第4話   序盤でこれはオカシイだろ!

 何もない真っ暗な空間。感じるのは怒り憎しみ,そして僅かな悲しみ。

 

 なぜ負の感情に包まれているかは不明だが、敢えて言うならこの空間に来てから、感情を逆撫でされている様な感覚なんだ。

 

「この光景...チッ、悪趣味だな。」

 

 真っ暗な空間から突如として場面が変わったのだが、目の前に映っているのはリアルでの俺の過去の映像。

 

 理屈は何となく分かるが、人の記憶に干渉するなんてゲームの範囲を超えてる。

 

 法律的に大分グレーゾーンだ。

 

『鏡弥。もうお前のやり方には付いて行けない』


『なぁ鏡弥...PKは流石にやり過ぎだったんじゃないか?』

 

『PKは実入がいい。リーダーは俺だ。俺のやり方が気に入らないならクランから出て行けよ。』


『たかがゲームだろ、マジになるなよ鏡弥!』


 中2の時に友達だと思っていた奴らとやっていたMMORPGで大規模ギルドの奴らを卑劣な手でPKしまくった時の事だな。

 

 あんな奴らを友達だと思っていた俺がバカだった。

 

 この時の事が切っ掛けで俺は人間関係が嫌になって不登校なボッチになった。

 

 まぁ、お陰でアホ共との人間関係にピリオドを打つことが出来たからいい思い出でもないが特段悪い思い出でもない。


『鏡弥。何でおばあちゃんのお葬式に来なかったの!後から行くって言ったじゃない!』


『うん?あぁ、ゲームで忙しかったから仕方ないだろ。大体、大して思い出の無い人間のお葬式に行くなんて時間の無駄だろ。』


バシッ


『鏡弥!何て事言うの!貴方、小さい時におばあちゃんに良くして貰ったじゃない』


『イテェなクソッ!覚えてねぇし、良くしてくれなんて頼んでねぇんだよこっちは!』


 また急に場面が変わって、母方の祖母のお葬式にバックれた時の場面だ。

 

 大体仕方ないだろ、ゲームで忙しかったし、人が多く集まる葬式なんて俺が行く訳ないだろ。

 

 むしろ平気で子供にビンタをする母の人間性が疑わしいし、立派な虐待だ。

 

 そう言えば、これが切っ掛けで母との会話が減ったな。いつまでも過去に囚われてる我が家の母もガキだよな~

 

 ビンタされた以外は普通の思い出だが、この映像に何の意味があるんだ?


『ねぇ、鏡弥君。学校行こう?皆心配してるよ』


『失せろ。大体皆って誰だよ、俺は皆って言葉が大っ嫌いなんだよ。』


『そんな事言わないでさ。ねぇ?また昔みたいに遊ぼうよ』


『おいブス。俺のお前に対する認識は悪質なストーカーと同程度なんだよ。分かったら二度と迎えに来るな。』



 高校入学の一週間後の光景、って言っても一ヶ月前の話だ。

 

 ゲームや転売で忙しい俺に登校を促してる容姿端麗の女子は幼馴染の明空智亜だ。

 

 法律で許されるなら真っ先に殺してやりたいクソ女だ。

 

 こいつは今でこそ明るい性格だが、小学2年の時に転校してきた当時は性格が暗く、中々友達が出来ない状況の中、俺が声を掛けて友達になった。

 

 それからはベッタリ付いて来るようになって、当時は嬉しかったが、今となっては鬱陶しい存在だ。

 

「どうだ。己の悲しき過去を見た感想は?」


 横から語りかけてくる老害カルコス。

 

 また場面が変わり、気づいたら元居た古びた寺院内に戻っていた。

 

 まさか、自分の過去映像を見るのが試練とか言わないよな?

 

 あんなのトラウマでも何でも無い。ただの過去だ。


「フン、知ってるかマスターカルコス?過去って言うのは省みる為にあるんじゃない。開き直る為にあんだよ。」


 やってきた事に後悔は無い。

 

 たった一回の人生なんだ、他人に迷惑が掛かかろうが、悲しもうが自分の欲のままに生きたいと俺は思う。

 

 大体生きてる時点で誰かしらに迷惑掛けてんだから、いっその事開き直った方が人生楽しいだろ。 


「フッハハハ、流石は暗黒面に導かれし者。これにて暗黒面の試練を終了にする!ほれ確認してみよ」


 程度の低い試練だぜ。待てよ?人によっては発狂モノの過去とかあったりするのか?

 

 いじめられっ子の過去とかなら確かに憂鬱なのかもしれないな。


《種族が人間から闇人に変更されました。種族スキルが解放されました。》


《トロフィー【暗黒面の道に進みし者】を獲得しました。報酬5000G、SP10を獲得しました。》


《トロフィー【暗黒面に魅入られし者】を獲得しました。報酬3000G、SP5を獲得しました。》


「な、何が起きてるんだ!?」


 カルコスの闇から作られた鏡で自分の姿を確認すると、目つきが鋭くなり、瞳が金色になっていた。

 

 その他の変化としては若干人相が悪くなったぐらいだ。

 

 見た目の変化以上にビックリしたのはステータスだ。


名前:カガミ Lv1 

種族:闇人

職業:テイマーLv1

適性職業:ニートLv1


HP:50/50 MP50/50 

腕力:5 耐久:5 敏捷:5 

器用:5 精神:5 知識:5  


SP:25


種族スキル

暗黒面Lv1/蠱惑/闇墜とし


職業スキル

テイムLv1/無精Lv1


スキル

簡易鑑定Lv1/採掘Lv1/採取Lv1/調合Lv1/鉱物加工Lv1/

装飾細工Lv1/解読Lv13


所持金額:10200G


【闇人:暗黒面に魅入られ、暗黒面の力を扱う者。】


【暗黒面:世界に流れる闇の力を引き出し、己の力として扱う事ができる。扱える力はLvに依存する。】


【蠱惑:言葉で他者の心を乱し、惑わす際に補正を与える。暗黒面のLvに依存する。】


【闇墜とし:心の弱いモノ、迷いがあるモノ、力を渇望するモノを闇へと墜とす。暗黒面のLvに依存する。】


【トロフィー・暗黒面の道に進みし者:暗黒面に補正。

 獲得条件:紡ぎ人として初の闇人に種族変更】


【トロフィー・暗黒面に魅入られし者:暗黒面に小補正。

 獲得条件:闇人に種族変更】


 いやいや、こんな序盤で種族変更なんておかしいだろ!しかも【暗黒面】ってなんだ?カルコスと同じ事が出来るって解釈で良いのか?

 

 これを情報屋に売れば一攫千金できるが、そんな事はしない。

 

 情報は資産であり力だ。


「改めて自己紹介しよ。我が名はカルコス。お主と同じ、暗黒面の使い手だ。」


「マスターカルコス。暗黒面って何だ...魔法と何が違う?」


 老害カルコス曰く、魔法は内にあるエネルギー、暗黒面は世界に流れる闇の力との事。

 

 故に闇人は暗黒面の力は際限なく使う事が出来るらしい。

 

 また、暗黒面と対をなすのが光明面であり、暗黒面は攻撃に特化しており、光明面は防御に特化している。

 

 光明面と暗黒面の対立は千年以上続いており、未だ決着が着いてなく、光明面の方が数が少なくなったとは言え優勢らしい。

 

 しかも暗黒面は既に滅びたと光明面の奴らは勘違してる様だ。

 

 図書館の下に寺院がある理由も判明した。

 

 暗黒面の古代寺院の上に建てられたのが現在の図書館だそうだ。

 

 あと司書はグルでは無いらしく、カルコスに操られていたらしい。


 暗黒面スゲェ、何でもありだな。


 まぁ一つだけツッコミがあるとすれば.....


「やっぱり某宇宙騎士団の悪役まんまじゃねぇかぁぁ!」


「何を狼狽えとるのか知らないが、一つだけ注意しとこ。暗黒面の力は強大だ。際限なく使えば闇に呑まれると覚えとおけ」


 何となく意味は分かる、俺に力を与えたこいつの目的が不明なのだ。


「どう言う事だ...アンタの目的は何だ!?」


「フッフフ、それは呑まれた時の楽しみにとっておけ。目的は単純だ。其方は異界の紡ぎ手であろう?其方の旅で暗黒面の力を役立ててればそれで良い。」


 言ってる事の意味が分からない。

 

 話を聞いてると特にノルマとかも無く、俺が旅で暗黒面の力を使えばそれで良いらしい。

 

 あぁそれと一応聞いたが、ビームサーベル的なのは存在しないとの事。

 

 こんだけ内容を某騎士団と似せてるんだから、あっても良いじゃないかとは思うけどな。


「もう説明は以上か?いい加減帰りたいんだけど」


「まぁ待て。其方は武器を扱わないのか?」


「お生憎、俺はテイマーだ。武器は無い。」


「通りで弱すぎると思ったわ。成程、魔なるモノ達を使役する者だったか。試練を乗り越えた報酬だ、これをやる。」


「!!...卵!」


 報酬と言われて、貰ったのは黒結晶の様な卵だ。それと、弱いは余計だ。

 

 とりあえず簡易鑑定を掛ける。


【真夜の卵:かつて世界に真なる夜をもたらした魔物の卵。72:00:00】


 欲しかった戦力が手に入った!

 

 こんだけ大層な事が書いてあるんだ、強いモンスターが生まれるに違いない。

 

 最後の数字は孵化までの必要時間か?ゲーム内時間で3日って所だな。

 

 てか、クエストの報酬は職業によって違う可能性が高いな。


「それでは其方の活躍を楽しみにしてるぞ。」


 そして、また俺は闇に覆われていく。

 

 おいカルコス、俺は何回闇に包まれらばいいんだ!いい加減慣れたぞ!

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