第34話 エピローグ

 ……そうだ。


――ところで、どうして愚か者を挑発したのでしょうか?


『あぁ、いわゆる抑止力の誇示ってヤツ? 偵察はしてるんだと踏んでたからねー。挨拶してやったのさ』


――この偵察はいつまで続くと思いますか?


『ボクにバレてるって気がついた時点で打ち切りじゃないかな。それにしても、まさか本が出来上がっているとは驚いたね。ログだとは思っていたけど……直接触っても問題ないデータだってわかったから、さっそく取り寄せて読んでみたらさ、いろいろプライベートとか大解放って感じで、関係者には見せられないよコレは』


――私としては用語一覧の回が有るのか気になりますね。


『最新話がそれだったよ。この話だけアホみたいに分量が多くて吹いたわ。内容も、君からもらった実際の一覧と読み比べると、いろいろ違いがあって面白いね。面白いだけだけど』


――そうですか。そのうち拝見してみたいものです。


『まぁこの一覧の話なら見せてもいいのかな……でさ、こっちも気になってること聞いていい?』


――どうぞ。


『あの子の事なんだけど、何が一体どうなったら、ああなるの?』


――昔、転生をした人が実際にいた、という話をしただけです。そうしたら、ああなりました。本人も、ああなる前の事は、全く覚えていないそうです。


『……せめて、とっておきの究極魔法を使った、とか言ってくれた方が、まだ現実味があったんだけど』


――期待に沿えず、申し訳ありません。


『いいよ。もう一つ気になる事として、ただ横になって転がってたデカいだけのアレを、なんでわざわざ立てたの? より一層めだっちゃってるんだけど』


――あの日の翌日から観光産業が立ち上がりましたからね。一応は防腐処理と防錆処理と、皮でも剝ぎ取ろうものならキモいクモの怪物に襲われて絶望の中で永遠に苦しむ、という噂を流しておきました。


『噂と言えばさ、あの竜を引き抜いた者は真の勇者となる、っていう噂をしているバカどもがいたよ。まったく気楽なもんだね』


――最近は勇者が流行っているのでしょうか?


『さぁね。素性が不明な人を勇者って呼ぶ蛮行がまかり通ってるからじゃないの? 何考えてんだか』


――勇気が持てるように、という、おまじないのようです。


『持ってから名付けろって。予約のつもりかよ。先行者利益でも狙ってるのかな?』


――まあ、気長に待てばいいのではないでしょうか。


『……なんか変わったね君。思い詰めてるよりはマシだから、いいんだけどさ』


――ご心配をおかけしました。


『もう迷惑もかけるなよ。昔からの知り合いに不意打ちで土管をぶつけられるとか、いくらボクでも、そんなの想定外だっての』


――ご迷惑をおかけしました。


『フン、そのうち仕返ししてやるから覚悟しろ!』


――承知しました。


『……ハァ、調子が狂うのは相変わらずか。ま、そろそろ切るよ。じゃーね』


――また会いましょう。


「おい、そろそろ行くぞ」

「そうですか、わかりました」

「お前も支度しろよ」

「は、はい」

「……衛生兵! いつまでその『たらい』とか言うの頭に落として遊んでんだ! サッサと来い!」

「はーい兵長さん!」

「まったく、あのバカは相変わらずだな」

「パーティーでの役割は、しっかりこなすようになったと思います」

「そうじゃなかったら、とっくに追い出してるわ」

「おひねりたくさんもらっちゃったー! れすとらん探すの?」

「ああ。そろそろ旨い飯にありつけねぇと、またコイツが勝手に田んぼを作りだすからな」

「あう……」

「コラー! 勇者をイジメちゃダメでしょ!」

「お前、そのセリフおかしいって思わないのかよ……」

「恥ずかしいので、できればその呼び方やめて欲しいです……」

「雑兵よりいーじゃん。ゆーしゃゆーしゃー」

「……やめろって言ってんだろ、流れノミ!」

「……貴様の方が小さいくせに、我をその名で愚弄するか」

「先に喧嘩を売ったのは貴様だ」

「よろしい、ならば「痛っ!」」

「行くぞ」

『はいぃ』


 ……まあ、気長に待てばいいのではないでしょうか。

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右も左もわからないのに勇者にされてしまった @OhMyBrokenAI

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