第27話 何故
「さっき言ってた、誰にも斬れねぇってのは、どういうことだ?」
「ああ、あれは防衛陣ですよ」
「防衛陣? 魔法じゃなくて物理攻撃を防ぐ陣なんかあるってのか?」
「あの反応は、そう考えるのが自然です。剣を当てる度に、四天王の体のその場所から、円状に白い模様が波のように広がっていたでしょう?」
「ああ、奇妙な模様だとは思っていたが、確かにそうだったな……まさか完全に攻撃を防御する陣だなんて言わないよな?」
「そのまさかだと思っています。私も裏で数撃加えてみましたが、防御が固いというよりは、攻撃が跳ね返されてしまって通らない、という印象を受けました」
「そうだ……事前に攻撃が通らねぇって聞いてたから、初撃は小手調べで軽く入れてみたがアッサリ跳ね返された……二撃目は一番弱そうな尻尾の先をぶった切ってやろうと全力を叩き込んだが、全く同じ手応えだった……いや、そもそも手応えが無かった。振った腕がそのまま戻ってきやがるんだ……何度やっても、ずっとそうだった」
「あなたでなければ、初めの一撃で剣は折れていたでしょうね。鋭く入れたからこそ、澄んだ音を出して跳ね返ってきたのでしょう」
「特殊な防衛陣の話は聞いたことがある……魔族に使われたこともある……魔法が全然効かねぇヤツだ……だがよ、一回防いだら消えるもんだろ? 次の陣をすぐにまた張るなんて、しかも何度も繰り返し張るなんて、そんな芸当が可能なのか? 奴が陣を張っているような素振りなんて全く無かったぞ!」
「その点に関しては同意です――考えたくはありませんが、一回の制限どころか、そもそも回数の制限が無いのかもしれません」
「……それじゃ、無敵ってことかよ……滅茶苦茶だ……」
「魔法は効いているようですから、完全に無敵というわけではありませんね」
「いくらなんでもオカシイだろ! そもそも奴は本当に四天王なのか? お前、何か知ってるだろ? 話せ! 奴は本当は何者だ!?」
「魔王配下の四天王ではないことは確かです。ただ、それ以上の事は私には全くわかりません」
「ち、ちょっと兵長さん、落ち着いてくださいよぅ――」
「お前もだ! どらごんって何だ? 奴の何を知っている? 知り合いなのか!?」
「あうぅ」
「クールダウン」
「……! すまねぇ、また取り乱しちまった」
「……今日はマジで大変だったみてーだな。お前のそんなのは初めて見たぜ」
「ほらみなさい。来てあげて正解だったでしょう?」
「ったくよー、お前は黙ってろ」
「失礼ね。いいですわよ、どうぞお続けになって」
「改めて聞く。どらごんってのは何だ? 空を飛ぶのか?」
「えっと、空を飛んだり、炎を吐いたりします……そういう設定ってだけだけど」
「設定? どういうことだ?」
「ホントにいるわけじゃなくて……マンガとか、おハナシの中でだけの怪物っていうか……」
「まんが? ……とにかく、空想の生き物ってわけか?」
「そうです……」
「……実際にそういう生き物がいる別の世界から連れてこられた、というのが可能性としては高いですね」
「なんだと? 誰がそんなことしやがるってんだ? そもそも出来るのかコラ!」
「現に他の世界から連れてこられた人がいるじゃないですか」
「あ……」
「オイオイ、神様がオレらにあのデカブツをプレゼントしてくれたってのかよ? 冗談だろ!?」
「他にそんなことが出来る方を私は知りません。まあ、誰に送りこまれたかは問題ではないでしょう。なんらかの方法で自力で来た可能性もあります」
「そんなことって……」
「で? お前らがなんで、つるんでるんだ? どういった風の吹き回しだ?」
「私は別に、つるんでなんかいませんわ。この人が勝手についてきただけですのよ」
「お前が城の外に出るとアブネーから、ワザワザついてきてやったんじゃねーか。ありがたく思えやコラ」
「別に頼んでなんかいませんわ」
「周りが迷惑するんだよ。今だってオレがいなかったら、他のヤツに雷が当たってただろーが」
「べ、別にこれは……ワザとですわよ、ワ、ザ、と! その失礼な口にお見舞いしているだけですわ!」
「その、ワ、ザ、と、に合わせての三連発もワザとだって言ってんのかよ。ハッ、笑わせるぜ」
「……その自爆装置をショートさせてあげても、よろしくてよ……」
「オイオイ! 冗談でもそんなこと言うもんじゃねーぞ、恐ろしいヤツだな……」
「いつでも狙えるということを、心に刻んでおきなさいな」
「わーったよ、おちつけよ。まったく調子が狂うぜ……」
「……まあいい。イチャつくなら後にしろ」
「! な、なにを言ってらっしゃるの!? だからそういうワケでは……」
「オイ! また連発し始めただろーが! 余計なこと言うなバカ!」
「雷電殿、ちょっと流星殿の様子でも見に行ってあげては頂けませんか?」
「! そ、そうね。そうさせて頂くわ。私が元気づけてあげないと。ではみなさま、お先に失礼しますわ」
「……助かったぜ。さすが賢者と言われるだけあるなオイ」
「きりがなさそうでしたので」
「随分とまぁ変わったもんだ」
「うるせーな! いろいろあったんだよ」
「とにかく、お前らが来てくれて助かったぜ。俺は何も出来なかったからな。英雄の名は、そんなお前らに相応しいから、くれてやる」
「オレこそ何にもしてねーだろーが。それに英雄なんて御大層な名なんざ、いらねーってんだよ」
「俺こそいらねぇから、この絶好のタイミングで押し付けてやるんだ――よし、お前らを『英雄バカップル』と名付けてやろう。感謝しろ」
「……お前も随分とまー変わったもんだな」
「……いろいろあったんだよ」
「……この剣を貸すってのか? いいのか?」
「ええ、それなら、あの防衛陣に当てても音は出ないでしょう。音が出なければ余計な力も入っていないということですから、あなたが使えば剣が折れるということも無いと思います。四天王も音を嫌がっていたみたいですし、無暗に戦況を悪化させる心配も減ります」
「その四天王ってのは本当は違うんだろ? 別の呼び方をした方が良くないか?」
「そうは言っても、がるぐれいぶ、というのは言いにくいですからね」
「ああ、なんでガルグレイヴじゃねぇんだろうな。確か俺が最初に聞いたのはそんな発音だったと思ったが」
「その呼びにくい名前も、本名を名乗るという習慣も、違う世界から来たという状況証拠だと思います」
「……どうしてこんな事になったんだろうな」
「愚か者の考えることは、私には測りかねます」
「愚か者……? 神の事を言っているのか? お前はいったい――」
「実際のところ、何もわかっていないのです。愚か者はいますが、それが誰なのか、何なのか、どうして愚かな事をしているのかは、ハッキリしないんです。ただ、今こうして四天王が襲ってきているのは事実です。それだけが確かな事です」
「……とにかく俺は、この剣を振るうだけだ。一撃も効かないとしても、それしか出来ることがないからな。だが……本当にいいのか? この剣は――」
「その剣だからこそ、使ってほしいのです。それ以上の剣は存在しませんから」
「……そうだろうな。伝説の剣をこの手にする日が来るとは……もう、あの人は追いかけないって、とっくの昔に決めたのに、こんな形で再会するなんて……」
……違うんだ。
「今日は本当に奴は来ないんだな?」
「そのようですね。一応、一昨日キャンプを張った辺りに侵入検知機を仕掛けておきましたが、そこからの警報も届いていません」
「なぜだ? お前んとこの隊員が初めて遭遇した時は、安息日でも構わず前に進んでたんだろ?」
「さあな。とにかく今日は休んで、明日、夜が明けたら動き出すって情報を貰ったぜ」
「どんな情報だ、それ……どういうことか気にならないのか?」
「それどころじゃねーんだよ。遅く来てくれるぶんには、こっちは大助かりだろーが。それだけで充分なんだよ」
「こちらの文化に馴染んだのではないでしょうか」
「なんでそういうとこだけ素直に受け入れるんだ……どこまでもズレてやがる」
「ま、明日にはやってくるんだ。楽しみに待ってりゃいーんだよお前は」
「こんな所で待つかよ。今夜はまたあの場所でキャンプだ」
「それがいいでしょうね。隊長さんは、どうするんですか?」
「オレはここで待機だ。あと、もうオレは隊長じゃねぇ。坊主頭に譲って来た」
「……そうか」
「なんだと? お前が前に出るから、俺らはすっこんでろって言うのか!?」
「それで構わぬ」
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