第58話 三人目はどこに
武と茂は、その男を、汗だくになりながらかついで、斎藤さんの家に引き返した。
斎藤さんは、インタホンで武たちの声を聞くと、どうしたのかと、怪訝そうな声で問いかけてきた。
「お知り合いじゃないかと思って……連れてきました」
そのとき、かついでいた男が、意識がないままうなり声をあげた。
それを聞いた斎藤さんが、あわててドアを開け、飛び出してきた。
武たちのかかえた男を見て、
「土浦さん!」
斎藤さんは、名前を呼びながら、武たちと一緒に男をかついで、奥の居間に寝かせた。
斎藤さんは、毛布を持ってきて、土浦と呼んでいた男にかけた。
と、男は、眼をかすかに開き、武たちをみた。少したれ眼で、さっき出現していた土方歳三の〝こだま憑き〟とは似ても似つかぬ、穏やかな老人の顔だった。
斎藤さんは、居間に寝かせている男は、土浦といい『歴史探訪の会』の熱心な会員だと教えてくれた。
斎藤さんに土浦氏を頼んで、武たちは、いったん引き上げた。
わからないことばかりだった。
土浦氏が〝こだま憑き〟であることは、まちがいない。
でも、なぜ、あそこいたのか? なぜ、襲ってきたのか? 武たちのことを、どこで知ったのか?
歩きながら、考え込んでいた茂が、ひとり言のように、前を向いたまま、
「斎藤さんしか、考えられない」
と、ポツリといった。
「確かに、俺たちが斎藤さん宅を出たあと、連絡をとったということは、考えられるけど、あんなに早く来れるかな?」
「僕らと話しているとき、『歴史探訪の会』の冊子をとってくるといって、席をはずしたことがあったよね?」
「ああ、そういえば……」
5分ぐらいだろうか。すぐ戻ってきて、会の冊子をみせてくれた。モノクロの色のない手刷りのもので、会員の旧所名跡を訪ねたときの、エッセイのようなものが載っていた。
最後のページに、全会員の氏名が、これは手書きで載っていた。
「階段を昇り降りする足音はしなかったし、1階の範囲内なら、5分はかかりすぎじゃないだろうか?」
「う~ん。しまい込んだ冊子のありかを忘れて、探してたのかもしれない」
確かに、あの
アパートに戻り、夕食代わりのフルーツ入りロールケーキを食べ、幸せにひたっていると、斎藤さんから電話があった。
土浦氏は、あのあと、元気を取り戻し、自宅に戻った。――いろいろ聞いたが、憑かれていたときのことを聞いても、記憶があいまいで、はっきりしたことは、教えてもらえなかったそうだ。
だが、ケガ人が出るかもしれなかった事態に、覚悟を決めたのか、真剣な声で、次の『歴史探訪の会』の会合に出てほしいと依頼された。
武は、ふたつ返事で引き受けた。隣の部屋に行き、茂にその事を伝えると、予想通り、自分も行くといってくれた。
「三人目の〝こだま憑き〟も、きっと『歴史探訪の会』の会員のなかにいる……」
茂は、いや偽庵は、武者震いしていた。
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