緑色の願望4

泉先輩の話と佐々木先生の評価を聞いた限り、要点をまとめると典型的な構図だった。どうやら泉先輩はクラスでは浮いているらしく、それは家庭環境も関わってくるらしい。彼女の家はこの街では有名な病院で、本人も医者志望なこともあり飛び抜けて優秀なようだ。イジメをしているクラスメイトは彼女の生い立ちや成績を疎ましく思ってイジメを始めたのかもしれない。


一方で、1年生のときは問題もなく周囲と楽しく過ごせていたらしい。物の紛失が頻繁に起こったのは最近で、それと時を同じくしてクラスで無視され始めたようだ。仲が良かったグループの人たちにも最近は距離を取られており、今日の佐々木先生の現代文の授業で提出するはずのプリントが机からなくなり、ゴミ箱に丸めて捨てられていたようだ。


「なるほど。……どうして最近になってイジメが発生したのか。その原因はわからないわけか」


「そうね。イジメって理由なく始まる場合もあるだろうけど、流石に高校生にもなって理由なく人を貶めるような行動はしないと願いたいわね」


「……私にも何がなんだかわからなくて。それで、捨てられていたプリントを佐々木先生に渡しにきたのがさっきです」


ここ最近の出来事をゆっくりと話し終えた泉先輩は、肩の荷が下りたように話し始める前よりも表情が柔らかくなった。その顔を見る限り、悪い人には見えない。今の状況から救ってあげたい気持ちはあるが、イジメ問題は根深い場合もある。泉先輩からの話だけで判断できるものでもないだろう。


「話してくださりありがとうございました。……それで、泉先輩はこれからどうしたいんですか?」


「どう、ですか?」


「えぇ。泉先輩の状況については把握できました。しかし、あなたの想いがわかりません」


確かに穂花の言うとおり、現状はわかったが、泉先輩の気持ちは一言も語られていない。イジメを解決する上で最も大切な先輩の望みを優先するのは当然だろう。


「正直、わからないんです。今は悲しいとしか思えなくて……」


「……そう、ですよね。わかりました。今から少し出てきますね」


穂花は泉先輩の曇った顔を見て少しの間黙った後、優しく微笑みながら先輩の肩に手を添えた。その後、颯爽と部屋から出て行き、この部屋には俺と泉先輩だけが残った。

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