第50話 発見
よろい武者の男は、まだ、このなかに居るのだろうか?
武たちは、とにかく、境内を一周して探してみようと、社殿の正面から東側に、まわった。
社殿の側面から突き出した外廊下から、少し離れた地面に、人が倒れている。
あの、よろい武者だ!!
武たちは駆け寄ると、よろい武者の
岩瀬が、素早く男の首筋に手をあてる。
「脈がある! 生きてるぞ!」
岩瀬は、安堵の声をもらした。もし亡くなっていたら、武たちが、集団で殺してしまったことになる。一生を棒に振ってしまうことになりかねなかった。
うつぶせになっていた男の身体を、ゆっくりと動かし、あおむけにした。
男のやせた顔は蒼白で、あの鬼神のような雰囲気は、どこにもなかった。
身体も、ひとまわり小さくなっている。
男の身体のそばには、古い茶色がかった紙が一枚と、この神社で配っているものだろうか、白いお
男が眼を開いた。
「大丈夫か? 救急車、呼ぶから」
岩瀬が、男の耳元で叫び、スマホを取り出して打ち始めた。
武と茂は、救急車より、近くの民家に運んだ方がよいかもと、男の身体を持ち上げようとした。が、重い……力の抜けた人間の身体が、こんなに重いとは、知らなかった。
ふたりは、持ち上げかけたが、すぐにへばって、男の身体を下ろした。これでは、途中で、地面に男を落としかねない。やっぱり救急車待ちだな、と岩瀬の方をみた。
「もし、もし。怪我人がいるんです! 住所は、ええと――」
岩瀬は、あわてていたのか、住所を言い間違え、言い直そうとした。岩瀬も他県から来たので、大学の所在地以外の町名は、うろ覚えなんだろう。
「やめてくれ。……救急車は、呼ぶな」
男が、しゃがれた声でいった。
岩瀬が、困った顔をすると、
「怪我はしていない。力が抜けているだけだ。アイツを呼び出したあとは、いつも、こうなんだ。休めば、
男は、近くに自分の家がある。そこまで、連れていってくれ、と武たちに頼んだ。
その頃には、男の顔にも、血色が戻っており、確かに大丈夫なようだった。
武たちは、男を交代で支えながら、神社を出て、すぐのところにある、男の古びた二階建ての家まで、連れていった。
家は、鍵がかかっていなかった。
男は、武たちに手伝ってもらいながら、よろいを脱いだ。
よろいがあるのは、すごい、と茂がいうと、祖父の集めてた骨董品で、安物だという。旅芝居で使われていたものらしく、よく見ると、よろいのところどころに、塗装のとれた跡があった。どうも、大型の五月人形用に作られたよろいを、演劇用に手直ししたモノみたいだった。
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