第45話 激闘 その一

「なんで、こんなことをやっている?」

 岩瀬はもう一度訊いた。よろい武者からは、同じセリフが返ってきただけだった。

 岩瀬は、ふりむいて、武たちをみた。

「――だめだ。話が通じん! 頼む!」

 柳原がうなずいて、岩瀬の前に出た。レスリング独特のかまえをし、ジリジリと、よろい武者に近ずいてゆく。


 よろい武者が、重そうな大ダンビラを、振りあげ、さらに振りかぶって、柳原に叩きつけた。

 と、一瞬早く、関さんのナギナタが、あいだに入り、ダンビラを止めた。片山さんが、素早くよろい武者の右側に立つ。

 ダンビラをつかんだよろい武者の手首を、片山さんが、横から激しく叩いた。

 ダンビラが落ち、舗装された橋のうえを、鈍い音を響かせながら転がる。よろい武者が、怒りの声をあげた。ヒトの声ではない。肉食獣の、獣の声だった。


 親友同士なだけあって、連携した動きは、さすがだった。

 武の眼には、女子のあやつるナギナタの動きがみえなかった。女子二人が、よろい武者に飛びかかったかと思うと、まばたきする間に、よろい武者のダンビラが落ちていた。


 柳原が、ここぞとばかりに、武者につかみかかった。首に手をまわし、武者の伸びた腕をかかえこみ、よろい武者の肩をねじった。

 よろい武者は、顔を真っ赤にして吠えた。人間の声とは思えなかった。

 武も、加勢をしようと、駆けよった。激しく抵抗するよろい武者の肩辺りのよろいがほどけ、ふくれあがった汗まみれの筋肉がみえた。


 柳原が、歯を食いしばって、武者の動きを止めているのがわかる。

 よろい武者が、残った手で柳原の顔をなぐろうとしていた。肩をねじっている柳原をそのまま、宙に持ち上げ、身体を回転させ、橋の欄干に柳原の身体を押し付ける。

 武は、両手でよろい武者の振り上げた腕をつかんだ。なんと、よろい武者は、武をも持ち上げ、激しく回転し、橋の欄干の上段に、柳原と武の身体を、順に叩きつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る