第28話 再戦

「奴は尻尾を振り回しただけだ。他にどんな攻撃を仕掛けてくるか、わからねぇ。そんな危険な相手だってのは、わかってるか?」

「我はドラゴンには詳しい。任せておけ」

「そのドラゴンってので合ってるかどうかも、ハッキリはしてねぇんだ」

「こんな大舞台でドラゴンでないワケがないであろう」

「遊びでやってんじゃねぇんだぞ!」

「貴様らこそ、がるぐれいぶを狩ることしか考えておらぬのであろう。愚かなり。我が手懐けてやろうというのだ。感謝せよ」

「……ブチギレさせたのは、どこのどいつだ」

「あれは、うっかり逆鱗に触れてしまったのだ。もう油断はせぬ」

「げきりん……?」

「それみたことか。我には、あの者の事が、よくわかる。ゆえに任せておけばよいのだ」

「……いきなり仲良く握手しようだなんて、甘えた考えをしているか?」

「お仕置きは必要だ。この地も潰させはせぬ。我に任せよ」

「……ルールは覚えてるか?」

「無論だ。そうなるまでは我に任せよ」

「いいだろう。俺は俺で攻撃を仕掛ける。お前には好きにさせてやるから、俺にも好きにさせろ」

「よかろう」

「賢者、お前は――聞くまでもないか」

「はい、目を光らせておきます」

「わかった。それじゃ行くぞ。もうすぐ夜明けだ」


 ……絶対に止める。




「……また貴様らか。一昨日は、よくも、やってくれたな……よくもまあ、再度、我の前に出てこられたものだ。その勇だけは褒めてやろう……」

「貴様こそデカいのは図体だけにしておけ。反省はしてきたのであろうな? 謝るなら許してやるから勇気を出すのだ」

「……貴様に許しを請うことなど無い……」

「貴様は誇り高き竜であろう? 自らの心に問いかけてみよ」

「……貴様、名は何という? 一昨日は聞きそびれていた」

「流星だ! 覚えておけ」

「流星か……貴様に言われた通り今、再度、我が心に確認した。我はこの先に進む。止めてくれるな」


 お仕置き!


「……何の真似だ? 手など上げおって……今の雷は貴様の仕業か?」

「これ以上進むというなら容赦はせぬ。雷の鞭をくらうがよい」

「……好きにせよ」


 がるぐれいぶが光った……兵長さんが攻撃をしたんだ。




「わからないの? 言うこと聞いたら願いを叶えてあげるって、そんなの悪いヤツが騙してるに決まってるんだって!」

「悪いヤツなんかじゃない! ずっと見守ってくれてきていたんだ! 魔王様だけは信じる! 他のヤツの言うことなんか信じない!」

「あーもう、そういうの洗脳されてるって言うんだよ! わかる!?」

「煩いウルサイうるさい! 僕の何がわかるって言うんだ!」

「わかるよ! 今だってイキナリこっちに連れてこられて、ホントはどうしていいか、わからなくて困ってるんでしょ?」

「このまま進んで邪魔なもの全部つぐして行けって言われたんだ! わかってるから安心しろ!」

「そんな事しても願いなんか叶わないよ! だからサッサと止まれー!」

「嘘をつくなー!」

「嘘をついてるのは違うヤツなの! わかれ石頭!」

「うるさい! ノミの分際で!」


 あーもう! 分からず屋! なんでこんなに頑固なの? どんどん雷ぶつけてやる! コイツは人じゃなくてドラゴンだからセーフだよね!?




「ここの人たちは、いい人たちだよ。悩みとかちゃんと聞いてくれるし、素直になれば助けてくれるよ」

「そんなの必要ない……誇り高い竜は、ひとりでも生きていけるんだ。馴れ合いなんてゴメンだ」

「こっちの世界の事、何も知らないんでしょ? 楽しいよ。そんな世界を壊さないで!」

「僕にとっては楽しくない! いらないんだ……欲しいものは全部、魔王様がくれる。この黒の鎧だって魔王様がくれたんだ。おかけで、なんかヤバそうなこいつの攻撃もへっちゃらなんだ」

「そんなのくれるとか、そいつの方がヤバいに決まってるって! 自分のやってることだってオカシイって、ホントは、わかってるんでしょ?」

「……オカシクない。魔王様はやさしい。魔王様の言うことは絶対に正しい……」


 ううぅ、どうして……




「……竜なる者よ、もうよいのではござらぬか」

『勇なる者よ、見苦しい有様を見せてしまって済まぬ』

「気にしないで欲しいでござる。拙者は口が堅い故、決して漏らさぬでござる」

『感謝する』

「そなたと心を同じくする者がおることは、わかったでござろう。この世こそ、そなたの居場所として相応しいのではないでござるか?」

『……今更そんなものは要らぬ。もう話したであろう。そなたは勇はあるが物分かりが、ちと足りぬな』

「そなたも、その誇りが高すぎる故、呪いとなってしまって自身が縛られているのでござる。拙者にその呪いが解けず、悔しい限りでござる……」

『そなたは、ようやってくれた。三日三晩にわたり美食に飢えて苦しんでいた我が授かったあの「おむすび」とやら、あの味は一生忘れられぬ。その後も、ただ我の我儘に付き合い一日三食の喜びを与えてくれた。褒美を何もやれずに申し訳ない』

「褒美は貰っているでござる。拙者は調理が趣味でござるから、そなたがおいしく食べてくれるのは、拙者も嬉しいのでござる。その体に似合わず小食なのも助かったのでござる」

『腹が空いているわけではなかったからな。ただどうも、毎日美食の味に満たされねば、どうしようもなく心が乱されてしまうようなのだ。我は弱い。許せ』

「その心があったからこそ、拙者もそなたを信じる気になれたのでござる。竜なる者よ、そなたは強く心優しい誇り高き竜でござる。今一度、考え直してはもらえぬでござろうか」

『勇なる者よ、その誠実なる心と我をも恐れぬ勇には感じ入る所ではあるが、こればかりは――』


 ……急に黙っちゃって、さっきから何を考えてんだろ……足を止めて考えればいいのに……

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