第32話 一泊二日、海水浴編 ①

 波打ち際、透き通るほど綺麗な海が広がっている。

 照りつける太陽、雲一つない青空。


 そして――美女三人が、俺を見ている。


「うちに決まってるやんなあ? 佐藤」


 きめ細かい肌、鍛え抜かれた美脚、大人びた水着姿の朱音が、笑みを浮かべている。


「太郎、私だよね?」


 豊満な胸を揺らしながら、面積薄めの水着姿の紬が、俺に向かって言う。


「ええと……佐藤君、私だよね?」


 ほどよい胸、透明な真っ白い肌、可愛らしい水着。

 いつもとは違う表情で、環奈が俺に圧をかけている。


 俺は一体――誰を選べばいいんだ。


 ◇


 話は遡ること二日前、他県にケーキ合宿へ行っている紬からこんなメッセージが来た。


『遊びに来て!』


 ただこれだけである。

 あまりに簡易的な連絡だったので放置しようと思っていたが、直後に電話がかかってきた。

 それなら最初から連絡してこいよ、と思ったがそれは言わないでおいた。


 つまり休みがあるので遊びに来てほしいとのことだった。

 ふむ、さてどうするか、と思った所、環奈にも連絡が来ていたらしい。


 そんな時、高森からも連絡が来た。


『マネージャーの件、だめだった……』


 玉砕した。とのことだった。


 あれよあれよと予定が決まり、俺たちは旅行がてら遊びに行くことになった。

 それも一泊二日だ。

 高校生の身分でなんだか悪いことをしているようだが、問題はない。


 当然親に連絡は入れた。高森の親は放任主義、環奈の家は……まあいつも通りといえば聞こえは悪いが、問題はないらしい。


 そして当日、エレベーター前で待ち合わせしていると、現れたのは環奈、そして――朱音あかねだった。


「halo《はろー》、佐藤」

「おはよう、佐藤君」


 予想外の出来事に、俺は固まってしまっていた。


「さぷらーいず!」

「いや……サプライズじゃねえ」

「ご、ごめんね。でも、朱音ちゃんを一人にさせるのもかわいそうだし……」


 おどける朱音に、環奈が慌てて何かを取り出す。

 もちろん仲間外れを意図的にしようと思っていたわけではない。朱音は現役のアイドル。長期休暇とはいえ、流石に目立つ。

 男を含めて遊びだなんて……またSNSにあげられたら……。


 と、思っていたら、環奈がスマホを見せて来た。


「な、なんだこれ?」

「朱音ちゃんのSNS、読んでみて」


 そこには、友達と遊んできまーす! 男子もいるけど健全でーす! と書いていた。実に自由だ。いや、いいのか?


「だ、大丈夫なのか?」

「うちは何者にも縛られへん心を持ってるねん。ノーブロブレムや」

「大丈夫だと思う。朱音ちゃんのファン、皆わかってるから」


 環奈もあまり気にしていないらしい。紬の合宿先は田舎らしい。

 誰かに見られる心配はほとんどないとも言っていた。電車だけ気を付ければ、特に問題はないだろうが……。

 高森と紬に伝えていないので、そこの不安も……。


「いくでえ! しゅっぱーーつ!」

「おー!」


 心なしか、環奈もノリノリな気がする。

 これが……デュオのなせる業か。


 ◇


「え、初瀬朱音ういせあかね!?」


 駅での待ち合わせ、高森は叫んだ。

 とにかく叫んだ。

 天に向かって叫んだ。

 

 鼻の下は伸びていた。



 電車に乗り込み、四人掛けの席に着席。

 俺と高森は横並び、その前には、西の朱音、東の環奈が座っていた。


「環奈、ポッキー食べさせてー」

「はいはい」


 二人は、百合百合しながらキャッキャッウフフしていた。

 俺として少し見慣れた光景ではあるが、隣の高森に視線を向けると――


「やべえやべえよこれ、なんだよ、現実か? 夢か? 最高じゃねえか……。太郎、俺の頬をつねってくれ」


 興奮しながら口を手で抑えていた。女子か?

 そして御所望通り、思い切りつねってあげる。


「痛くない……夢なんだ……」

「いや、めちゃくちゃ凄い力でつねってるけど、痛覚ないんじゃないのか?」

「いや、痛くない……目の前の光景が……しゅごい……」


 高森は目がハート。完全に女子だった。

 まあ、フラれたらしいので、心を癒してもらいたい。



 数時間後、目的地に到着。

 紬とは駅で待ち合わせしていたので、入口で合流した。


 もちろん――。


初瀬朱音ういせあかねちゃん!?」


 お約束もばっちり。


 ◇


「改めて、俺は高森連たかもりれんです」

「私は、七瀬紬ななせつむぎ


 二人とも朱音と会うのは今日が初めてなので、改めて自己紹介。


「うちは初瀬朱音ういせあかね。環奈のお友達と会えるなんて、新鮮やわあ。って……もしかして、つつつの紬っち?」

「え!? 知ってるんですか!?」

「もちろんやんっ! まさか会えるなんてなあ!」

「わー! 嬉しいー! 朱音さーん!」


 抱き合う二人。環奈は微笑ましそうに見ている。


 つつつの紬ってそんなメジャーなの? 何なの?

 その隣で悶えていたのは、高森だった、


「百合……百合だ……たまんねえ」

「落ち着け」


 スーツケースをゴロゴロ転がしながら、舗装されているか微妙なアスファルトの上を歩く。

 駅を降りた時から思っていたが、THE田舎という感じだ。

 マンションはなく、平屋の家が並んでいる。


 車は走っておらず、電信柱が目立つ。

 もしかしてネットすら繋がってないんじゃないか? と思ったが、さすがに現代だった。

 コンビニがなく、個人商店がいくつかあるだけらしい。


 こんな所でケーキの修行? と思ったが、凄腕の職人がいるとか。


 そんな話を紬から聞いていると、海がついに姿を現した。


 日本とは思えないほどの透明な青い海。

 白い砂浜。ひと気もなく、プライベートビーチと思えるほどの素晴らしいロケーション。


「「「「「最高……」」」」」


 全員が、ただただ圧倒された。


 ◇


「大した所じゃないけど、ゆっくりしていってねえ」


 海へ駆けたい気持ちを抑えつつ、近くの民宿に辿り着く。紬の紹介だ。

 一階が受付で、二階が大広間になってる。

 俺たちが泊まるのは二階だ。畳が敷かれていて、懐かしい匂いがする。

 ここで一泊二日、皆で横になって寝るのだ。


 大家さんはとても温和な御婆さんで、今回は格安で泊まらせてくれる。

 元々、宿泊業に力を入れているわけでもなく、素泊まりでのんびり泊まる客だけしかこないらしい。


 なので、夕食は皆で何か作ろうと話していた。


 しかしその前に本日の大イベント、海水浴へ行くのだ。


 着替えができる部屋は大広間だけだったので、真ん中の襖を閉じで壁を作る。その枚隔てて、男女で別れて着替えていた。

 高森は無言で壁を見つめつつ鼻の下を伸ばしているが、俺もドキドキしていた。


 隣では下着姿、いや裸になるというのか。


「紬っち、おっぱい結構あるんだねー」

「ええー! いやいや、朱音さんも……凄いですよ?」

「ふ、二人とも、声が大きいよ……」

「「環奈(ちゃん)は、形が綺麗(だねえ、やなあ)」」


 あまりにも過激な会話、俺でなきゃ見逃しちゃうねえ案件。

 高森は気絶寸前だった。

 着今は地面で悶え苦しんでいる。


 ある意味では、俺よりも純粋ピュア


「俺はもう……幸せで死んでしまいそうだ……太郎」

「今死ぬと俺が疑われるからやめてくれ」


 あまりにも刺激が強すぎるとのことで、高森は入口で待っていると足早に外へ出た。

 俺は浮き輪を膨らましてから行こうと、静かに空気を入れている。


 その瞬間――襖が開いた。

 いや、開けたのだ。誰かが。


「そういえばこっちに鞄置いてたよね? ふえ? た、太郎!?」


 現れたのは紬だった。会話に花を咲かせ過ぎたのか、まだ着替え終わっていないらしく、赤い下着を身に着けている。

 言動や行動は少し男っぽいものの、身に着けているものはフリルとリボンが付いている。

 程よく引き締まった体。


「ふーん、佐藤ってエロいんやなあ。気配を消してうちらの裸を見ようとしてたん?」


 次に現れたのは朱音。こちらもまだ下着姿で、上下黒の面積が小さい下着を身に着けている。

 身長が高く、体を鍛えているのか、贅肉が少ない。

 まるでモデルだ。


「さ、佐藤君!?」


 そしてエントリーナンバー三番。天使環奈あまつかかんな

 真っ白い肌、同色の下着。純白できめ細かいボディは、見たものすべてを天国へいざなうほどの破壊力。

 二人と比べてほどよい胸はしているものの、思わず触りたくなるほどのモチモチ感が溢れている。

 ぷるっとした唇もチャームポイントだ。


 って、俺は……一体何を……!?


「ち、ちがう!? う、浮き輪だ! 俺はこれを膨らましてたんだよ! 信じてくれ!」


 ジリジリと滲みよる三人、朱音に至っては別に恥ずかしくもなさそうだが、環奈の裸を見たことは許せないらしい。


「「「佐藤(君、太郎)のエッチ!」」」


 そして俺は、小さい頃に見たアニメのように、三人からほっぺをビンタされた。



 海水浴編、まだまだ続く。

 次回、水着姿。


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