第32話 終戦
突風が吹き荒れる。アイツもコッチに飛んできた。意識がないようだ。間に合うか!?
「冷たっ!」
なんだ!? 炎に包まれていたから火傷をしているかと思ったが――正直助かるぜ。俺の体も悲鳴を上げている。
「ぜったいれいど――ぜったいれいど――ぜったいれいど――」
「おい! しっかりしろ! また何ワケのわからねぇことを呟いてやがる!」
「……兵長さん……無事だったんですね……」
「それはコッチのセリフだ! なんともないか?」
「……たぶん……」
今度こそ意識を失いやがった。それにしても何が起きたって言うんだ!? 周りがよく見えねぇ。とにかく突風のおかげで炎も消えた。奴も飛び回ってはいないようだ。気配は感じるが――危険な感じはしねぇ。ちょっと離れて様子をみよう。
「……ああ」
「お二人とも無事ですか? 治療は必要でしょうか」
「なんとか大丈夫そうだ。コイツは眠っちまってる。見たところ平気だろう」
「そうですか。まあ、なんとかなったようで、なによりです」
「随分と他人事だな……コッチはとんでもない目に遭ったってのによ」
「そのセリフを言うべきなのは、あちらの方ではないでしょうか」
「……そうだな」
……アレはなんて言えばいいんだ……スケールが違い過ぎるが、川の近くでキャンプをしたときなんかに、釣り上げた魚をああいう風にして焚火で焼くと、雰囲気が出ていい感じにはなるな。しかしあの太い棒は……あの巨体には似合っているのかどうなのか、やっぱりちょっと太すぎる気がする。しかも何の素材で出来ているっていうんだ? この剣と同じ? ……まさかな、どうやったらあんなデカいのが作れるっていうんだ。ガキの頃にデカい剣を振り回す夢を見たことはあるが、さすがにあそこまでデカくはなかった。想像を超えているにも程がある。異世界ってところでは、あんなのも常識だってのか? いくらなんでも、ありえねぇだろ。さすがに……
「なあ、あんなデカい棒みたいなの、お前は見たことがあるか?」
「あの大きさの物はありませんが、そっくりな物は持っています。これです」
「……いや、たしかに見えるところは似ているが……大きさが違い過ぎるだろ。そもそもこれは何だ? これだって俺は見たことがねぇぞ」
「私もよくわからないのですが、古い知り合いに相談したら『ボルト』という異世界の人工物なのではないか、という説をいただきました」
「異世界……ってことは、やっぱりコイツの仕業か」
「そうでしょう」
「どうしてあんなことをした?」
「暴走を止めるためでしょう」
「たしかに止まったけどよ……そうだな、ああならないとアイツは止まらなかった気がするな。コイツにしては、やりすぎだと思うが」
「全ての結果がどうなるかまでは、想定しきれていなかった可能性はあります」
「そうか……起きたら大変そうだ」
「私はそういうことの対処が苦手なので、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「俺だって苦手だよ……まあいいさ、このくらいしか俺にできることがないんなら、やってやる」
「ありがとうございます。では、私はちょっと他に用事があるので――」
「行く前に、この剣を――」
「剣はあなたに差し上げます。使ってくれる者がいなければ、剣も可哀想ですし」
「……そうか」
「勇者の剣を使ってみて、どうでしたか?」
「俺にはまだもったいないな。だが気に入った。使いこなしてやるさ」
「よかったです。私には使いこなせなかったので。期待しています」
「……ああ」
「アイツはもう大丈夫そうか?」
「ええ、なんとか。今は泣きつかれてグッスリと眠っておりますわ」
「悪いな。俺には結局どうすることもできなかった」
「お気になさらないで。隊長にも泣いているところを見せたくないって駄々をこねられてしまいましたから、もう私がどうにかするしかありませんでしたのよ」
「今回も俺は、また何も出来なかった――」
「何をおっしゃいますの? ちゃんと流星を生きて連れて帰って来たではありませんか。人生初の快挙では無くて?」
「……そうか。そうだな」
「これからは、もう少し気を楽に生きなさいな。英雄業も私たちが引き継いだのですから、魔界の心配もそんなにしなくてもよろしくてよ」
「……感謝する」
「英雄っていうのも、なかなか楽しそうで、なんだかワクワクしますわぁ♪ それじゃまた、失礼しますわ」
「……ああ」
「皆、この度の防衛、誠にご苦労であった」
『はっ』「おう」「どうも……」
「皆、わしからも労いの言葉を言わせてくれるかの」
『身に余ります』「いいってことよ」「宰相さん……」
「……本当に感謝しかない。流星殿も未だこの世に慣れない中、よくぞ我らを助けてくれた。礼を言うぞ」
「もったいなきお言葉です……」
「皆の者もこの者らを讃えるのじゃ!」
『おおおおあおあああああおおおあーーーー!!』
「まーたはじまったよ」
「何か言ったかの隊長殿」
「今日は許してやるよ」
「ほっほっ」
『あおあおあおあおああああおおおおーーーーーーー!!』
「ところでの、そなたに特別な褒美があるのじゃ」
「……なんですか?」
「ちょっと耳を貸せぃ」
「……賢者さんが? ……え……それって……!」
『あいうへへうぼああああおおおおあおあおあーーーーーーーーーーーーー!!』
飛んでいきやがった。よっぽど嬉しかったんだろうな。ん? 戻って来た?
「兵長さんも来るであります!」
「……ああ」
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