第2話 入学式に行こう
高校を探すにあたって、まず優先したのは校則が緩いこと。
特にアルバイトの許可については必須だ。
それから制服のデザイン――もある程度は気にしたが、それよりは偏差値を優先した。
前世のオレがアホだったように、今世のオレも勉強が出来る方ではない。勉強のタレントは取ってくれなかったらしい。
頑張って勉強して限界まで上げた偏差値よりも少し下がるぐらいのところ。それぐらいが無理なく勉強を頑張れるレベルだろう。県下一番みたいな進学校は無理だが、三番とか四番くらいならなんとか。
あんまり偏差値が低すぎても学校の治安とか悪そうな偏見がある。授業をちゃんと聞いて宿題やったら、人並みの学力を得られるぐらいのレベルは求めてもいいはずだ。
そんな感じで選んだのが、ここ、私立豊作大学附属高等学校だ。
通称は豊大附属。
進学校の部類ではあるけれど普通に頑張れば内部進学が可能で、そのまま豊作大学にエスカレーターで上がれる。豊作大学はその名の通り、農業など自然科学に強い。家畜などもいるようで、授業によっては大学の構内に出入りすることもあるようだ。『メタモルフォーゼ』なんていうタレントを持っているオレが生物の分野に興味を持つのは当然であり、うってつけの学校と言える。
無事に受験を終え、中学を卒業し、そして間もなくオレは入学を迎えようとしていた。
入学式の朝、写真を撮りまくる両親を置いて、駅に向かう。お母さんは後から式に合わせて来ることになっている。
駅のホーム、後方車両の方へと歩いていくと待ち合わせの相手がいた。
「よー、セブン」
「おはよ」
地元の中学から同じ高校に上がる男友達だ。
ただオレの知っている相手ではなくなっていた。
「髪の毛どうしたの、突然。高校デビュー?」
「昨日、とっさに思いついてよ、どう?」
こいつは苗字を馬、名前を鹿という。馬鹿は髪の毛をマッ金金に染め上げてきてしまっていた。
「あのさー、確かに校則ゆるいけど式典でそれやったら怒られると思うよ」
「えっ、マジ? ヤバいかな?」
「ヤバいけどもう無理でしょ、加地は諦めて怒られなよ」
本当のこいつの名前は
やってきた各停の電車に乗って揺られていく。
「つーか、セブンは変わんないのな」
「変えるのも面倒くさいし、学校ではちゃんと授業受けたいんだよね」
「じゃあお前のバイトのことはあんまし言わない方がいいんかな」
「オレが何をしてるかを黙っててくれたら嬉しいぐらい。まー、別にバレてもいいしね」
のんびりと答えて、オレは分厚い眼鏡の位置を直した。
これぐらい分厚いと、角度が付いた時に相手から内側が見にくくなる。前髪も長く伸ばしていて、目元を隠しがちだ。女子のように横や後ろ髪も長く伸びており、オレはそれを一つにまとめておさげにしていた。
髪が長いと変に目立ってしまうこともあるが、これは趣味のために仕方がない箇所だ。
男子用の制服を着用しているので性別を間違えられることもそうそう無いはずだと思っている。
「そういや部活はどうすんだ? どっか入る?」
「オレはバイトもあるしなあ。活動日が少なくても良さそうなら、文化部のどっかに入りたい気はする」
「やっぱ運動部は無しか。ちぇっ、セブンがサッカーやってくれたら全国行けるぜ、きっと」
「サッカー好きだけど、練習で時間取られるからなー。サッカーより優先したいことがあるから、悪いな」
加地は中学時代もサッカー部だったから、高校でもサッカーをやるのだろう。
オレも運動自体は好きだし、おそらく
ただ熱量的には「自分でやりたい時にやるスポーツが好き」というくらいで、「四六時中ボールに触っていたい」なんてやつを押しのける気にはならなかった。部活の練習は辛そうだし。
「今日って入学式の後、何やるんだっけ?」
「ホームルームのはず。教科書とか時間割とかもらって解散じゃないかな。自己紹介の時間とかはあるかも」
「へー、部活の話が無いなら帰りも一緒に帰ろうぜ」
「どうだろ? オレは入学式に親が来るから、そっちと一緒に帰るかも」
「あー、そいやウチもそうか……。帰る時に話しゃいっか」
ぐだぐだと話をしている内に桜糸満町駅に着いた。
続々と降りていく人たちの中にもオレたち同様、真新しい制服に身を包んだ新高校生が何人も混じっている。
現時点で分かっている豊大附属の難点は、東京都内にある学校なのに駅から遠いことだ。最寄り駅から歩いて十五分もかかるようなところにある。
「あの子可愛いなー。同じクラスになれねえかな」
「結構クラス多いしな、なれるようにオレも祈っておいてあげるよ」
「相変わらずセブン、お前は余裕だな……」
加地が妬ましそうにオレを見る。
オレのバイトがバレたら女子が寄ってくるのは間違いないし、加地は中学の時のことを知っている。ハーレムみたいになってたのを羨ましく思っているんだろう。
しかし、オレには明確な基準がある。
「確かにモテることはモテるけど、あんまり良い性格の人とはお近付きになれないよ。近すぎるトコで女同士のバトルとか始まると怖いぜ?」
「贅沢なこと言いやがって」
オレは『メタモルフォーゼ』の訓練に訓練を重ねて、今となっては傾国の美女にすら変化できるようになっていた。
大概の女より綺麗な女が身近にいるんだから目が肥えて当然であり、そうなると見た目の美醜とかよりも所作や心根の美しさを知りたくなるようになった。
オレのようにタレントを持っていなくても、見た目は作ろうと思えば簡単に金で作れる。
内面も作れないことはないが、時間が必要だ。
長い時間をかけて作り上げた内面は、偽物だとしてもその人がそうありたいと思って作った物だ。
オレはそれを偽物だとは思えない。匠が鈍らから鍛え上げた名刀に近いのではないか。
一つのコトに時間を注ぎ込むのが苦手なオレからしたら、それは尊敬すべきことだ。
頻繁に本性が現れるとか、本性がちょっとヤバいとかでなければ受け入れられる。
「加地もサッカーで活躍すればモテるよたぶん」
「そうかな……そうだな!」
「あと金髪はやめておいた方がいいね」
「えっ、似合ってない?」
「どクズのチャラ男みたいになってるよ」
マジかよおぉ! と大声で嘆く加地に、周囲から不審な目で見られていることを教えてやるべきか悩んだ。
悩んだまま学校に到着し、校門で受付をして、体育館でそれぞれの席に別れた。
まあいいか、別に教えなくても。
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