燃え盛る火の海より生まれし者よ、我が眼前に立ち塞がりし全ての敵を滅却せし力を示せ!

あずま悠紀

第1話


プロローグ~魔王討伐編 1

『おお勇者よ!死んでしまうとは情けない』

「いきなりゲームオーバーかよ!?」

俺は今現在真っ白な空間にいる。上下左右どこを見ても白一色、どこまで続いているかも解らないこの空間では、自分の体すら認識出来ない。

いや、俺が誰なのかという事ならわかるか……

名前は神凪悠斗、性別は男、年齢は17歳の高校三年生、身長170cm体重55kgといたって普通の体つき、顔は可もなく不可もなくというところだ……多分。家族構成は父と母と俺の三人暮らしで、実家は田舎の山奥にある古い神社、父はそこの宮司をやっている。あと妹が一人いて中学二年生なのだが、俺と妹は同じ顔をしている。いわゆる一卵性双生児と言うやつで、親ですら見分けがつかないらしい。俺も妹も父に似たかったのだが、残念なことに髪の色だけが違ったせいで完全に同じにはならなかった。と言っても双子なので目や鼻などのパーツ自体はほぼ同じなんだが……

そんな平凡な家庭に生まれたはずの俺になぜこんな事になったかというと……

時はさかのぼること一時間前、学校から帰宅途中にトラックに轢かれそうになった少女を助けようとして代わりに自分が引かれてしまったのが原因だ。

正直自分でも馬鹿なことをしたと思うが、体が勝手に動いてしまったものは仕方がない。しかもそのあとの意識が無いため自分に何が起こったのかもわからない状態だ。

その後あの世的なところに行って閻魔大王の前で裁判を受けさせられているのかなと思ったら突然目の前が真っ暗になり気づいたらここに居たわけだ。

『ようやく落ち着いたようじゃな?』

すると目の前に一人の老人が立っていた。見た目は70代後半くらいで白い顎鬚を蓄え杖をついている姿はまさに賢者と言った感じである。

「あ、あなたは誰ですか?」

『ワシはこの空間の管理をしている神様じゃ』

「か、神様……」

いきなりファンタジーな展開だな、おい!?

『お主には謝らなければならんことがあるんじゃ』

「謝る?」

神様が言うには俺は本来死ぬはずではなかったそうだ。なんでも寿命はまだ先だったのだが、不慮の事故で亡くなったとのことだった。普通ならそのまま輪廻転生の流れになるところを、魂の状態のまま現世に留められていたのだという。

そして今回の出来事で肉体を失った俺を転生させるためにここへ連れてきたのだと説明をされた。

「それで、なんで俺なんです?他にもたくさん人が居たでしょうに」

『実はのう、今回はたまたま運悪くお主しか残っておらんかったのじゃ』

なるほど、つまり本来は100人近くいたのだがその内の数人を適当に選んだというわけか……酷い話だ。

しかし転生か……最近ラノベなどで流行っているやつだな。まさか自分の身に起こるとは思わなかったが……

だが断る!!

「すいませんが転生の件は無かったことにしてください」

『なんじゃと!?』

「俺にはまだやらなければならないことがありますので」

そう、今の俺にはやらねばならない事があるのだ。そのためにはまず元の世界に戻る必要がある。その為にはやはり召喚魔法しかないだろう。しかし今の魔力量ではおそらく不可能……ならばどうするべきか……

その時ふと脳裏にある光景が浮かんだ。それは自分が良く知る人物であり友人でもある少年の姿であった。

(そうか!その手があったか)

これならいけるかもしれない!そう思った瞬間、自然と笑みが溢れていた。

『どうしたんじゃ急に笑い出して?』

どうやら顔に出てしまっていたようだ。まあ悪いことではないし気にすることもないだろう。

「いえ、ちょっと思いついたことがあって」

『ほう、何を思いついたんじゃ?』

「ちょっと知り合いに連絡を取りたいのですがよろしいですか?」

『構わんぞい、ただし時間は10分だけじゃ』

「ありがとうございます」

そう言ってスマホを取り出し電話をかける。相手は幼馴染でもあり親友でもある男だ。

数コール後、電話口から声が聞こえた。

「もしもし?どうしたんだこんな時間に?」

「ああ悪いな祐介、今からお前の家に行ってもいいか?」

「ん?別に構わないけどなんかあったのか?」

「いやなに少し確認したいことがあってな」

「わかった。じゃあ待ってるよ」

そうして通話を切り、早速転生の準備に取り掛かることにした。

まず行うべきことは魔法陣の作成だ。これに関しては問題なく出来る自信がある。なにせ今まで幾度となく描いてきたものだからだ。それに足りない分の魔力を補充するだけでよいのだから簡単だ。

問題は詠唱だ。これにはどうしても必要となる呪文がある。その呪文というのが……

『異世界への門よ開け!』だ これで発動に必要な条件は整ったことになる。あとは残りの時間内に魔法を発動するだけだ。

それから数分後、ついにその瞬間がやってきた。

パァーーーッ!!! 眩い光と共に足元に巨大な魔方陣が出現する。さらに魔方陣の中央に立つ俺を中心に周囲の景色が徐々に変わっていくのがわかる。そして最後に見たものは神様の驚いた顔だった。

こうして俺はこの世界から消えたのだった……

2 あれから何日経っただろうか?意識が戻ると俺は森の中にいた。見渡す限り木ばかりで人の気配はまったくしない。ここが日本なのかさえわからない状況だ。とりあえず今は現状を把握することが先決だ。そう思い立ち上がった時だった。

ゴソッ 後ろで何かが動く気配がした。慌てて振り返るとそこには一匹の狼のような生き物がいた。ただ普通の動物と違うところがあるとすれば頭に2本の角が生えており目が赤い事くらいだ。

次の瞬間、獣はこちらに向かって飛びかかってきた。とっさに横に飛んで回避したがその際にバランスを崩して転んでしまう。急いで起き上がろうとした時にはすでに遅く、目の前に牙を剥き出しにした獣の姿があった。

ああ、これは終わったな……と思った矢先、不意に背後から声が聞こえた。

「ファイアボール!」

その声に反応するかのように、獣の真上に突如として火球が出現し凄まじい速度で獣に襲いかかった。突然の奇襲に獣はなす術もなく焼かれてしまう。一瞬の出来事だったが目の前で起きた出来事は間違いなく現実であると認識した瞬間、安堵からか全身から力が抜けていくのを感じた。同時に緊張の糸が切れたせいか、急激に眠気に襲われその場で意識を手放してしまった。

「う、うーん……」

目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。ここはどこだろうと体を起こしながら辺りを見渡すと、少し離れたところで誰かが座っているのが見えた。それは年老いた老人でこちらに背を向ける形で何やら作業をしているようだった。

「目が覚めたか?」

老人はそう言いながらこちらに顔を向けた。その顔を見た瞬間、心臓が跳ね上がるのがわかった。何故ならそこにいたのは老人ではなく1人の少女だったからだ。

歳は15歳くらいだろうか?身長160cmくらいの小柄で華奢な体つきをしており、髪は肩にかかるくらいの長さで銀色、顔はとても整っており瞳はエメラルドグリーンでまるで人形のように美しかった。服装は白のワンピースを着ておりその上に水色の薄いカーディガンのようなものを羽織っていた。また頭の横に狐耳があり腰からは髪と同じ色の尻尾が生えていた。おそらく人間ではないだろうと思ったが何故か怖いという感情は湧いてこなかった。むしろその美しさに見とれてしまっていた。

すると少女は立ち上がり俺の方に向かって歩いてきた。そして俺の目の前まで来ると右手を俺の顔の前にかざしてきた。そして……

パチンッ! 少女が指を鳴らすと同時に俺の頭の中で火花が散ったような衝撃を感じた。そしてそのまま意識が遠退いていくのを感じた……

3 気がつくと知らない場所に居た。周囲は真っ白の壁に覆われていて広さは学校の教室ほどあり部屋の真ん中には木製のテーブルと椅子が置かれていた。そしてテーブルの上にはティーセットが置かれており、それを囲んでいる椅子に俺と先程の少女と見知らぬ少年が座っていた。

「さて、そろそろ本題に入ろうかの」

そう言って目の前の席に座る老人は話し始めた。彼の名はゼノン=エスペルトといい、ここは俺がいた世界とは別の世界で俗に言う異世界だということがわかった。ちなみに目の前にいるのは見た目60代ほどのダンディーな男性で、あの森に現れた獣を魔法で倒したのもこの老人らしい。つまりあの獣はこの老人にとって敵というわけになるわけだ。そんなことを考えている間にも話は進んでいき、どうやら俺は召喚魔法の実験台として呼ばれたらしいのだが肝心の召喚先があの森だったらしい。そのため俺が気を失っている間に近くの街まで運んでくれたようだ。

しかしそうなると疑問が残るのだが何故この少年は一緒にいるのか?すると老人の話によるとこの少年の名前はロイドと言って今現在この老人の家に居候させてもらっているらしいのだが、どうやらこの老人の孫らしいのだ。確かによく見れば髪の色や目の色などの特徴が似ていることから納得がいった。だが一つ気になることがあったので聞いてみたところ、なんとこの少年も魔法使いなのだそうだ。その証拠に先ほどの戦いで使っていた魔法は彼が使ったもので、本来は自分で使うためのものだったそうだ。だが初めて扱う魔法に失敗でもしたのか、俺に誤爆してしまったというわけだ。

「すいませんでした!」勢いよく頭を下げる少年に対し俺は気にしないでいいと言ったのだが、それでも罪悪感があるのか何度も謝罪の言葉を口にしていた。

そんな少年の様子を横目で見ていた老人は呆れた様子でため息をつき、口を開いた。

「いい加減にせんかロイド、いくら何でもやりすぎじゃ」

「だけど爺ちゃん……」

「言い訳無用じゃ」そう言うと老人は懐からナイフを取り出して少年に向けた。突然の行動にその場に居た全員が驚きの表情を浮かべる中、老人は少年の背後へと移動したかと思うと首根っこを掴んで持ち上げた。そしてそのままテーブルに叩きつけると馬乗りになって殴りつけた。それも一発だけでなく何度も何度も……少年は抵抗することも出来ず、ただただ殴られるしかなかった。その光景を見た俺は止めさせようとするがその前に少女が動き出していた。彼女は静かに老人に近づくと手を上げて振り下ろした。バチーン!大きな音が周囲に響き渡り思わず目を閉じてしまった。恐る恐る目を開けるとそこには左頬を赤く腫らした老人と仁王立ちする少女の姿が見えた。そして今度は反対の頬を叩いたかと思えば再び顔を殴る少女……やがて気が済んだのか叩く手を止めると、二人は何事もなかったかのように元の席に戻った。あまりにも平然とした顔で席につくものだから俺もどう声をかけたものかわからず、とりあえず一言だけ告げた。

「お、お疲れ様でした……」

4 ようやく話が終わり俺達は家の外まで案内された。そこで別れ際に老人は俺にこう告げてきた。

「お主のことはこれからしばらく様子を見させてもらうぞい」

「え?なんでですか?」

「お主がどんな人物なのか見極める必要があるからの」

なるほどそういうことか……まあ仕方がないことなのだろうが正直面倒な話だ。だがそんなことを言ってもしょうがないので素直に承諾することにした。

その後すぐに帰るわけにもいかず街の近くまで送ってもらうことになったのだがここで問題が発生した。実は先程の戦いで体力を使い果たしてしまい歩けない状態になってしまったのだ。幸いにもすぐ近くに宿があったのでそこに泊まることにしたのだが、問題は料金だった。この世界に来たばかりの俺にはこの世界の通貨なんて持っているはずもなくどうしたものかと考えていると、見かねた少女が自分が払うと言ってくれたのだ。さすがに年下の女の子に払ってもらうのは申し訳ないと思い断ろうとしたのだが、彼女の好意を無下にするわけにもいかないので甘えることにした。

しかしこのままでは男としてのプライドに関わるため何とかお金を稼ごうと考えた結果、思い付いたのがギルドへの登録だ。どうやらこの世界では魔物と呼ばれる生物が存在しているらしく、その討伐を行う者達のことを冒険者と呼ぶそうで、基本的に誰でもなれるとのことだったので早速ギルドへ向かうことにした。

5 翌朝、目を覚ました俺は身支度を済ませてから朝食を食べるために一階へ降りた。ちなみに昨日泊まっていたのは一泊銀貨5枚(5000円)の部屋でした。

カウンターで料理を注文し待っている間、ふと壁に貼られている依頼書に目をやった。そこには薬草採取からゴブリン退治といった様々な仕事の依頼が貼ってあった。その中から適当なものを見繕っておこうと思っていると背後から声をかけられた。振り返るとそこにいたのは一人の女性だった。年齢は20代半ばといったところだろうか?茶髪のショートヘアーに青い目で身長は170cmくらいあるだろう。服装は茶色のジャケットに黒のタイトスカートという格好でいかにもOLという感じの女性だった。そんな彼女が俺の顔を覗き込みながら声をかけてきた。

「あなた見ない顔ね、もしかして最近この街に来たばかりなのかしら?」

そう聞かれたので正直に頷くとなぜか嬉しそうに笑みを浮かべていた。その理由を尋ねてみると、どうやら彼女もつい最近この街にやってきたばかりだったらしく自分と同じ境遇の人物と出会ったことが嬉しかったらしい。さらに同じ日本人ということもあり話が弾んだこともあり食事が終わるまでの間、話し込んでいた。

6 彼女との会話に夢中になっていたせいか気がつけば昼を過ぎてしまっていた。慌てて店を出ようとしたのだが彼女が代金を払ってくれると言うのでありがたくご馳走してもらうことにした。その後は彼女と世間話をしながら大通りを歩いていたのだが、その際にいくつか有益な情報を手に入れることができた。まずはお金についてなのだが、この国では銅貨・大銅貨・銀貨・金貨・白金貨という順で価値が上がるらしく、それぞれ10枚で一つ上の硬貨と同価値になるらしい。つまり日本でいう100円=1万円と同じようなものだと思えばいいだろう。ただ例外として小粒金と呼ばれる貨幣は存在するようだが今のところ縁はなさそうだ。また次に武器や防具などの装備については、まず最初に店に行って品定めをするところから始める必要があるそうだ。その理由は素材の持ち込みの場合だと加工して仕上げるまでに時間がかかってしまうからだ。中にはその場で作ってくれるところもあるそうだがそういう店は大抵が貴族御用達の店なので普通は無理だと言われた。最後に魔法に関してだがこれは魔力の有無によるところが大きいようだ。例えば火属性の魔法を使うには魔力を火に変換する能力が必要になり、それを習得するにはかなりの修行が必要になるということだ。その話を聞いて思い出したことがある。そういえばあの森にいた獣は炎を操っていたような気がする。おそらくあの強さからして相当な実力者なのだろうと予測できる。もしあんな奴と戦う羽目になったら勝てる気がしないな……などと考えていたその時、突如後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこには先ほどの女性が立っていた。しかも何故か不敵な笑みを浮かべているように見えるのだが気のせいだろうか?

「ねえ君、私と勝負しない?」

7 突然の発言に思わず固まってしまった。何故なら目の前にいる女性が自分と勝負したいと言ってきたのだ。いったい何故こんなことを言い始めたのだろうか?そもそも俺と彼女とでは実力の差がありすぎると思うのだが、彼女は一体何を考えているのだろう?もしかしたら俺をからかっているのだろうか?そう思った俺は冗談半分でこう聞いてみた。

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