第15話 新生活が落ち着いたらやるコト
実力テストも終わり、授業が始まって一週間もすると、生活はだんだんと落ち着きを見せ始めた。
バイトの許可も問題なく取れたし、新しく友達も出来た。滑り出しとしては上々だろう。
今、オレが抱えている予定としては、学校に許可がもらえるまで待ってもらっていた仕事の撮影と、あとは加地と約束したミニゲームへの参加くらいだ。
部活については色々見学させてもらったが、あまりピンとくる場所がなくて帰宅部が有力視されている。いつでも入部届けは書けるしな。
オレも高校生活におけるルーティンが定まりつつあり、すこぶる調子が良い。
朝は五時頃に起きて近所の公園でランニングをする。
帰ってきたらシャワーで汗を流し、朝食。大体お父さんは死んだように寝ているので、お母さんと予定を確認し合う。
たまに電車がかち合う朝練に向かう加地と話しながら登校して、始業時間までビオトープの奥で日光と森林を浴びる。
授業を受けて、放課後は用事があればそれをして、なければ図書室で宿題を終わらせてから帰る。
帰ってからは自由時間だ。
七時くらいに晩飯を食べたら、翌日の準備などをして十時頃には就寝。
健康を生み出すサイクルを綺麗になぞっている。
これで不健康になるのは病気を持っているか、ストレスがヤバいかのどっちかだ。
なお、問題というか厄介事も一件抱えている。
言うまでもなく比良さんの弟子入りの件だ。
モデル志望でもないのに、ただ「すごかったから技術を身に付けたい」と来た。純粋なのかアホなのか、感化されやすすぎるだろう。純粋にアホかもしれん。
ここに関してはもちろん拒否した。
オレも好き勝手言う事は出来るけど単なる若輩者だし、人の指導なんて難しいことに手を付ける余裕は無い。
それに謙虚な言葉を並べたが、オレとてその技術を糧にする人間だ。たまたま同じクラスになって数日話すようになっただけの相手にタダであげるほど、これまでに培ってきた技術をどうでもいいモノだとは思っていない。
比良さんが希望すれば姿カタチを観て、感想を述べるくらいはしても良い。友達だから。
弟子とか、そういう話はやっぱり違うよな。
その場では「だよね~」と比良さんも冗談っぽく流していたが、まだ諦めていない雰囲気があった。第三者からの視界写りを気にする様子が見受けられる。
イメージ訓練はオレが伝えたから好きなだけやってくれて構わないんだけど、授業中も結構な頻度で視線が刺さってちょっと鬱陶しい。
ともあれ不穏はあれど、荒波を乗り越え、穏やかな日常を迎えたと言えよう。
穏やかな週末休みに何をするか。
そんなことは前世から決まっている。
『アドセル』に載せる写真の撮影だ。
◆ ◆ ◆
モデルの仕事で得た収入はオレが自由に使っていいことになっている。
金の使い途を予想出来るからだろうが、変な使い方をすれば両親から監査が入ってストップされるのは想像に難くない。なので、大きな金額を動かす時は概ね正直に用途は申告するようにしている。
額の小さな順番でいくと、まずは交際費。
月に一万円ほど電子マネーに入れておけばおおよそ事足りる。オレが学生だからか、仕事の付き合いでも少なめの支払いにしてくれることが多いし。オレも歳下の子とお茶する時は払ってあげるようにしているが、そもそもオレより歳下の知り合いがあんまりいない。
それから身だしなみ関係の出費だ。『メタモルフォーゼ』で調整可能なのだが、美容院にも行かず髪の長さが変わらないのは人間辞めてしまっている証左だ。髪を切ったり、保湿用にハンドクリームを買ったりしていると、それなりに嵩んでしまう。
次に撮影に関わる費用。服は普段遣いもするから被服に含んでいいかもしれないが、自作した衣装などもあるのでこちらに数えている。他に小道具やメイク、場合によっては時間貸し撮影スタジオの料金、カメラマンをお願いする時はお礼や経費もかかる。
そして現状最も瞬間出費の大きい項目は、トランクルームである。
息子の部屋に入ったら魔法少女の服がトルソーに掛かって全キャラ分揃ってるとか嫌だろ? ウチのお母さんは写真撮らせろって言うかもしれないが、オレはお母さんにそう言われるのも嫌なのでちゃんと保管場所を用意することにした。
単純にオレの部屋に服を仕舞う場所がないという切実な理由もある。
ウィメンズは布の嵩張る服が多い。特にキャラクターコスチュームなどは最たる物だ。その上オレが普段着るのはメンズだ。家のクローゼットを七割メンズ、三割ウィメンズにすると、部屋の二十割がウィメンズで埋まる。
なので、オレがよく使うスタジオの近くにトランクルームを借りているのだ。二部屋。
両方ともそこでは最大の四畳を借りているのだが、そろそろ三部屋目が必要になりそうで整理しなくてはならないとは思っている。
すでに出費が一般的なサラリーマンの初任給より大きくなってしまっているのはお父さんもお母さんも把握している。しかし必要性があることを説得し、どうやら似たような理由で二人も家の外に倉庫を借りているそうなので話が通った。公序良俗に反さなければ良いとのこと。反している気はするが、セルフなのでセーフだ。
撮影や日常で使う電子機器は大体お母さんからのお下がりで、オレの負担は全くのゼロ。
お母さんは新しい機械が出ると試してみたくなってしまう人間で、手に馴染まないとそこらへんにポイとしてしまう質の人間でもある。
オレとお父さんは、お母さんがポイした機械を試してみて気に入ったやつはもらい、要らないやつはネットバザーで放出している。放出されて得た資金でまた新しい機械を買ってくる、そんなウィンウィンサイクルだ。
ここまで金額の発生する項目に関して、オレは全て自分のギャラ等から支払いをしている。税金も払ってるし、ぶっちゃけ自立可能なんだよ。しないけど。
通信費。
これだけは例外的にオレが発生させた全ての支払いを親が持っている。
『アドセル』の課金とか、怪しいアプリのガチャに天井まで突っ込んだやつとか、オレの代わりに全部支払ってくれる。そういう話になっているのだ。
金額明細は全部親に行くから『アドセル』の月額はともかく、覇権ゲーム『夜天の宿命』でピックアップガチャに七万入れた時はガチ詰めされた。
怪しい課金は出来ないということだ。
――例えば三人目の『アドセル』アカウントを取得する、といったような。
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