第47話 激闘 その三

 よろい武者は、残った茂に眼をつけた。

 青白く輝くダンビラを右肩の上にななめにかまえ、じりじりと近寄ってくる。

 茂は、倒れた武や柳原をみた。

 蒼白な顔で、それでも何とかあがいて、地面を引っかき動こうとしている武たちをみていると、腹の底から、抑えようのない、激しい怒りが湧いてきた。


 持っていたスケッチブックを、投げつける。

 よろい武者は、たやすくそれを叩き落とした。

 茂の身体の奥底から、何かがゆっくりと立ち上がった。それは、茂の身体全体に、波うちながら、広がっていった。


 茂は、右足を少し前に出して両足を開き、かがんだ。右腕を前に伸ばし、左腕を身体の手前で、左胸、心臓の前に置いた。両手ともに、丸いものを握ろうとしている形で、軽く手のひらを開いている。


 それまで、すり足で近よっていたよろい武者が、激しい気合とともに、茂に突っ込んだ。

 そのダンビラが振り下ろされた瞬間、空気が震え、橋がゆれた。が、ダンビラは、すさまじい勢いで弾き返された。


 茂の手には、いつのまにか、灰色の長い刀があった。

 茂は、武者に突進した。

 よろい武者も引かなかった。茂に向かって激しく踏み出した。


 茂と武者の刀が、折れよとばかりにぶつかりあった。

 茂の全身に、感電でもしたかのような震えが走る。

 茂は刀を押し込むと同時に、相手のすねに靴先を蹴りこんだ。

 武者は、まったく動じない。――痛みを感じないのだろうか。


 ふいに、武者が刀を引いた、と思った瞬間、武者は真横に身体をずらし、回転しながら肘うちを放った。

 茂も動じない。冷静に腰をかがめ、左ひじで、相手のひじを受け止めた。かがんだ姿勢のまま、一気に前進、武者の足に切りつけた。

 武者が眼を見開き、片膝をついた。


 茂は、さらに下段から刀を突き上げて、よろいとよろいの隙間に刀を突き入れた。

 武者の刀が、ふっと消えた。

 が、野獣のような叫び声をあげると、武者は、こぶしを前に突き出し突進してきた。


 茂は、よけながら、さらに刀を振り下ろした。灰色に鈍く光る刀は、よろい武者の背中を切り裂いた。

 よろい武者は倒れかけたが、うなりながら持ち直し、そのまま、橋の向こうへ走り去ってしまった。


 茂は追おうとしたが、走りかけたところで、ようやく起き上がった武に、手をつかまれた。

「茂!」

 武は、ふらつく身体を、茂の手にすがることで支えながら、今みたことについて、訊こうとした。

 あぶら汗を額ににじませながら、尋ねる。

「茂も、こだま憑きなのか?」 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る