。


「敵味方、関係なくです。なぜだかわかりますか?」

「さぁ」


「忘れるな、そういっているんですよ。あなたの物語で死んだ火を」

「薪でもくべおけ。 きっと苛烈に燃えてくれる」


 神は死んだ人を全員生き返らせることができる。


「勝手にすればいい。拙の大切な人たちは、あんたなんか願い下げです」

 エンマも。姉さんも。ミツキすらも。彼女らはみな己が物語に殉じた。復活には応えないだろう。


 だからこその苛立ちを、神、あなたにやつあてるのです。

 拙もたいがい身勝手だから。


 内包する霊源の圧を明らかにする。


 姉さんがくれた、疑似神獣イヌガミギョウブダヌキと、疑似聖遺物錬金術の脳。ミツキの降霊術の魂と、先ほどのウカノミタマ。


 持て余す異能。ぶちまけるさきを、ずっと探している。


 世界を壊してなお足りない、これは渇きだ。どうにか抑えてきた鬱憤だ。

 不思議、ミツキを降霊して、たがが外れてしまったみたい。

 我慢ならない。


「ふん。人間はいつもそう。力をえると、振るいたくてしようがなくなる」

「ひひっ。魔法を得た日には、うっかり世界を滅ぼしてしまうかもしれませんね」


「戦うしかないのか? 話し合う未来はないのか? 神はただ、皆に好いてほしいだけなのだ」

「“だけ”。話し合うことを本願とするくせ。どうにも言い方が気に食わないな。ミツキは、拙のものですよ?」


【えへへ~】


「神は……。私は、本来争いごとなど好まない。元はただのわらべなのだ」

 神聖は奥、今は彼女がいたいけな少女にみえた。そのおぞましさに吐き気がした。


「どの口が? 自分のために『戦争しろ』って言った人があんただ」

「言っていない。言っていないよ……。私はただ、神器を三つ集めろって」


「えぇ……」

 察する。拙は彼女と、とことん相いれない。

 かような人間関係は、“宿敵”と呼ばれる。


「別に戦争をする必要なんてなかった。ただ、自らの欲求を、言葉を。突き通せなくなった先に、暴力があっただけで」

 また、“だけ”。


「あたりまえじゃないですか。なんたって始まりがすでに暴力的だ」

 私を崇め、私を愛せ、私を見つめろ。お前たちはそのためにある。


【神が自らを普通と言うなら。あるいは人間が普遍的に持つ性質こそ、暴力そのものなのかもしれないね。なら、人類が滅ぶのもごく自然な摂理だ】


「まずもって神よ。『好いてほしい』だなんて。もっとも押しつけがましい心情ですよ」

 ならせめて。


「責任くらいは取れよ」

 五百年という歴史にあった幾億人、あんたの思惑に死んだんだろうが。


「どうやって?」

「そんなの分かりきったことです。あんたを思わない人間を。──みな殺せ」


 全人類に好かれんと理不を行使し、強要するなら。興味ないとのたまう人間など、みとめてはならない。


 わがままに人を殺した。他人をおとしめてまで、自己を優した。なら、最後まで我を突き通さないのは不自然だ。


 傷つけるだけ傷つけて、殺さないなんてひどく残酷だ。


 あたりまえだが、こちらにも譲れないものはある。

 腹が立つことも、理解ができないことも、許せないことも。たくさんあるけれど。そして、どの悪感情よりおおくの、神を、“母”を愛する気持ちもあるけれど。


「反抗期、きちゃいましたから」


 今の拙にとって、なによりの主軸はミツキだ。

 どれほどの大義があれば、神に抗うことが許される?

 ミツキと生きるにあたって不知火ミナが邪魔。たしかな、拙だけの理由じゃん。


「もちろん死に物狂いで抵抗しますがね」

 今はただ譲れぬものを押し付けあおう。


【あぁ、はじまる♪】


 神は少しばかり、思いふけり。ひとつ、ふたつ。


 次の瞬間、呪いの出力を全開にした。


「ひひっ。不可視なはずの霊源が──」

 小さな痩躯から漏れだす霊源流。“視覚”すら威圧してくるか。

 真っ黒い愛憎。


 地の色が褪せていく。神はあるだけで霊骸を巻き散らす。腐臭すら香った。

 もう、言葉はいらない。


 語り合う議題もなければ、分かり合う心もない。

 宿敵ゆえに、あとは殺しあうしかない。


【戦え!】


 だからこそ──。


「戦うの、やっぱやめにしません?」

 怖気づく。


【へ?】


 戦意を。霊源をといて。両手をあげて。降参のポーズ。


「なんのつもりだ?」

 ふぅん。神様だっておどろくことがあるんだ。少し愉快。


「確定です。拙は負ける」

 拙は死ぬ。


 だから怖い。だから戦わない。

 煽るだけ煽って。

 惨めすぎて泣けてくる。


 認めます。拙は姉さんやミツキのように、簡単に命を捨てることなんてできない。

 つまらないやつ。


「見え透いた未来に、拙は別段惹かれない」

 戦うしかない。

 戦うしかない──。

 戦うしかない状況に“追いやられた”。


 だれに?


【ぎく】


 ミツキに。


「拙を煽り、神を仕向け、ミツキは極上の終幕を演出した」

「……応さ」


 それだけならいい。戦うだけだ、身命をとして。

 もちろん怖い。だが、拙は少年である以前に、戦士だ。矛盾するようだが、覚悟ならある。


 気に食わないのは、結末すらミツキが用意した“シナリオ”だということ。


「拙は十中八九、善戦をもって神に敗北する」

 いい勝負にはなるのでしょう。こちらは二つの神獣に、二つの遺物を持ち合わせている。一方向こうは、遺物が一つ。内包する霊源量は拙に軍配があがる。が、裏を返せばそれだけなのです。


 神の素体は術式の源泉、位階序列第壱位、呪術。


 それを“ノーリスク”であつかうことの意味を、拙はよく知っている。


 上限値はあるだろう。だが、人ひとりを射るには過剰な、“魔法の再来”。

 ようは、“宇宙”。


「勝てるわけがない闘いを、なぜミツキが仕組んだのか」

【ぎくぎく】


「ひょっとすると、神様の勝利条件は、拙を殺すことじゃない?」

「ふむ、どういうことだ?」

【あ、あちゃー】


「拙はミツキをしっている。だから確信をもって断言する。あんたが拙を射殺さんとするとき、ミツキはおそらく、『愛の告白』をするのでしょう」


 妄想。


 死に物狂いで戦った。あまつ害を断ち切った。さぁ詰めろ。最後の一撃。神へ必殺技をぶちかませ。

 だが神はどこまでも超越的で、拙の必殺技を『消し』さり、拙へトドメを見舞う。ツナが死ぬ。誰もが確信したその時、ミツキが待ってましたとばかりに声を荒げる。


『魔女のことが好き』だと。高々に。

「!?」


 ミツキは神様のことなど興味がない。は、真実だ。だがまだ“足りない”。


 ミツキの本質。まことの性質は。神に限らず、『誰に対しても興味がなく』。

 そして『誰のことも嫌いで、誰もかれもを愛する』ことができる──、異常者だ。


 ミツキは人間じゃない。


ツナでさえ例にもれない。たまたま彼女が不知火の因果と出会っただけで。他の英雄になびくIFは歴然とあった」

 ミツキの横に立つのが拙じゃなくても。彼女は別に構わないんだ。

 面白い状況さえつくりだせるのなら。


「神様。もしミツキがあんたを『愛する』といったなら。黒色の戦意は折れますか?」

「……おそらく」


 では、証明といこう。

「ミツキは神が好きですか?」


【ツナ君、もう黙りなよ!】

「断ります。あらお怒り。理想の筋書きが狂いましたか?」


【うぅ……、なんてやつ。ムーブがヒールだよ……。わかった、言えばいいんでしょ。ネタバレしやがって。たまったもんじゃないぜ】


 ミツキは物語をいろどる素敵なキャラクターを、誰よりも“愛している”。


【神様、嘘ついてごめんね。私は君のこと、大好きだよ。ありがとう、面白くしてくれて】


 神様、あなたにも涙はあったのですね。とってもうれしそう。

 神はミツキに愛してほしかっただけで。それが叶ったなら、戦う動機を失う。

 彼女はもう、今に本気になれない。


「まったく。なんだよこの茶番……」


 くそったれた予定調和。神はただ物語を派手にするための演出。ミツキシナリオ。

 最後は三人仲良く大円談?


「虫唾がはしる」

 いらない。

 つまらない。


 紙袋、ぐっとひっぱる。


 ようやく理解した。


 拙の敵は神じゃない。神すら利用せんとするミツキ、お前のいかれた心臓だ。


【ならさぁ、もっと面白い結末、用意してみろよ主人公。あ? あ??】

 のぞむところだ。


 ラストバトル──。

 姉さんの弟らしく、すこし“頭”を使おうか。


「半径十メートル以内の標的に“必中”する拳銃と。装填するための弾丸を、ここに用意しました」

 血の卓を降霊し、二丁の六連発回転式拳銃“リボルバー”と、“三種”の弾丸を並べる。


【あはは。なんかはじまった】


「ウカノミタマ、イヌガミギョウブダヌキをエネルギーに変換した、超高威力“神獣弾”。当たれば確実に死ぬ」

 一人二発。


「殺傷力は皆無ですが、当てたものの術式を断ち切る、“絶歌弾”」

 これも二発。


「最後に、ただの弾丸。当たり所がわるいときにかぎり死にますね」

 いっさいの術式を施していない、鉛弾なまりだま。これは一発。

 計十発。


「弾丸をリボルバーに装填し、半径十メートル以内の距離で撃ち合う。先に死んだほうの負け。簡単なルールです」


【ふぅん、なるほど】

「おもしろい」

 ふたりとも気づきましたね。この死闘の“ゲーム性”に。


「互いに必中であるからこそ、同時に射撃をおこなえば、弾丸同士が着弾します。おなじ種類の弾丸なら相互消滅ですね」


【“神獣弾”は強力。でも霊源で編まれている以上、術式を断ち切る“絶歌弾”なら破られる】


 拙がウカノミタマを討伐したように。


「ただの“鉛弾”が“神獣弾”を穿てるはずもなく。だが、攻撃力じたいは皆無な“絶歌弾”にとって、現然たる物理、“鉛弾”の前では無力」


 要約しよう。


 神獣弾は鉛玉に強く。鉛玉は絶歌弾に強く。絶歌弾は神獣弾に強い。

 三竦みで三つ巴。


 つまるところ──。


【はは、物語の結末を、“じゃんけん”に依存するだなんて! 狂ってんねぇ】


 じゃんけんこそ。運ゲーこそが。どう転ぶか、“神様だって”わからない、もっともフラットな勝負であり。


「命を懸けるに値する」


 神の意思とか。だれかのシナリオとか。もううんざり。ほとほと飽きたのです。

 ストーリー性なんて、知ったこっちゃない。 


 勝ったら主人公。まければラスボス。それでいい。

 シンプルだ。


「言葉にだしたことが事実になる呪術師にとって。発言よりも一手先を行く銃撃は、相性がわるい。なるほど、これは公平だ」

 だから神は、そこを“衝く”。


「断る。神にメリットがない。なぜ我が必勝を捨てなければいけない? あなたが言ったように、順当にミツキの愛を受け取るのが確実だ。そも、ミツキが神を愛するというのなら、戦う理由すらもうない」


 でしょうね。あなたは戦いと無縁の少女だ。だが同時に、“愛”に狂った魔女だろう?


「拙はあんたを心の底から嫌悪します。拙の大切は思惑に殺された。だから復讐した。世界を滅ぼし、ミツキも“奪ってやった”。拙は、あなたのことが大嫌いです」


 魔女は泣いた。


 目をそむけるな。ちゃんと見ろ。

 お前が傷つけたんだろ。ならそらすな。

 少女の顔を。泣き顔を!

 もらい泣きしたとしても……。


【うわぁ──】


「ミナ。勝負に応じ、あなたが拙を殺すことができたなら。好きになってやってもいいですよ」

「ひどい人だ!」


「ルールはいたってシンプル、『先に殺したほうの勝ち!』さぁ、ロシアンルーレットです」


 神は拳銃をわしづかみ、乱暴に弾丸を装填していく。流儀にならい、神はシリンダーを回転させる。


「あなたはひどい人だ!」

【悪魔だ!】


「えぇ、こんなやつは殺したほうがいい」

「殺してやるから、どうか私を好きになれ!」


 拙も弾丸を装填。準備は整った。

 きっと死闘は、十秒にみたず終結する。


 ようやく。ようやくこの奇怪な物語が終わる。 


 恋を失い、血を失くし、友を失効した。

 絶望の歴史、もう何も望まない。


 心は静かだ。

 気持ちがいい。


 晴れやかだ。

 楽しい。

 楽し良い。


 もう少しだけ。あと少しだけ。

 心行くまで楽しもう。


 故に──。


 勝ちに行こう。


 いざ──。

【はじめ!】


 神は拳銃をこちに向け、引き金を絞る。

 不知火ツナ。泣いたっていい。なけなしの勇気を振り絞って。ミツキみたいに。

 さぁ、両手を広げろ──。


 拙は、“よけない”。


 拙は主人公を選んだ。 

 ならばこれは儀式。偽りのミツキがなせなかった、ご都合主義な主人公補正を、見せつけろ!


「ばん!」

 弾は──、“出ない”。

 六分の一、“あたり”を引いた。


 湧く。湧く!


「シッ──」

 すぐさま射撃体勢をとる神へ接敵。霊源を回せ、もてる膂力を総動員しろ。


 血族降霊──。

「“流血駆動”」


 じゃんけんで勝敗が決するといって、“殴らない”道理はない!

「最初はグーです!」


 虚をつく一撃。神のテンプルに命中。すかさず、降霊術式──。

「“転能才嫁”」


 対象に触れるという条件をクリア。神から“とある”才能を借り受ける。

 すかさずシリンダーを回し、撃鉄を起こす。


 神は姿勢を崩した。いまなら一方的に撃ち殺せる。

 引き金を絞──。


「ツナ、止まる!!!!」

「くっ!?」


 呪いの発動。身体が金縛る。

 開戦前、神があえて『呪いは不利』と発言したのは、だからこそ“呪いで攻める”ための布石。呪術対処の優先順位をひとつ、落とされたわけか──。



 だが神よ、遮二無二の術式、霊源の出力が甘い!

「!!」

 指先くらいなら、引き金る!!


 『『バン』』──。

 射撃は同時。


 射出された弾丸は──。

 互いに超高威力“神獣弾”。


 国落としの霊丸はぶつかり合い、“あいこ”の余波が──、来る。

「!?」


 着弾面に限る核爆の衝突。

 音は失われ。色は吹き飛び。

 ──空が割れた。


 だが戦況は休まない。神はダブルアクションをもって、連続射撃。

 射出した弾丸は──、術式うがつ“絶歌弾”。


 一方拙は。

【やっば】

 ──また撃たない。


 なぜわざわざ、銃を並べるためだけに、血の“卓”を用意したと思う? なぜわざわざ、銃弾に“弾をこめる”だなんて、“無駄”なアクションを取らせたと思う?


 気取らせないためだ。

 机をよそおった、“盾”の降霊を。


「なっ!?」

 拙は机を蹴り上げ、“絶歌弾”を防ぐ。

 術式にのっとり、血の机は弾け消えた。もう同じ手はつかえない。

 加速しろ。


「じゃんけんしてんだ。とうぜん──」

 卓は飛沫しぶいた。血液はそのまま神の視界を覆い。

「“後だし”もありますよ!」


 拳銃は仕様上、どうしても次撃までのラグがある。神はまだ撃てない。

 拙の射撃。弾丸は絶歌弾。


「地よ防げ!」

 神の呪いに従い、大地が壁。おいおい、ここは墓場だぞ、罰当たりめ。


「想定内。ぼたぼた!」

 拙の銃先は初めから、あなたなど狙っていない!

 標的は神の背後、死角地点。


 血の弾丸を起点に、指を、心を鳴らせ! 

瞬間移動ぼたぼた!」


【取った!】

 不可避の一撃はしかし──。


「加速!!」

 神は自らを呪うことで対処とした。


 動体視力の強化。身体能力の超向上。

 筋肉は無理な動きにちぎれ、さぞ痛いだろう。


 神の覚悟は功をせいし、二者、弾丸、同時射撃。

 種は先と同じく絶歌弾。あいこ、相互消滅。


【す、すげぇ】

 観客うるさい、黙ってみてろ!!


 のこり、二発──。


 意識を向けろ、意識を向けろ、意識を向けろ。

 銃、これみよがしに撃鉄を起こす。狙う。撃つ。今からお前を撃つ。撃つぞ、さぁ撃つぞ。さぁさぁさぁさぁ!!


 どうなるとおもう?

 こめかみを貫き、頭蓋がばらり、扁桃体を陵辱、後頭部にはじかれる。

 脳内で跳弾したら、きっとコロコロとなるんだ。頭ん中で、コロコロとなるんだ。あぁ、いったいどんな音楽だろう。


 赤と肉とショッキングピンクな光線が網膜の裏で輝くかな。うみが溢れて臭くて、脂ぎっとりの死はきっと苦い。


 痛みなんてかんじないさ。冷たいぬくもりにやけどできるさ。

 さぁさぁさぁさぁ、今からお前を撃つぞ!


「!?」

 あら、気取られましたか。


 着飾りな怒気、おしゃれな殺気。むしろわかりやすかったかな?

 神は見逃さない。


 銃口のうらにかくした、左手の刀身を。

 ──血族降霊、血戦刀。


 神は急く。

 間合いに入れてはいけないと。刀を振るう前に仕留めると。

 決着を急く。


 銃撃。

 二方ともに神獣弾。


 核衝突の再演。磁場は狂い、極光がゲロのようにぶちまけられる。

 空間がひずみ、一切の感覚器が暗転。


 奥義──。

「絶血」


 熱烈、熱狂、熱血を。あらゆる可燃材を投下し。だが熱は、まだ足りないと。


 青色巨星ほどにも燃ゆらん魂すらくべる、血戦刀、白日の閃き、渾身の一振り。

 故にこそ──、“ブラフ”として成立する。


「させるか」

 神の銃撃。消去法的に、次は鉛弾。


 定めは刀身。

 拙は姉さんのように、弾丸を断ち切るほどの技量はない。だが、照準を解するなら、受け止められぬ道理もない!


 血戦刀解除、てのひらを広げてやる。



 45口径の弾丸は皮膚を貫通し、骨を粉砕し、関節部に破壊の限りを尽くした。

 神経系が泣いている。けれど、気化するほどにねっした語り。“痛み”ごときで止まるはずなく。


 神はすべての弾丸を撃ちきった。よってこれより“神の一撃”をもって、闘争を終わらせにかかる。


 だが神よ。呪いは、“言葉”にしなければはじまらない。

 文字だけで成立する“物語”は、あなたより、すこしだけ早い。


 最後の一撃。銃の照準はすでにあわせた。


【神を殺せ!】

 拙はすでに三度ミツキの願いを無下にした。“契約”が命令を果たせと魂に強制する。


 だがルールは、“破るため”にある!!


 神様、拙達はただ、じゃんけんで遊んでいただけなのです。


 あいこで──。

 銃声しょ


 コロンコロン。

 弾丸は、拙のどたまにダイブした。


 あぁ、よかった。神様ありがとう。そんなに悔しそうな顔してくれて。

 大満足です。

 

 拙は自殺した。




 あとミツキ。なぁにが次で最終回だ。ざまーみろ、あなたの物語、ぶっ壊してやった。

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