第28話 ヒーリングタイムwithチャチャ
朝のヒーリングタイムに乱入者が現れた。
チャチャくんである。
加地から聞いたのか、朝早くから森林と日光を浴びているところに息を切らしたチャチャくんが来たのだ。
「あっ、本当にいた!」
「……ん、おはよう」
寝起きのような心地で反応するオレに対し、チャチャくんは元気溌剌だ。
朝から部活動する人たちは違うな。
「こんなとこで何してんだ?」
「日光浴。ここでボーッとしてるの、最高に気持ちが良いんだよ」
「そうなのか」
オレがベンチの端に寄ってスペースを空けると、チャチャくんはすんなり座って虚空を見上げた。
少しだけ口が開いている。
彼なりにボーッとし始めたようなので、オレも再びボーッとする。
この時間はとても大事なものだ。
睡眠こそしっかり取れているが、高校に入ってから環境が変わったせいか、連続的に色々と変化が発生している。
睡眠とはまた違う形で心を休めて整えることが重要なのだ。
その重要度、優先度が増していると感じるゆえ、あまり邪魔されたくない。けれど今のチャチャくんのようにやすらぎを共有できるなら問題ない。
……優先度を高めているということは、オレは自覚がなくても心労を感じているかもしれない。
そう考えると、形の無い何かに観られているような感覚すらある。最近は妙な悪寒を感じるぐらいだ。
もしかしたら、あの夢で観た長いひげの神様的おじいさんが見ているのだろうか。
モデルを始めた時から増えているファンの気持ちや、しばらくしてから現れたネットストーカーの感情の矛先を向けられているのとはまた違う感覚で、それを掴み取れない不安が疲れに繋がっている。
……、だけどもそれはどう足掻いたところで不明なのだ。単なるオレの感覚でしかなし。
オレに出来ることはいつも通りに一日を過ごす、それだけだろう。またこの感覚がはっきりと像を結んだ時に改めて対応を考えればいい。
予鈴の十分前。セットしておいたアラームが時間を教えてくれる。
心身のリラクゼーションから帰ってきたチャチャくんはそこはかとなくシュッとした面持ちになっていた。
「なかなか良かったと思う」
「そりゃ良かった。ところで、オレになんか用事でもあった?」
探しているような雰囲気でここに来たから。
オレがそう訊くと、チャチャくんはそういえばと用件を思い出したようだ。
「七星がサッカー部に入る気は無い、っていうから誘いに来た。一緒にサッカーやらないか?」
「やらないよ。加地に聞いたんじゃないの、オレは他にやりたいことがあるし、バイトもしてるから無理だって」
「そういう事情は特に聞いてない。俺はお前とサッカーやりたいと思って、お前の連絡先を聞いただけだ。そうしたらここに行ってみろ、って加地が言うからさ」
加地め。少しは説明してくれてもいいのに。
チャチャくんが善意とか好意で誘ってくれているのは分かるので、なんとなく罪悪感を覚える。逆にチャチャくんは穏やかな表情をしている。
「あれだけサッカーが上手くて、他にやりたいことがあるってのもすごいな。そっちはサッカーよりも上手いのか?」
「上手い下手の話じゃないかな。オレが本気で打ち込めるのはサッカーじゃないってだけ。球蹴って遊ぶくらいならともかく、試合に出てなんとしてでも勝つみたいな情熱がないからさ」
「そんなんでよくあれほど大暴れ出来たもんだ……ちょっと羨ましいよ」
「別に才能でもサッカーの技術でもないよ、あれは。チャチャくんも訓練すれば出来るようになるんじゃない?」
チャチャくんは興味を引かれたのか、眉を跳ねた。
しかし、長々と話していたせいで予鈴がここで鳴ってしまった。そろそろ教室に向かわないと。
それじゃあ、また。オレがそう言う前にチャチャくんは自身のスマホを差し出した。
「連絡先交換しようぜ。遊ぶくらいならいいんだろ?」
「うん、まあ、それくらいならね」
最近なんだかこの流れ多いなあ、と思いつつも素直にスマホを操作する。七星遥に知り合い以上の人が増えるのは嬉しいことだ。
チャチャくんと『アドセル』のコードを交換する。今日はもちろん間違えていない。
「それはそうと、俺はチャチャじゃねえからな。チヤベだから」
「えっ、ダメ? 覚えやすくて可愛らしくていいと思ったんだけど」
「可愛らしくても嬉しくねーの。……ったく」
『チヤベタイサ』とスマホにも記載されたが、この後どうしてもチャチャの字面が頭から消えなかった。ダメなのか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます