第51話 祖父の手紙
男は、着替え終わると、藤原信一と名のった。
台所から、保温の効くポットをとってきて、武たち三人に茶をそそいだ。
「……助けてくれて、ありがとう」
藤原は、武たちに頭を下げた。
「君たちがいなければ、死んでいても、おかしくなかった」
「いったい、なぜ、あんな事を?」
岩瀬が、代表して尋ねた。こういう場合は、人徳というのか、自然と岩瀬にまかせることになる。
「信じてくれないかもしれないが、自分でも、わからないんだ」
三人は、顔を見合わせた。あれだけの事をやっておいて、動機がないなんて、ありうるんだろうか?
「俺には、あなたが何かに取りつかれているように、みえたんですが……」
岩瀬が、遠慮がちに、自分のみた印象をいう。
武も、うなずきながら、身を乗り出した。
やはり、岩瀬は鋭い。
〝こだま憑き〟のことを知らないのに、何かが、藤原に憑いていたことに感づいている。
「何から、話せばいいのか、……頭が混乱していて……」
「そもそもの発端から、話してください」
岩瀬が、うながした。
藤原は、祖父が亡くなって、遺産相続の問い合わせが来たこと、――久しぶりに故郷に帰ってきて、祖父の家に滞在し、この家を遺産としてもらうかどうか、迷っていたこと、――庭に埋められていた祖父の残した手紙をみつけたこと、を話した。
「その手紙には、何が、書かれていたのですか?」
「祖父は、素人歴史学者――いわゆる郷土史家と呼ばれる人たちと、交流があったみたいなんだ」
「なるほど……」
「手紙は、そのうちのひとりと交わしたものだったんだが……」
藤原は、頭痛でもするのか、こめかみを手で押さえた。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ」
藤原は、溜め息をつくと、話を続けた。
「手紙には、妙なことが書かれていた……」
「妙なこととは、どんな内容だったんですか?」
岩瀬が、慎重に、気を使いながらも期待をこめた声で尋ねた。
「〝こだま憑き〟、……そう呼ばれる者たちについてだ」
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