第48話 激闘 その四
茂は、これまでみたことのない、
「こだま憑きとは?」
武は、高校生の頃に経験した事件と、そのときに知り合った道場主から教わった〝こだま憑き〟について、早口で説明した。
「知らぬな。わしは、眼医者じゃ。百年も二百年も滅びぬ魂などではないな」
茂の年寄りのような話し方に、武は、やはり、憑かれているのだと思い、続けた。
「あなたの名前は? 名を教えてください」
「……友松偽庵と申す。……少々剣を使う、旅の眼医者じゃ」
聞いたことのない名前だった。もっとも、武は、剣豪などについて、それほど詳しくはない。宮本武蔵に憑かれたとき、少し調べたぐらいだった。
「剣の流派は、何ですか?」
「わしの師は、小笠原殿だ。……念阿弥殿の系譜の剣じゃ。世間では、念流とか、いわれておるかの」
念流といわれても、知識に乏しい武には、何のイメージも浮かばなかった。
さらに問いかけようとしたとき、急に偽庵――茂の眼が閉じた。同時に、茂の身体が、ぐらぐらと前後にゆれた。
「おい! 大丈夫か?」
武は、あせって大声をだした。
茂の眼が開いた。ぼんやりとした顔。声をかけた武ではなく、武の
「おい!」
茂の眼が、またたいた。
やっと声に気づいたようで、ゆっくりと首をまわし、武の方を向いた。
「やあ。……気分はどう?」
ぼそっと話す。
武が黙っていると、顔をくもらせた。
「切られたところが痛む? 落ち武者は去ったのかな?」
どうやら、茂に戻ったらしい。偽庵と名のる男は、茂という存在の内側に隠れてしまった。
「……友松偽庵……」
あいつの名を、つぶやいてみた。
「うん? 誰のこと?」
「覚えていないのか?」
「……うん? 何を?」
武が、憑かれたときと同じだった。
自分が憑かれたときのことを、覚えていないらしい。
「おおい、……大丈夫か?」
倒れていたはずの岩瀬が、起き上がってきた。
柳原や、ナギナタ女子たちは、意識は取り戻しているようだが、全身の力が抜けてしまっているのだろう。まだ、倒れたままだった。
岩瀬は、やはり精神が強い、というより魂がタフなのだ。超自然現象を追っかけているうちに、鍛えられたのかもしれない。
俺たちは大丈夫だと答えると、岩瀬は、ナギナタ女子のもとに、まだフラフラしながら近より、声をかけ、ふたりが起き上がるのに手を貸していた。
武も、柳原のそばまで行き、声をかけた。
柳原は、ごろんと転がってあお向けになり、このままじっと休んでいれば大丈夫といい、青白かった顔色も、もとに戻っていた。
茂以外の全員が、よろい武者に切られたが、ひどい脱力感を覚えただけで、小さなすり傷以外はケガもなかった。全員が無事だったことに、岩瀬はホッとしたようだった。
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