第6話 私の王子様

 私は学校で周りから氷姫と呼ばれている。

 周りの人に興味がない性格だから、そう呼ばれているんだと思う。

 群れられるのが嫌いな私にとって、その呼ばれ方は最高だった。


 だが、夏休み。

 私は盗撮にあった。


 電車の中。目の前には気持ち悪いおじさん。

 いくら周りの人に興味がない私でも、その異様な近さと鼻息で盗撮されているんだと気付いた。

 が、何もできなかった。

 いつも澄ました顔をしている私でも、恐怖心が勝ったのだ。


 『誰か助けて』


 声にならない悲鳴を心の中で叫び続けた。

 けど、声に出してない以上助けてくれる人なんているはずがない。


 このまま盗撮され続けるんだ……と、絶望していたとき。


「なにしてるんですか」 


 どこかで見たことがある男性が助けに来てくれた。

 

 その男性はおじさんとの口論の末、お腹を突いておじさんを倒してくれた。

 このとき。私は盗撮をしてきたおじさんじゃなく、男性に目が奪われていた。

 嬉しさもあった。けどそれ以上に、助けに来た姿が王子様のようにかっこよくて……。

 心の高鳴りが収まらなかった。

 

 心の高鳴りが恋だと気付いたのは家に帰った後。


 同級生の集合写真に、王子様がいたときだった。



 王子様……成哉くんと喋ったら、氷姫じゃない自分が暴走してしまうかもしれない。

 そう思い頑張って耐え、あとは下校するだけ。

 なのだが、無意識に成哉くんと喋りたいと思ったのか、私は教室に誰もいなくなるまで待っていた。


「あなた」


 王子様と二人っきり。

 そんな空間、我慢できるはずがなかった。


「浅木さん。どうしたの?」


「成哉くぅ〜ん」


 自分でも自分なのか疑うほど甘えてしまった。

 好きだってバレちゃうかもしれないけど、本能に抗うことは不可能。

 甘えて甘えて……。

 

「今日はありがとう。また明日」


「う、うん」


 無理やり氷姫に戻したけど、絶対変に思われてる。

 気持ち悪い人だって思われたらどうしよう……。

 今度はもうちょっと慎重に動こう。


 そんな自分反省会をしながら下駄箱から靴を出して、駅へ歩こうとしたが。

  

 朝もいたけどあの人って誰なんだろう?


 同じ組の下駄箱の前で誰かを待ってる、母性の塊のようなオーラが体から溢れてる2年生に目がいった。


 私はすぐ誰を待ってるのか気付いた。

 なにせ、学校に残ってるのは成哉くんだけなんだから。


 そこですぐ考えたのは、なんで成哉くんのことを待っているのか? だった。

 数秒立ちっぱで考えたけどわかんなくて……。

 最終的に分からず気になって、下駄箱に隠れて見守ることにした。


「待ってたよ」


 やっぱり成哉くんを待ってたみたい。


「さっ。返事を聞こうかな」


 返事? 成哉くんはこの人と知り合いだったんだ。

 一体何の返事なんだろう……。

 わからないけど、成哉くんは言葉に困ってる。

 二人の関係は、友達のような感じには見えない。

 友達以外の学校の先輩から、返事を聞かれるのって……嫌な予感がする。


 これからは慎重に王子様と仲良くなるつもりだった。

 でも、嫌な予感が強くなって。

 王子様をとられる気がして。


 考えていたら足と口が動いていた。

  

「その話、ちょっと待った」


「えっと……あなたは誰?」


「私はこの人のクラスメイト、浅木花音」


「へぇーあっ、私は水原みずはらよもぎ。見てわかると思うけど2年生でぇーす」


「ふん。あなたの名前なんて聞いてない」


「そっか……。名乗ったほうが喋りやすいと思ったんだけどなぁ」

 

 この先輩さんに成哉くんがとられると思って喋ってたせいで、自然ときつい言葉しか出てこない。


 まず成哉くんに何を聞くのか知らないと。


「名前なんてどうでもいい。それより成哉く……鶴嶋さんに何を聞こうとしてたの」


「大丈夫大丈夫。クラスメイトの花音ちゃんには関係ないことだから」


「関係あるかどうかは聞いてから私が決める」


「……逆ナンの返事を聞こうとしてたの。これでいい?」

   

 え。逆ナン?

 私の王子様が逆ナンされてたの?

 そんなの許すわけないじゃん。

 当たってほしくなかったけど、悪い予感当たってたみたい。


「あの〜。二人で喋ってるところ悪いんだけど……」


「うるさい。黙って」


「あっはい。すいません」


 ああ。成哉くんに強く当たっちゃった。

 嫌われたらどうしよう……。


 それもこれも全部、私の王子様に逆ナンなんてした先輩さんが悪い。

 

「先輩さん」 


「なに? 私は早く返事を聞きたいんだけどなぁ〜」


「はぁ。惨めで見てられない」


「どーゆーこと?」


 先輩さんの目つきに鋭さが増した。

 怖い。逃げ出したい。

 でも、王子様は私のだってわからせないと。


「意味なんて自分で考えて。わかるでしょ」


「ふーん……へぇー……。そーゆーことね」


 舐め回すように見られてる。


「なに」


「いや。花音ちゃんって考えてること隠すの下手なんだなぁ〜って」


「バカにしてるの?」


「するわけないじゃん。競争相手だもん」


 先輩さんはチラッと成哉くんに顔を向けた。


 成哉くんはなんのことか分からず目を泳がせてる。               

 先輩さんには私が成哉くんのことが好きだってバレてるみたい。


 勝手に好敵手みたいにされてるけど、私は競うつもりなんてない。

 競わなくても結果は決まってる。


「成哉くん」 


 結果は本人の口から聞こう。


「はひっ!」


「私と先輩さんどっち?」

 

 当然、私を選ぶよね。


「どっちもないかな」


「「えっ?」」





 二人が惨めに見えないからどっちもないって答えたけど……何この沈んだ空気。



 

 

 

 

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