第12話 トップってのは狡いんだよ。

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 現実での昼飯を済ませた俺はESOへと戻る。


 ゲーム内では日が出始めたので丁度いい時間だ。


 懐も温まってきたので、今日は装備の新調と採掘道具の調達をする。


 ログインと同時に現れる眷属達。


「ピュイ!(マスターおはよう!)」


「バク~(ふぁ~マスターおはよ~)」


「もうでぃくさね?えむいさね~」


『zzzz』


 スフィとクイミーは問題無いようだ。


 クエラは九尾なんて大層な種族のクセに朝に弱い様だ。


 そんなでいいのか九天白尾皇。


 アルテマは・・・もういいや。


「お前達、問題無い様だな。買い物へいくぞ」


 俺達は町へ繰り出し、鍛冶屋へと向かう。


 すれ違うプレイヤーからは何とも言えない表情を向けられる。


 昨日あんだけの人体検証をしたんだ、腫れ物扱いは当然か。


「ここは鍛冶屋っぽいな。入ってみるか」


 店に入るとカウンターに居る、必要以上に短い赤髪の女性と目が合う。


 カーソルはプレイヤーを証明する緑色


「三尾の幼女、バクにサファイア色のスライム.....あなた、拷問テイマー!?」


 プレイヤーズショップか、面倒だな。


 大体、拷問テイマーってなんだよ!外道みたいじゃないか。


 俺が振り返り、店を出ようとした時だった。


「ま、待って!何も詮索はしないし、素材の買取も色を付けるからウチの店を使って下さい!」


 凄い勢いで回り込まれ、土下座する勢いで頭を下げてくる女プレイヤー。


 詮索もしない、色付きの買取。


 考えてみると悪くないが、コイツの意図が分からない。


「分からないな。目的を言え。品揃えも悪そうには見えないし、客が全く来ないって訳じゃないだろ。」


「え、えーとね、カガミさんは拷問テイマーって言われてて不服かもしれないけど、それでも強いのは証明されてるから、そんな強い人が顧客だったら宣伝になるかな~って」


 成程、ビジネスの常套手段だな。


 転売でも芸能人や有名インフルエンサーが使ってますって謳えば売りやすくなるからな。


 それに売上に対する貪欲な姿勢は嫌いじゃない。


「そんな理由か。構わないぞ。先ずは買取をして欲しい。」


「あ、ありがとうございます!先ずは買取ですね!因みに、私の名前はポニアね。」


 カウンターへと移動して、岩石地帯で手に入れた大量のロック系モンスターの素材をポニアに渡す。


「お、おぉぉぉっ!これはロックワームとロックモスの素材!こっちはロックニューラとロックアント!」


「なぁ、何で驚く?岩石地帯は確かに少し面倒くさいが、言っても始まりの町エリアだぞ。」


「それはカガミさんだから言えるんですよ?あそこの敵は強くは無いですが、耐久値が高くて少し所じゃなくて、結構面倒くさいんですよ。」


 へー、初めて知った。


 クイミーとスフィ頼りで踏破したから、あんまり実感無いんだよな。


「頭に入れておく。あと、軽装備とローブが欲しい。買取金額から差引してくれ。足りないなら出す。あぁ、それとピッケルとシャベルがあるなら二個づつ買いたい。」


 軽装備にした理由は、俺が能力値にSPを一切振ってないからだ。


 重量装備だと要求筋力に満たない。


「了解です!作成に三日貰うからそれ以降に引き取りにきて。ロック系の素材を使うからサービスさせて貰うね。あと、ローブはこれとかどうかな?」


 ポニアが見せてくれたのは焦げ茶色のローブ。


名称:バイルドックの軽衣


耐久値:80


効果:耐久+3


装備条件:無し


 微妙だが、始まりの町だから仕方ない。


 むしろ始まりの町に最前線の素材が回ってたら、そっちの方が驚きだ。


 俺は納得して余った買取代金とローブ、ピッケル、シャベルを貰って、ポニア武具店を出る。


「これから岩石地帯に向かう。お前達、気を抜くなよ! 」


「「おー!(おーさね!)」」

 

『zzzz』


うん、一器以外は問題無い様だな。


 

「「「ギィ!」」」


 岩石地帯に入って数分で岩石質な蟻4体にエンカウント。


 丁度いいので、クエラの力を見せて貰お。


「ロックアント4体か、クエラ。お前の力を見せてくれ。」


「はいさね!妖しき光が見せるは敵影・・・暗黒妖術!」


 元気よく返事をするクエラ。


 何かを唱えると3本の尻尾がユラユラと揺れ、敵に紫光が降り注ぐ。


「ギィ!(くたばれ人間!)」


「ギィ!?ギィィ!(何をする!?俺は人間じゃない!)」


 こちらに殺意を向けてたヤツらが急に同士討ちを始めた。

 

 これが妖術か・・・魔物の言葉が分かるから、余計に滑稽に見える。


 ゲーム的に言えば、妖術はデバフ系統のスキルに分類されるって所か。


「もう沈むさね。ダークボール!」


 バァァァァァァァァン!


 同士討ちに夢中な蟻共が強化された闇魔法によって沈む。


「なぁ、クエラ。妖術って他に何が出来るんだ?」 


「今はまだ幻影を見せる事しか出来ないさね。力を取り戻していけば有幻覚を与える事だって出来るさね」


 有幻覚って確か、火傷や凍傷の幻覚を見せて本当に痛みを与える現象だよな?


 ウチのパーティーは睡眠や妖術とデバフに優れている。


 逆に言えば、状態異常耐性が高い敵の対策が今後の課題だ。


「カガミ・・・えーと、うーん」


 クエラが何故か俺を見ながら耳がピコピコ動き、尻尾を揺らしながらモジモジしている。


 コイツ褒めて欲しいのか?まぁマスターとして褒美は与えなきゃな。


「よくやったな、期待以上だ。」


 褒めながら、優しくクエラの頭を撫でる。


 こうしてると妹と仲が良かった時を思い出す。


 今となっては俺にとって家族は血の繋がった他人でしかない。


「はぅぅ///」


 クエラを見てればイヤでも分かる。

 

 俺は鈍感でもなければ、難聴でもない。


 クエラは、悠久の封印から救った俺を異性として意識している。


 組織の長として、色恋的な問題は可及的速やかに解決させて貰う。


 今はクエラを戦力としてしか見れないからな。 


「改めて言うが、俺は幼女趣味じゃない。悪いが、今のお前の気持ちには応えてやる事は出来ない。」 

 

「うぅぅぅ、尻尾が後4本も戻ればビューティーなお姉さんになるさね!だ、だから。だからその時は・・・」


「はいはい、ビューティーなお姉さんになったら考えてやるよ。」


 クエラの言葉を全部聞いたら、俺は甘くなってしまう。


 狡いとは思うが今は未来的な事はぐらかさせて貰う。


 組織の長として部下との色恋に溺れるのは三流以下だ。


 俺の持論だが、トップに必要なのは部下に死んで来いって言える覚悟だ。


「本当、優しくてずるい男さね・・・」


「ピ、ピュ(クエラ大丈夫だよ、マスターは゛今は゛って言ったから今後に期待)」


「バク(寝込み襲って既成事実が手っ取り早いよ)」


 眷属達の怪しい会話が聞こえてくるが、聞こえてないフリをさせて貰う。


 だが、このクエラの反応見て一つ疑問を覚えた。


 このゲームでNPCと恋愛ってできるのか?だ。


 まぁいい、好みのNPCを見つけたらドコまでヤレるのか検証しよう。


「傷心中の所悪いが、囲まれてるぞ。」


 目に付くだけでも、ロックアント、ロックワーム、ロックピープル、の大群に囲まれてしまった。


 全く空気の読めないヤツらだぜ。


 スフィ、クイミー、クエラが戦闘態勢を整える。


「お前達、見てせてやれ・・・蹂躙ってやつをなぁ!」


「ピュイ!(砕けろ!)」


「ぐぎゃ!?」


 スキル【暗黒粘体】により、スフィの体から無数の黒い触手が伸び、敵を捉えて地面に叩き突けていく。


「バク!(眠っちゃえ!)」


「ロワ・・・zzz」


 【暗黒睡眠】により効果範囲内の多数の敵が寝に伏る。


「妖しき光が見せるは虚ろなる夢、暗黒妖術!」


「シャ・・・・・・」


 妖術の内容までは分からないが、多数の敵が行動を停止して棒立ち状態となった。


「「「ダークボール!」」」


 そして最後はお決まりのダークボールでのトドメ。


《職業テイマーLvが9になりました。》


「フハハハハハッ!我が軍は圧倒的ではないか!お前達、良くやったぞ!」


 クエラもさっきまでの落込みが噓のようで安心した。


 問題があるとすれば、カガミさん必要っすか?ってレベルで俺が空気な事ぐらいだ。


「ギギャ!」


 勝利に酔いしれてたら新手の敵、岩石質なムカデモンスターのロックセンチピードが4体出現した。


 本当に空気の読めないヤツらだな!まぁいい、俺も少しは戦うか。


「お前ら空気読めよ、マジで。」


「「「ギャ!?」」」


 黒靄で敵を捕まえ、地面やそこら辺の岩に叩き付けて粉砕。


 圧殺しようと思ったが、思いの外硬かったので諦めた。


《暗黒面Lvが8になりました。》


《基礎Lvが8になりました。》


 スフィ達のお陰で俺が戦わなくて済むのは良いが、そうすると暗黒面のレベルが上がり難くなるのが悩ましいな。


 いや、レベル上げが目的になるのは良くないな。


 戦いたい時に戦う、今のままでいいか。


「この岩山でいいか。よし、お前達休憩するぞ。」


 戦闘を終え発掘用の手頃な岩山を見つけたので休憩に入る。


 鉱石ゲットしてら、やりたかった生産活動ができるぞ!


 そうして俺は生産活動に想いを馳せながら休憩に入った。

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