第50話 普通じゃなくて、二人で幸せになろう

「佐藤君、好きです」


 その瞬間、花火が打ちあがった。

 突然のことで、頭が真っ白になる。


 環奈は満面の笑みを浮かべていた。


 早く――返事がしたい。


 早く、心の思いを打ち明けたい。


 まるで永遠のように思えた花火が終わった瞬間、俺は環奈の名前を呼んだ。

 

 自分が連れてきたのに、花火のことは頭から綺麗さっぱり消えていた。


 気持ちが、抑えきれなかった。


「俺も環奈が大好きだ。ずっと、一緒にいたい」


 海外に行くかもしれないと聞いてから、ずっと不安だった。

 行ってほしくない、行くな、そう強く思っていた。


 そんな気持ちも込めて言った。


 彼女はそれをわかってくれたのか、ゆっくりと頷く。


 浴衣で隠れて見えなくなっていたが、俺がプレゼントしたネックレスがキラリと光る。


「どこにも行かないよ。佐藤君、これからはずっとに一緒にいてね。――大好きです」

「俺もだ。環奈」


 浴衣を着ている彼女の首筋がいつもよりも色っぽい。

 両手で肩をゆっくりと掴み、顔を近づける。


 ふわりと、環奈の香水の匂いがした。


「環奈、好きだ」

「私も――」


 ――俺は環奈と唇を重ねた。

 

 ゆっくりと確かめ合うように触れ合う。


 ずっとこうしたかったんだと、自分でもハッキリと理解した。


 環奈のことが、好きだ。


「佐藤君、大好きだよ」


 身体を強く抱きしめる。

 環奈のことが、愛おしくてたまらない。


 ああ――好きだ。


 ◇


「お、やっときたな!」


 自宅近くの公園で、高森と朱音と紬が待ってくれていた。

 俺たちに気づいた高森が、手を振る。


 けれども……どんな顔をしたらいいのかわからない。


 なんて言ったらいいのか……と考えていたら、朱音が明るく言う。


「ほーん、環奈、太郎と付き合ったんやな」

「え、ど、どうしてわかったの!?」


 環奈が顔を真っ赤にする。

 隣にいた紬も笑みを浮かべていた。見事誘導尋問にひっかかったのだ。


「おめでとう、環奈ちゃん、私は完敗です!」

「うちは負けたとは思ってないけどな! だって恋愛生存率は一パーセントにも満たへんねんで! つまり、まだまだチャンスがあるということや!」

「ほほう、いいことを知っていますね朱音さん!」


 申し訳ないと考えていたことがおこがましいほど、二人はあっけらかんとしていた。

 ホッとしていると、高森が近づいてくる。


「ったく、おせーんだよお前はよ。ま、おめでとう。天使さん泣かせんなよ」


 右拳を突き出して、ニカッと笑う。


「ああ、ありがとな」


 そして俺も拳をコツンと合わせた。


 幸せを噛みしめていると、朱音がぼそりと言う。


「太郎、環奈を泣かせたらネットニュースに載せるからな」

「それはやばいだろ……って――」


 そういえば忘れていた。

 環奈は、活動休止しているアイドルだ。


 俺とは一度噂になっている。

 もしこのことが世に出回れば大変なことに――。


「佐藤君、大丈夫だよ。心配しないで、私も考えてるから」

「あ、え、あ、はい……わかった」

「いつも心配してくれてありがとうね。でも、私だって強いんだからね? なんでも一人で考えこまないで」

「……そうだな。すまなかった」


「二人の世界禁止やー! まだうちらおるんやでー」

「そうだそうだー! ダメだぞー!」

「俺も彼女がほしいぞー!」


 俺には最高の仲間、最高の友達、そして最高の環奈かのじょがいる。

 もっと、皆を頼ろう。

 

「わかったよ。じゃあ、帰ろうか」


 そうして俺と環奈は、普通契約を終え、彼氏と彼女となった。


 ◇


 夏祭りから少し時が経ち、全員で空港に来ていた。

 朱音が、フランスのパリへ戻るからだ。


「環奈、また遊びに来るからそんな泣くなやー。うちも寂しいねんで」

「うん……ごめんね。私も行こうとしてたはずなのに……」

「大丈夫やで、また会えるしなー」


 大きなスーツケースを片手に、朱音が環奈の頭を撫でる。


「朱音さん、ありがとうございます! それと、復活ライブ楽しみにしてますからね!」

「もうちょい先やけどなー!」


 紬の言う復活ライブは、まさに日本中が待ち望んでいることだろう。


 なんと環奈は、アイドル復帰することを宣言したのだ。

 ネットは騒然となったが、それ以上に話題になったのは、俺の存在だ。


 彼女は、すべてを包み隠さずに話した。

 今までアイドルを休止していた理由や、俺と出会ってからのこと。


 会社はそれを受け入れ、高校を卒業してからだが、仕事も再開することになった。


 朱音の卒業と環奈の卒業後、二人は復活ライブを行うと公式に発表。

 大学には進学するものの、今までお世話になったファンを大切にしたいとのことだった。


 当然、俺も賛成した。


「朱音さん、フランス美女の紹介待ってますね」

「そうやなあ、高森が好きそうな子探してくるわー」


 高森は、朱音から美女を紹介してくれることになっているらいし。

 英語も苦手だというのに、フランス語は大丈夫なのだろうか。


 だがあえて水を差す必要はない。


「なんだ太郎、俺がフランス語喋れないから無理だろって思ってないか?」

「い、いや!? 思ってない、想ってないぞ?」


 ああ、そうだ忘れていた。こいつはギフトを持っているのだ。

 心を無にしよう、無に……。


「ほなそろそろ行くわー! ――太郎、環奈を頼むで。泣かせたらぶっとばすからな」

「ああ……肝に銘じておくよ。またな、道中気を付けてくれ」


 そうして朱音は、笑顔で去っていく。

 最後まで彼女は笑顔だった。破天荒だが、自分を強く持っていた素晴らしい女性だった。


 すると、環奈が俺の手を強く握った。


「佐藤君」

「どうした? 環奈」

「――大好きだよ。これからは普通じゃなくて、幸せになっていこうね」

「ああ、そうだな。普通じゃなくて、二人で幸せになろう」



 俺たちの関係はまだ始まったばかりだ。

 もしかしたらこれから大きな壁が立ちはだかるかもしれない。

 喧嘩したり、上手くいかない時はきっとあるだろう。


 だけど、環奈と築いた絆はそう簡単に崩れないはずだ。


 それに俺たちには、朱音、高森、紬、最高の仲間たちがいる。




 普通はもう、卒業だ!





 俺の名前は佐藤太郎。

 ゲームが人より得意で、平凡な名前が二つ重なっているのが俺の最大の特徴だった――が、今は違う。

 最高に大好きな環奈かのじょが出来たことが、俺の自慢だ。



 =======完=======


 これにて二章完結となります。

 三章に関してはまだ未定となっているので、ひとまず区切りとさせていただきます。

 もしかすると追加エピソードなどを公開するかもしれないので、ブクマはそのままにしていただけると、更新通知がわかると思います。


 この作品は、私のラブコメ初作品となりました。

 何を書こうか凄く悩んでいましたが、多くのボツを重ねて誕生しました。

 

 当初の予定では、天使環奈はゲーマーのVTuberでした。

 紆余曲折があって日和が誕生し、ざまあもありつつ一章を終えました。

 最終回に賛否がありましたが、私的には大満足です。


 二章では新しい風として初瀬朱音が登場しました。

 関西弁のキャラクターということもあって行動が破天荒でしたが、とても大好きでした。

 また、紬に関しても一章よりは多く登場することになりましたが、個人的に一番彼女が好きでした。


 またいつか二人のエピソードも書きたいなあ……と密かに考えています。

 

 カクヨムコン8に出しているので、結果を待っている状態ではありますが、沢山の方に応援されたことを嬉しく思います。

 コメント、イイネ、星のおかげでここまで楽しく書き続けることができました。


 本当に感謝しています! ありがとうございましたm(__)m


 新作も次々と書いているので、良ければそちらも宜しくお願いします。


 それでは長くなりましたが、誠にありがとうございました!



 


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完】陽キャに彼女を寝取られましたが、道端で出会った美少女元アイドルに慰めてもらい、毎晩手料理を作ってもらえるようになったので幸せいっぱいです。 菊池 快晴@書籍化進行中 @Sanadakaisei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ