第25話 会敵

「ルールは覚えてるな?」

「はい! 四天王に対して常に東側に位置取ること! 兵長さんが動けなくなったり四天王の裏側に回っちゃったら、東に向かって一目散に逃げること! 後ろは振り返らない!」

「上出来だ」

「でもー町の向こうに行ったら、東に戻るってことは町の中を突っ切るんでしょー? 大通りとかを進めばいいの?」

「あぁそれなら、ちょっと待ってろ」


 んー? 町の方を向いて、どうしたんだろ?


「……フゥ――」


 剣を取り出したね。


「スゥ――」


 剣を振り上げた……え……


「フンッ」


 ……ウソでしょ……


「これで通りやすくなっただろ。うっかり方向そらしてガレキに激突したりするなよ」

「……あー……」

「なんだ? あんまり幅を広くすると、四天王まで素通り出来ちまうかもしれねぇから、これ以上は広げねぇぞ。お前だって、その方が良いだろ?」

「いや……その……」

「……なんだよ」

「……町、壊しちゃダメでしょ?」


 なんか思ってないこと言っちゃった!


「こんくらい、しょうがねぇだろ。そもそも俺らが一度撤退するなら、どうせこの町は四天王に潰されて終わりだ」

「みんなで逃げるの?」

「そうなったら、だ。実際まだ会ってもいねぇんだから、どうなるかはわかんねぇよ」

「……町、こんな、なっちゃうんだね……」

「……これどころか、全部まっさらキレイに潰して進んできてるのが、これから御対面する四天王様だ」

「……そんなの相手になんか出来ないよぅ……」


 イヤだ……


「あなただって、これくらいの事は出来ますよ」

「……へ?」

「エアーキャノンを連発すれば、これよりは散らかると思いますが、町を貫通するまでそんなに時間はかからないでしょう。初日の訓練の時の乱射を一方に固定して、連射すればいいだけです」

「え……そうなの?」

「そうですよ」

「そのくらいは出来るのか。腑抜けなのが問題なだけか」


 なんかヤバいこと出来るようになっちゃってる……? いつの間に……


「まぁ自分でもできるんなら、やらせりゃ良かったな」

「出来ないから! やらないから!」

「……あぁそうかい」

「大体エアーキャノンならまだわかるけど、なんで剣で、あんな先にある町が真っ二つになってんの!? おかしくない?」

「こんくらい出来ねぇと、空飛んでる奴とか、遠くからウジャウジャ来る奴らとかに手間取っちまって、大変だからな」

「大変って……剣は飾りで好き勝手やってるだけでしょ!」

「飾りだろうがなんだろうが好き勝手して何が悪いんだよ」

「うーあー、なにがなんだか――」

「落ち着けよ。これから四天王に会うんだぞ、まったく……」

「まあ、こういう荒事には慣れていないでしょうから、仕方ありませんよ」

「それが腑抜けだって言ってんだよ。訓練すんなら、こういうのに慣れる訓練をさせとけってんだ」

「参考にさせて頂きます」


 この人たちなんかに、ついていけない……ううぅ。




「ルールは覚えてるな?」

「はい! 四天王に対して常に東側に位置取ること! 兵長が動けなくなったり四天王の裏側に回ったら、東に向かって一目散に逃げること! 後ろは振り返らない!」

「もう大丈夫そうだな」

「ふん」

「……賢者、お前はどうする?」

「まずは後ろの方で静観させていただきますよ。いざという時には、ちゃんと仕事はしますので」

「それでいい。四天王は俺が相手をする――お前も余計な事をするなよ」

「しませんよーだ」


 するわけないし!


「……それでいい」




 ……来た。怪獣だ――っていうか、あれって……


「止まれ! 話がある!」

「……なんだ? まだ逃げていない愚か者が、我に何の用だ」

「もう、この先には進むな! 行きたいなら、せめて方向を変えろ!」

「何を言うかと思えば、可笑しなことを――なぜ、そのような妄言を、我が聞き入れなければならぬというのか――」

「この先はお前の来るところじゃない! 何が目的で、この先を目指すんだ! お前にとって、それほど大事か!」

「貴様に教える義理など無いわ――我が苦しみ――ようやく解放されるというのに――それを妨げるなど言語道断――許しがたい」

「最後にもう一度言う! これ以上進むな!」

「我に命ずるは魔王様のみ――貴様が魔王様だとでも言うのか? 笑わせる――」

『キーン!』


 え? 兵長さんが消えた――


『キーン!』

「クソッ! 何だこれは!」


 あ、ドラゴンの尻尾の方からコッチに向かって飛んできた!


「……貴様、何をしている……?」

「テメェ……舐めやがって……!」

「……我に牙を向けるというか? 愚かな、どうして死に急ぐ――」

「ここで止めるしかねぇんだよ!」

「……ならば許そう。我はこのまま進む故、気の済むまで止めるが良い。我がしてやれるのは、それだけだ。許せ」

「……!」

『キーン!』


 また兵長さんが消えた……


『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』


 ……透き通るような高い音だけがずっと響いてくる……もしかして剣でドラゴンを斬りつけてるの? 黒いドラゴンが音に合わせて白く光ってるような……なんで? 兵長さんはどこ?


『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』

「クソッ! 止まれ! 止まりやがれ! 俺と勝負しろ!」

『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』

「……蠅に興味など無いわ……」

『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』


 ドラゴンが尻尾を振りながら、どんどん大きくなってくる……デカい。


『キーン!』『ギッ!』『……』


 あ、音が止まった……


「……こんな事が、あって、たまるかよ……!」


 剣が折れてる! あ、でも二本目を出した!


「糞がぁっ!」

『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』


 どうしよう、あのドラゴン、どんどんこっちに近づいてきてる……


『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』『キーン!』

「……耳障りな音だ。済まぬな、気が変わった」

『キーン!』『ベシッ!』『ドーン!』


 え? なんで町の方から音が!?


「……逃げろ!」

「え? 兵長さん? なんでそっちに……」


 ……あ……まさか尻尾で……


「逃げてくれ!!」

「……貴様も我を止めるというのか……?」


 ……助けて……

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