第26話 撤退

 クソッ、ただの一撃も入らないなんて! マズい、アイツ竦んじまってるのか!? チッ、身体が動かねぇ。いつもなら、あんな尻尾の一撃なんか避けられたってのに、頭に血が上っちまった! 頼むから逃げてくれ!!


「逃――」

「大丈夫です、私が守りますから。あなたは、まずは落ち着いてください」

「お前、いつの間に居やがる……」

「治療はちょっと待ってもらいますよ。治したら即、斬りかかって行ってしまいそうですからね」

「あたりまえだ!」

「おそらく、いくら斬ろうとしても無理です。アレは誰にも斬れません」

「なんだと?」

「一度、撤退するしかないでしょう。そのあとで説明します」

「アイツはどうする? 竦んでるぞ」

「もう少し様子を見ます。まだ四天王と話が出来るかもしれません。話の内容を、あなたにも聞こえるように調整しましょう」

「なにを――」

『あ、あの、お名前は……?』

「我の名は、がるぐれいぶ」

「……そういうことか」

「四天王の方は声が大きいですから必要ないですね」


 ……ハァ、どうしてこんなことに……糞が……


『が、がるぐれいぶさん、ですか。カッコイイお名前ですね……』

「……我の名を確と呼ぶ者が現れたか。この地には愚昧で卑小な者ばかり、というわけでも無さそうであるな」

『そちら様は、ご立派な黒いドラゴン様でありますね……』

「どらごん? 何のことかわからぬな」

『あ……そうか、そっちの世界だとそういう名前じゃないんだ……』

「……? 我の名は先ほど言うた筈だが」

『あ、いえ、なんでもないです、がるぐれいぶ様』

「……まあ良い」


 どらごんって何のことだ? アイツ何か知っているのか?


『がるぐれいぶ様は、なんでお城を潰したいんですか?』

「城……? この先に城があるのか?」

『そうです。そこが無くなっちゃうと困る友達がいて、できれば、やめてほしいんです』

「……他に城はないのか?」

『……わからないです……』

「済まぬが、我はこの先の全てを破壊せねばならぬ。何度、礼を尽くして願われたとしても、曲げるわけにはゆかぬ。諦めよ」

『そんな……』

「貴様もそこを退くが良い。その身では我の前に出るなど危ないであろう。下がるのだ」


 結局こうなるのか。話は聞かねぇ攻撃は効かねぇ、一体どうなってやがる……


『そんな……そんな好き勝手なこと言うな!』

「……なんだと?」

『何で壊すの? 好き勝手に町を壊して! 人の迷惑を考えろ!』

「迷惑……だと……」

『そうだ! お前なんか迷惑だ! 邪魔だ! だいたいドラゴンなんだったら飛べばいいのに!』

「! ……貴様……」

『飛んでいけば、いちいち町も城も壊さなくて済むでしょ! 地の果てまで飛んでいけ! そんなことも出来ないのか!』

「……貴様……少しは話が通じる者かと思えば……我を愚弄するとは……許せぬ……許さぬぞ!」

『イヤ……!』


 どうして急にキレやがった? そんなに破壊を止められるのが気に障るのか? 魔王の命令だからか? わからねぇ……いや、それより――


「おい、もう話は無理なんじゃねぇのか」

「そのようですね――おや」


 なんか来るぞ!


「治せるなら早くしてくれ! ヤベェのが来る!」

「いえ、あれは――」


 ……奴に凄まじい雷が直撃しやがった……なんだ? 魔界化でも始まったか!?


『あ……え……?』

『流星! シャキッとしなさい! あなたの勇気はどこへ行ったの?』

『……雷電! どうしてここに!?』

『あなたが助けを呼ぶ声が聞こえたからよ。仕方ないわね、まったく』

「く……何をした……貴様ら……」

『あら、あの雷撃で炭にならないなんて、頑丈な怪獣ですこと。褒めてさし上げますわ』

「……効いたぞ……雷など多少痛い程度に過ぎぬと思っておったが」

『私のは特別製ですからね。お代わりをお望みかしら?』

「舐めた口を……まとめて成敗してくれるわ!」

『……ちょっと挑発しすぎたかしらね』

『マズいぞ! 尻尾に気をつけろ、雷電!』

『ありがとう!』

「派手にやられたようだなオイ」

「……なんでお前がいるんだよ」

「あのバカが止めても聞かねーからだよ。仕方ねーから、ついてきた」

「ついてきたって……どうやって」

「アッという間よ。まさか、あんなことが出来たなんてな。さすがのオレもビビったぜ」

「……なるほど。組み合わせとしては抜群のようですね」

「何を言って……いや、それより治療してくれ! 頼む!」

「加勢するのですか?」

「違う! あの無謀なバカどもを連れて撤退するんだ!」

「いいでしょう。では、しばらくじっとしていてください」

「そんなに焦んなくても良いみてーだぜ。アレ見てみろよオラ」

「……また変なのが来やがった……どうなってやがる……」

「あちらの二人も、ちゃんと逃げるつもりのようですね。安心しました。それにしてもアレは、まるで――」


 大量の火の玉が奴に向かって降っていく――なんて光景だ――魔界でも見たことねぇ。


『暴虐の限りを尽くす石頭に、その身が埋まるまで我の怒りを叩き込む――その場で暫く反省しろ! 偽メテオ!』




「こりゃ完全に埋まっちまったなー。燻製でも出来上がるか? ハハハ!」

「そんなヤワじゃねぇだろ。多分、ただ動いてないだけだ。そのうち、また前に進みだすさ」

「まあ、そんなところでしょうね。あの二人もこっちに来ていますし、そろそろ私たちも引き上げましょう」

「……こんなにアッサリ治療するとはな……魔界に居てくれりゃあ、どれだけの奴らが助かったか……」

「私は最低限の事だけをする主義ですから」

「……チッ」


 どうして俺は、いつも、なんにも出来ねぇんだ……糞が……!


「……星を降らせる、か。その発想は無かった――」

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