第3話 これ別ゲーだろ!

「あの....何処へ向かっているんですか?」


「マスターに呼ばれてますので。」


 司書のお姉さんはさっきからずっとこの調子で、何を聞いても「マスターが~」って返答のみだ。


 このクエスト本当に大丈夫なのか?


 図書館内から地下へ続く扉の先に進んでからずっと暗闇の道を進んでいるのだ。


 こうもずっと暗闇の中に不気味な司書さんと一緒にいると流石に心細くなる。


 大体何で図書館の地下にこんな不気味な空間があるんだ?用途が全くもって不明だ。


 普通だったらゲームだからで済ませられるが、このゲームに限っては何らかの理由がありそうだ。

 

 今一番心配なのは、このイベントが戦闘系のイベントだった場合だ。

 

 多くのゲームでは大きい施設の地下には何かしら封印されてるってのが定番で、その封印された何かと戦闘になったら、Lvの低い俺の負け確だ。

 

 クソッ、いきなりクエストが始まって、準備時間も無しに地下に連行されるとは普通思わないだろ!

 

 故にクエストが失敗してもゲームせいであって、断じて俺のせいでは無い。


「着きました。」


 俺が心の中で毒づいてると、目的地に辿り着く。

 

 目的地はどうやら目の前のデカく黒い両開き扉の中にあるらしい。


 扉が自動で開き、司書さんと一緒に扉の中に入ると、西洋風のボロい寺院内みたいな所だった。

 

 僅かな松明の光があるだけの薄暗い室内を見渡してみると、いくつかの壁画があるだけで他に目立つ物は無い。


「よくぞ導かれし者を連れて来てくれた。戻ってよいぞ。」


 老人のような枯れた声が聞こえた先に目線を移すと、そこにはローブのフードを深く被ってる人間がいた。

 

「だ、誰だ....!?」

 

 一体いつからそこに居た!?いや、そんな事はこの際どうでもいい、このフード野郎はヤバ過ぎる。

 

 俺の生存本能アラートがずっと逃げろと叫んで止まないのだ。

 

 だからと言って逃げ切れるイメージも出来ないし、戦って勝つなんて以ての外だ。


 ゲームバランスおかしいだろ、こんな魔王級の奴が何で序盤に出てくるんだ!

 

 これで俺がキルされたらクソゲー認定して、批判レビューばっか書いてやるからな!

 

「はい。カルコス様」


 司書はそれだけ言うと帰って行った。

 

 あのクソ司書、マジでフザけんな!せめて説明してから帰れよ!

 

 だが分かった事がある。あのフード野郎はカルコスって名前らしい。

 

 名前が分かったからと言ってこの状況がどうにか成る訳じゃないけどな。


「よくぞ来てくれた。暗黒面に選ばれし者よ。」


 喜悦を孕んだ言葉で歓迎してくれるカルコス。

 

 待てよ?歓迎してくれてるって事は上手く運べば戦闘は回避出来るのかも知れない。

 

 いいぜ、ヤッてやるよ!数多のゲームをクリアしてきた俺ならこの難局を乗り切れる筈だ。

 

 今までの情報を元にロールプレイで正解を導き出せば良いだけの事。


 俺は片膝を地に付け、頭を下げる。


「偉大なる暗黒面のマスターカルコス。このカガミ、カルコス様にお会い出来て恐悦至極です。」


 てかローブにしろ、暗黒面にしろ、昔見た宇宙の某騎士団を題材にした映画を思い出す。

 

 予想だが高性能AIがネットの海から、神話や伝記だけで無く、映画とかからもストーリーを参照してクエストを作ってる可能性が高い。

 

 てか、これ本当にESOだよな!?俺だけ別ゲーしてるとか無いよな?いきなり宇宙に行くとか無いよな?


「カガミよ、食えぬな。其方は暗黒面に何を望む?」


 俺には分かる、回答をミスれば即ENDだ。

 

 このクソ野郎は狂人の類で、当たり前の回答なんて望んで無い筈だ。


「恐れながら答えさせて頂きます、私が欲しいのは誰もが私の名を聞いただけで震え上がる程の力、そして...貴方を容易く殺せるだけの力」


「フッハハハハハッ!この私を殺すとは大きく出たな。ならば洗礼を受けるがいぃぃぃ!」


 カルコスは邪悪に笑いながら、両手の指先から放電してきやがった。


「ウアァアァァァウゥゥ!」


 電撃の痛みに耐えながら思考を必死に振り絞る。

 

 完全にミスったな、あの手の狂人は自分の命を狙ってくる奴に好感を持つと思っていた。

 

 こんな事になるなら痛覚設定を50から25%に下げれば良かった。

 

 畜生め、どうせキルされるんだ、怨み言の一つぐらい言ってやる。


「ウアァ...いつか..絶対にぃ、グアァ..テメェをグゥアァ..殺してやるぅぅ!」


 怒りで満ちた笑みを浮かべながら殺意の籠った言葉を放ってやった。


 自分のHPバーがレッドゾーンに入り、あと数ドットって所で自分の死を確信した瞬間だった。


「流石は暗黒面に選ばし者。死を確信しても最後まで絶える事の無いその殺意、気に入った!ハッハハハ」


 電撃が止んだ。そして目の前にはフードを上げ、笑い狂うカルコス。

 

「ハァ..ハァ..遊びにしては度が過ぎるぜ、マスターカルコス」


 老害め、絶対にいつか殺してやる、絶対にだ。


「フン。其方の殺意を試したまでの事、これからが本場だ。闇に沈めぇぇぇぇ!」


 電撃だけでもトラウマ案件なのにまだあるのかよ!?恨むぜ運営。


「なっ!?なんだこれは...!」


 カルコスを起点に発生した黒い靄が俺に纏わり付き視界すらも闇に覆われていく。


「フッハハハハハ、これは試練ぞ。越えてみよ暗黒面に選ばれし者よ!」

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