ケセラキ 〜「弟の義子(でし)」との「座敷わらしべ長者譚(ヘヤリー・テイル)」〜

七熊レン

プロローグ「家主とヘヤリー」

『ヘヤリー』。

 それが、この家に時々、降臨する少女の呼称。

 家族曰く、「儚かよわいい、座敷童子の上位互換」とかなんとか。



 正直、半信半疑だった。

 この現代社会に、『妖精』なんてファンタジー族がはずいし。

 恐らく、『部屋』と『フェアリー』を掛け合わせたのだろうが。

 控え目に言って、センスがいし。



 そもそもだ。

 年甲斐も甲斐かい性もく色気付いた、生ける化石の父親か。

 二言目には『娘がしい』と嘆き、催促していた母親か。



 どちら発信なのかは知らないし、興味もいし、ましてや聞きたくもないが。

 いずれにせよ、ドン引きである。

 現役の女子高生を、そんなふうに勝手に囃し立てるとは。

 しかも折角せっかくつながれた、念願の娘に対してなど。



 世城せぎ 一楽たからは、そう思っていた。

 というか、頭の片隅からも消えかけていた。

 これは完全に、自分の人間性、死生観、刹那せつな主義が原因だろうが。

 良くも悪くも、自分は両親ほど、彼女に興味はかった。



 どうせ、何度か顔を合わせる程度だろうと。

 二人がなくなったのなら、こんな辺鄙な所になんて、もう好き好んで来たりしないだろうと。

 弟の義子ぎしとの関係、距離感なんて所詮、そのくらい塩梅あんばいだろうと。

 そう、高を括っていた。



 結果、思い知らされた。

 自分の認識、警備の甘さ。

 なにより、彼女のヘヤリーっりを。



「……あ……」



 エメラルドを彷彿とさせる、新緑の双眸。

 小学生にしか見えない、か細く幼いサイズ感。

 現実という枠から逸脱した、はかなさと神秘さを兼ね備えた、庇護欲を唆られる、か弱そうなオーラ。



 キッチンに一楽たからの前に現れたのは、そんな美少女。

 改め、ヘヤリーで。



 そんな彼女は、今。

 肩を縮め、眉を垂らし、体をプルプルと震わせ、かすかに涙し。

 こっそり設置されていた、カーテン、カレンダー、ドアなどに隠れ。

 


 何故なぜか、壁にめり込んでいた。

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