第37話 登校日、謎の転校生

 夏休みという学生最大のイベントを終え、ついに登校日を迎えた。

 というか、既に全校生徒が体育館に集まっている。

 校長先生のありがたーいお話を聞かされている最中だ。


「こういうのって、世界共通なのかな?」


 俺の隣で並んでいる高森が、アクビをしながら言った。

 確かに、海外にもこういうのがあるんだろうか。

 てか、どうでもいいな。


 ねみぃ……。


 九月一日は学生の身分からすれば、あまり良い日ではないだろう。

 今までたっぷりと朝寝坊出来ていたのが、突然できなくなるのだ。


 ただ、普段は会わないような人と会える楽しみというものもある。

 連絡は常に取ったりしないものの、顔を合わすと挨拶をしたり、くだらない話をしたり。

 それはそれで楽しい。


 ありがたいお話が終わり、教室へ戻る。

 このまま帰れる……と思うかもしれないが、今どきの高校生はそんなに甘くない。

 初日から普通に授業があるのだ。といっても、三時限までだが……。


 三年生になる前から。既に受験勉強をしている人達も多い。

 俺も一度試験で一位を取れたが、今はまた元に戻ってきている。

 改めて気を引き締めないとな……。


天使あまつかさん、おはよー!」

「あ、天使あまつかさんだ。おはよう!」

「おはようございます」


 夏休みが始まる前から、そして今もだが、環奈はすっかり人気者になっていた。

 いや、人気があるのは前からだったが、誰からも声を掛けられるほど親しみやすく、彼女もそれに馴染んだようだ。


「おはよう、佐藤君」

「ああ、おはよう。使《あまつか》さん」


 また、俺たちも教室で気軽に話すようになっていた。

 動画のことをいじられることはたまにあるが、少しほとぼりが冷めている。

 人の噂はなんとやら、というのは本当らしい。


 高森は、朱音から友達を紹介してもらえるかもしれないとずっとご機嫌だった。

 俺も環奈と二人きりでまた遊ぶ約束もしている。

 何もかもが上向きで、これからは落ち着いた日々が続くだろう。


 日和も、浦野健もいなくなったことで複雑な気持ちもあるが、これが本来の高校生生活。


 平穏な日々、平穏な生活、うむ、悪くない。


「よし、じゃあ転校生を紹介するぞー」


 そんな時、担任の先生が言う。

 そういえば、転校生が来ると聞いていた気がする。

 日和がいなくなったことでクラスで欠員が出ているから、うちのクラスに来るのは普通か。

 とはいえ、こんな時期にめずらしいな。


 扉が勢いよくガラリと開く。

 

 その瞬間、教室が――騒めいた。


 環奈に顔を向けるが、同じように驚いていた。どうやら知らなかったみたいだ。

 もちろん、高森も。


 転校生の性別は女性。高校生とは思えないほどのプロポーション、モデルのような足運び。

 同じ制服を着ているとは思えないほどの着こなしに、類まれな美形が相まって目を奪われる。


「嘘だろ……」


 思わず声を漏らす。

 そして、クラスメイト全員が、同じような言葉を発していく。


「あれ……。え、違うよね!?」

「西の!? いや、そんなわけ……」

「そっくりさん……?」


 そっくりさん、だと俺も思いたい。

 だが、あの風貌、間違いない。本物だ。


「彼女のことは知っている人も多いと思う。海外の学校に通っているんだが、仕事の都合で一時的にこっちへ来ている。逆交換留学だと思ってくれればいい。仲良くしてくれ。自己紹介頼む」


 先生に紹介され、彼女は持ち前の笑顔を見せる。


「初めまして、よろしくなー! 初瀬朱音っていいます! 好きに呼んでー!」


 転校生は――初瀬朱音だった。


 ◇


 放課後、久しぶりの青空カフェ開店。


「おー! めっちゃええ景色やなあ」


 朱音が、両手で双眼鏡を作って、嬉しそうに言った。


「めっちゃええ景色やなあ、じゃねえ! 何してんだよ!」

「佐藤君の言う通り! 朱音、転校ってどういうこと!?」

「さぷらーいず!」


「「さぷらーいずじゃねえ、(ない)!」」


 思わずハモる。俺と環奈であった。


「説明してくれよ……」

「せんせが言うて通りやでー、ちょっとだけお世話なるねん。そんな長居はせんから少しだけお邪魔させてーや」

「そんな気軽に出来るもんなのか? そもそも仕事は?」

「コネやコネ。ちょっと休みもらったから大丈夫や」


 何もかも気軽に言う。コネって、自分がとんでもないことをしてるのをわかっているのか?

 というか、環奈にすら黙っていたとは……。

 高森も驚いていたが、部活があるので消えていった。紬は別クラスだったのでさっき声をかけたが、同じくケーキ屋さんが忙しくて帰ってしまった。


 そのため、今は三人しかいない。


「なんで黙ってたのよ!」

 

 環奈がめずらしく怒っている。そりゃそうだと思うが、朱音は満面の笑みで、「学校で見る環奈の制服って、エロいなあ」と、親父のように返した。環奈も呆れている。


「はあ……もう……いいけど」

「まあええやんかー! うちらの仲が良いって広まれば、復帰もしやすくなるし、お喋りもできて一石二鳥やん?」


 そういえば仲が悪いと言う噂があったのか。それよりも、復帰、という言葉が頭に響く。

 無期限で活動休止をしているということは、環奈の気持ち次第でそういうこともありえるのか。

 元々は引退する予定だったと聞いていたが、いつ心変わりしてもおかしくはないだろう。

 そうなったら、会えなくなる……のだろうな。


「あんまり仕事の話はしないで。それに……佐藤君や高森くん、紬ちゃんに迷惑かけたらだめだよ?」

「わかってるってー! 環奈、とりあえず学校案内してーやー! 佐藤も!」

「朱音はほんと自由だな……まあ、その気軽さが良い所かもな」


 何気なく言った一言、朱音は頬を赤らめる。


「ほ、褒めてもなんもでーへんで!?」

「飴ちゃんとかはくれないのか?」

「しょうがないなー、ほいっ」

「持ってるのかよ……」

「二人とも、なんか距離が近いよ!?」


 めずらしく怒る環奈。

 ようやく落ち着いたと思っていたが、どうやら俺の学校生活は、まだまだ騒がしくなりそうだ。


 


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