第46話 佐藤太郎の葛藤

「いい加減浮かない顔をやめろよ。それ、嫌味だぞ」

「いや……いや……でも……」


 あれから数日後、放課後、高森に部活を無理やり休んでもらって話に付き合ってもらっていた。

 今は駅近くのひと気のあまりないカフェで、前傾姿勢で机に突っ伏している。


 高森は、相談料として俺から頂いたパフェを食べていた。


 朱音と紬の告白、それに対しての気持ちの整理が付かないのだ。


「紬はわかるが、まさか朱音さんがそこまでとは思わなかったな。遠距離でもいいって、相当だな」

「だろ? でも、紬についても俺はわからなかったが」

「それはお前が悪い。鈍感すぎるだろ」

「そうかな……」


 あれから数日間、二人のことを待たせている。

 それもあって環奈とは別々で夕食を食べていた。


 学校で顔を合わせるのも気まずくて、まともに話せていない。


「で、夏祭りはどうするんだ?」

「そうなんだよなあ……」


 夏祭り、それは地元で開催される少し大きないイベントだ。

 前に環奈と少し話していたが、明日開催される。


 元々は二人きりで行く予定だったが、色々と話した末に五人で行くことになってた。


 俺と高森、紬、朱音、そして環奈。

 

 答えも出ていないのに鉢合わせるなんて、さすがに気まずい。

 というか申し訳ない。


「いっそのこと断る……いや、それはありえないよな」

「ああ、それは最低なヤツがやることだ」


 普段は優しいが、こういう時はズバズバ切ってくる。ありがたいとはいえば、ありがたいのかもしれない。


「正直そんな羨ましい話は聞きたくないが、パフェ分くらいは相談に乗ってやろう」

「ありがてえ……食後の飲み物もいいぜ」

「遠慮なく。――で、まあまずは初瀬朱音さんだ。今も現役のアイドル、スタイル抜群の美人。愛想も良いし、人当たりもいい。でもって性格も良い」

「ああ、そうだな……そうだ……」


 分析みたいに見えてしまうが、高森は気持ちの整理をつけようとしてくれているらしい。


「そして七瀬紬。言わずもがなの幼馴染、お前のことを一番よくわかってる。俺から言うのもなんだか可愛いよな。性格も良いし。誰よりも太郎を幸せにしてくれることは間違いないだろ」

「ああ……」


 そう、その通りだ。

 紬は俺のことをなんでもわかってくれている。


「で……俺が一番聞きたいのは天使さんのことだ」


 高森は、俺の確信を最後に突いてきた。


「俺の見たところ、お前と仲が良かったし、もちろん相手もそう思ってるだろ」

「……そうかな」

「ムカつくが、間違いなくそうだ。で、だ」

「はい……」

「二人に好意を伝えられた時、お前はすぐに返事を返さなかった」

「ああ、そうだ。返事を……返さなかった」

「じゃあもう、答えは出てんだろ」

「え?」


 はあ、と溜息を吐く高森。その間に、すいませーんとメロンソーダを注文。

 ちゃっかりしている。


「朱音さんも、紬も、普通に考えてみろ。即答で了承するのレベルの二人だ。でもお前は迷った。悩んだ。答えられなかった。最後までいう必要あるか?」

「…………」


 返事を返すことができなかった。


 そう、俺は心のどこかでわかっていたのかもしれない。


 相手から嫌われたくないからこそ、悩んだふりをしていたのかもしれない。


「人から好意を伝えられたら、嬉しいに決まってる。けど、一番大事なのはなんだ? 自分の気持ちだろ? 人が人を幸せにするには限界がある。だけどそうやって俺たちは生きてきたんだ。一人一人が向き合ってくれたおかげで、俺たちはここにいる。うじうじ悩んでねえで、素直になれ」


 高森はいつもとは違う真剣な言葉で、俺の眼をまっすぐ見つめて言ってくれた。

 

 普通なら聞きたくもないだろうし、自慢話のように聞こえるだろう。


 だが俺の立場になって考えてくれている。


 俺の親友は、やっぱりいい奴だ。


「なんでお前に彼女が出来ねえのかわかんねえな」

「最高の褒め言葉と嫌味を混ぜるなよ。よし、追加でチョコケーキな」

「はっ、何でも食べてくれ。あ、でも……そのチョコケーキ分足りるか?」

「ツケでもなんでも頑張れ。あれだったら皿洗いしてきたらどうだ?」

「昭和のアニメかよ。――ありがとな」


 高森がメロンソーダを飲み干し、チョコケーキを食べ終えたあと、俺は大事な用事があると伝えた。


「本音を伝えてくるよ。全てを」

「ああ。頑張れよ」


 去り際、高森は俺の背中を強く叩いてくれた。



 そして俺は――。

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