緑色の願望2
「ボランティアクラブ、かぁ」
正直なところ、提案はかなりまともなものだった。俺としても奉仕活動を嫌がる理由もない。世間的に見ても素晴らしい活動かもしれない。唯一の問題はそれを提案したこの問題児だ。
「オーケー。とりあえず面白いし意義のある部活になることは認めよう」
周囲がコソコソと俺たちの陰口をする中で、この数日間の経験で慣れきった俺はそのまま会話を進める。ただ、俺の会話相手は初日から進んで口論をするような物好き。当然、陰口をそのままにするはずがない。
「コソコソ文句言ってるならハッキリ言ってほしいんだけど?」
「おい、穂花やめろって」
これ以上クラスメイトと関係を悪くする意味もないというのに、穂花は気に入らないことをそのままにしておけない。この口論はもう終着点まで止まらないだろう。
「じゃあ、言わせてもらうけど、金崎さんって何様のつもりなの?」
「私は私。それ以外にどういうつもりもないわ」
「初日から新井くんの誘いも嫌な感じで断ってさ」
彼女が言った新井くんは確か
「その新井くんの話が何の意味があるのかしら?」
「そういう態度がムカつくの!」
激怒している彼女の名前は
「そんなことをお友達と話して楽しいのね。私にはそういう感覚がないからわからないわ」
「非常識なことばかりやってきてるからじゃないの? あんたと同じ中学のやつも言ってたわ。成績優秀で運動神経も良いけど、集団行動ができない問題児ってさ」
「……他人の評価なんてどうだっていいわ。それに、私はいつも自分がやりたいことをしてるだけ。最低限の協調さえしていれば、後は好きにするわ」
周りの女子と一緒に笑って馬鹿にする仲居に対して、穂花は意外と冷静に対応していた。その光景はこれまで何度も似た会話をした結果に思えて、穂花の退屈で窮屈だった過去を表しているのかもしれない。
「おい、穂花。そろそろ部活の話しようぜ」
俺はカバンを持って穂花に話しかける。これ以上クラスにいても時間の無駄だろうし、生産的な会話は彼女たちからは生まれないだろう。別に、自分勝手で非常識な穂花にも問題は多くあるし、それは穂花自身も自覚しているから、その問題も含めて正々堂々自分を貫いて生きているんだろう。
一般的に見れば穂花は非常識だ。ただ、それは全てにおいてというわけではない。入学初日でも騒がしいクラスのせいで先生が話を進められないことに気づいて注意している。あの時は穂花が常識を持っていたわけだ。彼女の非常識な部分を正確に表現するとしたら空気を読む能力が非常識と言える。
興味や関心、素直な疑問をつい聞いてしまうのだ。時としてそれは無礼だし非常識だと言われるだろう。今日までの数日で彼女が悪目立ちしている原因はこれだ。だから集団行動ができないという指摘は間違いだろう。彼女の欠点はそこではない。
「えぇ、すぐ用意するわ」
もう会話は終わったというように、穂花は仲居たちを背にカバンを持って教室を出る。俺として心配なのは気にくわない穂花に対するイジメだが、これまでそういう経験はあったのだろうか?
聞こうか迷ったが、聞いたところで過去が変わるわけでもない。そういう機会はいくらでも巡ってくるだろう。今は部活動のことを具体的にしていくほうが面白い。
「とりあえず、ボランティアといっても漠然としすぎだな」
「でも、具体的にしすぎてしまうとつまらないじゃない?」
「その気持ちは理解できるが、人を集めるためには具体性と現実味が必要不可欠じゃないか?」
俺たちは恒例になりつつある中庭のベンチで作戦会議をする。部員を募集するといっても方向性も決まっていないところに所属したいとは誰も思わないだろう。
「部員募集については活動しつつ考えることにしましょう」
「しましょう……って、まさか部活立ち上げる前に活動するつもりかよ!」
「だって、ボランティアなんて自己満足の行動じゃない? 活動するは悪いことじゃないし、部員もその活動を通して集まるわよ」
ボランティアに対する認識は正論すぎて何も言えないが、そう言っても数は力だ。2人で始められる活動は少ないし、後ろ盾もない今の状況で何をするつもりなのやら。
「とりあえず、活動することは価値あると思うし納得した。ただ、やっぱり顧問は先にお願いしておこう」
「……まぁ、生徒の課外活動としてしたいわけだし、大和の言い分は最もね。それじゃあ、今日のところは顧問をお願いしましょう」
「お願いする相手なんて1人しかいないけどな」
「それじゃあ、探しましょうか」
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