第32話 発覚

 三郎は道場に戻ると、待ちかねていた小夜と祖母に、昨日より顔色が良く、身体の方は心配ないだろうと話した。


 陽が天頂近くまで昇り、暖かくなってから、昼飯を持って、小夜と祖母が出かけた。

 祖母は七十近いが、背筋は伸び、足腰もしっかりしている。道場にも、たまに出て初心者の相手をしてくれている。若い頃の速さはなくなったものの、相手の動きを予測した的確な身体移動で、練習試合でも、めったに遅れをとることはなかった。ケガをした十二、三歳の子供にやられる事はないだろう。

 道場での鍛錬が終わったら、三郎も、少年のところへ向かうつもりだった。


 小夜たちが、脱藩してきたらしい少年のもとに向かっているとき、少年を探し当てた行商人は、すぐに別の場所を探している仲間に連絡をとった。


 行商人は、仲間を迎えに、峠の頂まで上り、そこの適当な草っ原を選んで座りこんだ。

 ふところから握り飯を取りだし、口のなかいっぱいにほうばって、いかにも飯を食いながら、休みをとっている風を装って、仲間が来るのを待った。


 八十八か所参りの巡礼の恰好をした老人と、そのお付きの者らしい、やはり同じ巡礼の恰好をした男ふたりが、連れだって、転ばないようにとの配慮なのか、ゆっくりゆっくりと登ってきた。

 行商人の前を通るとき、老人は軽くうなずいた。

 行商人は、それをみると、おもむろに立ちあがり、尻についた草の切れ端や、雑草の種を手ではらった。少し距離をあけて、巡礼の老人の後に、ついてゆく。


 やがて、彼らは下っていく街道からはずれ、林のなかに入っていった。目指しているのは、少年と小夜と祖母のいる、焚き木の積まれた橋だった。

 その少しあとに、道場での鍛錬を終えた三郎が、再び少年に会おうと、林のなかに入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る