高校1年 春

桜色の記憶

桜色の記憶1

満開の桜が新学期の訪れを知らせる中、この日のために入念に準備されたであろう入学式の看板を通り過ぎて高校生活が始まった。特に突出したものもなく、どこにでもあるくらいの高校で、家から近いだけで選んだ俺は思い入れがあるわけでもなく、これからの高校生活も平凡に終わると予見していた。


どこの学校でも似たような入学式を終えて、講堂の外に並んで部活動の勧誘をする先輩たちを気にすることなく自分の教室に向かう。中学時代も部活動に参加していたわけでもなかったし、特に親しい友人を作ったことがないが、その場の流れで適当に合わせることは得意だった。


「ねぇ君、もしかして暇?」


誰よりも早く教室に到着して、窓から外の熱気を眺めていた俺に声をかけてくる女子生徒がいた。俺が教室に着いてからそれほど時間も経っていないはずだが、この女子生徒も俺と似たタイプなのかもしれない。周囲に馴染むのが苦手な同士とでも思って声をかけてきたのだろう。


「暇ってどこから思ったのかな?」


俺は外を眺めるのを止めて振り返る。背後に立っていた女子生徒はどこかで見覚えがあるように思ったが、入学式の密集を考えればどこかで見ることもあり得る話だ。


「特に何をするわけでもなく、外を眺めるだけを暇と言わずなんて言うのかしら?」


「……否定はしないけど。君も同じなんじゃないか?」


入学初日で教室に用事なんてあるほうが珍しい。俺に暇と突きつける本人もまた暇なのは間違いないだろう。さらに言えば、初対面でここまで真っ直ぐ言いたいことを口にする彼女は間違いなく失礼な人間だろう。


「私は金崎かなさき穂花ほのか。また自己紹介すると思うけど。あなたは?」


「俺は水瀬みなせ大和やまと。こっちの質問はスルーかよ」


長髪の艶やかな黒髪をなびかせて、整った顔つきと体型は紛れもなく美少女という言葉が似合う。美少女であれば何でも許されるわけでは全くないが、彼女の不遜な態度も容姿に似合っているのかもしれない。


満開の桜の中でもなければ、同じ部活動に勧誘されたわけでもなく、ただ誰よりも早く教室に導かれた2人。客観的に見れば、高校に早くも馴染めなさそうな2人が同士を見つけて軽い挨拶を交わした程度のこと。でも、これが俺の彼女の最初の出会いだった。

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