第30話 決裂
前線からの一斉射撃を機に、四天王の色が変わった。一万を超える色とりどりの攻撃魔法が四天王に炸裂したかに見えたが、四天王が虹色の煌めきを放っただけに終わった。もしやあれは禁断の絶対防衛陣――しかも何系統にもわたって回数制限が一万回以上――もはやあらゆる制限など、考えるだけ無駄だろう。あのような防御が現実のものとなるなど、まさに神業としか考えられない。愚か者め――異界から秘策を携えて来た真の勇者でなければ乗り越えられないであろう試練を、まさに用意してきたということなのか?
「なんで平然と歩いてくるんだよ! あんな攻撃、この世でこれまでに行われたことが無かったくらいなハズなのに、全くの無傷だなんて!」
「やっぱり魔族なんじゃないのか!? 俺たちの魔法なんて、いくら撃ち込んでも通用しないんだよ。魔族なんだったら仕方がないじゃないか……やっぱり逃げるしかないんだ」
「もう一回だ! あきらめるな! 次こそは通用するかもしれぬ!」
「三分の休憩ののち、再度一斉射撃を行う! 皆の者に、心を乱さず、落ち着くように申し伝えよ! あと一回だけは、なんとか最善の形に持っていくのだ!」
『はっ!』
「ああ、やるしかねぇよな。ここを突破されたら、もう防ぐなんて到底無理だもんな……」
「あと一回なんだ。死ぬ気で乗り切ろう……!」
前線は動揺している。あれだけの攻撃が一切通用しなかったのだ。立て直そうとはしているが、一斉射撃はあと一回で限界のようだ。だが今の四天王は絶対防衛陣が発動している。先程いくつか魔法を撃ってみたが、魔法が当たると、その系統の色の波紋が表面を伝う。この反応は絶対防衛陣と全く同じだ。つまり、魔法は四天王に命中していない。命中せず無効化されてしまっている。せめて、また色が黒くなれば、魔法は通るようになるかもしれない。
「止まってー! お願いだから! もうやめて! 足だって引きずってるし、どうして、そこまでして前に行こうとするの!?」
「もはや話すことなど無い! 踏みつぐされたくなければサッサと消えろ! 痛っ! またアレが来るまでは、こっちに対処するか」
ドラゴンなる者を知っていたというあの子は、残念だが、やはり信用はしきれない。愚か者に深層心理が乗っ取られている可能性は否定できない。四天王については一昨日、その頭上に潜んでいた忍びと話そうとしたが、何も語ってはくれなかった。何か事情があるようだが、こちらも洗脳されている危険が高い。とはいえ、こうなってしまったからには、タイミングがあれば私が直接、話をしてみるのも良いかもしれない――黒くなったから魔法を撃ってみたら、やはり今度は命中したな。
「クソッ、また黒くなりやがったか。せっかく削れ出してきたってのに。だがもう勘所はわかった。次また色が変わったら歩けないようにしてやる」
「……この蜂こわい」
兵長の攻撃は、四天王が黒くないうちは、それなりに効くようだ――物理と魔法を同時に絶対に防御することは、神の力をもってしても無理なのか、わざとそういう仕掛けにしたのか、まだ何か奥の手があるのか――とにかく、最後の最後まで何が起きるか、その最後の瞬間まで一切油断はできない。何があっても必要な対応は出来るようにしておかなければ。
「今度は足を狙って水虫にさせてやるぜ!」
「なにもかも腐らせてやる!」
「忘れていたはずの黒歴史を思い出させてやる!」
「玄関のドアの鍵をかけ忘れたか気になって戻りたくなる気持ちにさせてやる!」
「おい、頭がおかしくなってる奴がいないか!?」
「うへへ……いまこそ……禁断の術を……!」
「なんでもいいからあのバケモノに叩き込め! 奴にお似合いの狂気の一撃を!」
「準備が整いました!」
「よし……今度こそ! 次こそはあのバケモノに一矢報いてやろうぞ! 放て!!」
『くらえ!!』
今度は何色とも表現しがたい怨念の波が四天王めがけて一点に収束していく。あの波の中は魔界と化しているな。世界にとってもただでは済まない亀裂を時空に刻みこんでいるというのに、また黒色を解いた四天王は――怪しく瞬いたのみだ。
「行くんじゃねぇ! アレでダメだったんだ! お前一人が行ったところで何になる! そもそもヒーローってのはよ、そう何度も登場してちゃ有難みが薄れちまうもんなんだぜ!?」
「私はヒロインだから関係ないわ! 流星はまだ戦っているのよ! 私が加勢しなくてどうするっていうの!? 今、助けに行かなくて、なにが英雄よ! 笑わせないで!」
前線は混乱している。またしても攻撃が一切通用しなかったのだ。もはや出来ることは何も無いに等しいだろう。東に向かって逃げ出す者も出てきた。恐慌状態に陥るようなら対処が必要だが、今はこの戦況に集中しなければ。
「……わかった。ならもう止めねぇ。だが、お前の後でオレも特攻する」
「そんな必要はないわ。混乱している兵隊さんたちを、まとめてあげなさいな」
「オレはオレの好きにする。文句は言わせねーぞ」
「……いいわ。来てしまったら仕方がないから、お茶の一つくらいは付き合ってあげるわよ」
「そんな趣味はねーが、たまには飲んでやってもいいか」
「じゃ、行くわ」
「おう、ド派手にかましてやれ!」
前線から雷の精霊が飛び出し、世界を貫きながら四天王に迫る――しかし、それでも跳ね返された――あれは雷電殿だったのか――とんでもないものを見た。もし炸裂していたら四天王であっても消滅していただろうが、自身の魂どころか周りをも巻き込んで、まさになにもかも消滅していたのではないだろうか――
「雷電!!」
「なんだ今のは――またこの者か。この者は精霊だったのか!?」
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