第24話 あれは訓練ではないし、スキルはそうじゃない。どんだけ頭お花畑なんだ……

「おい、アレはどうなった?」

「遠い所へ行きました。とりあえずは、これで四天王に集中できます」


 よし!


「助かるぜ」

「いえ、なにより自分のためにしたことですので」

「何の話ですかー?」

「知らないでいい。世の中、関わっちゃいけないモノがある。それだけだ」

「その通りです」

「ふーん」




「昨日からずっと忙しそうにしてるね」

「そりゃ、明日にでも戦闘に巻き込まれるかもしれねぇんだからな。準備も急ぐさ」

「今のところは想定通りに事が進んでいるのでしょうか」

「ああ、朝一の報告ではそうなっていた」

「なら私たちも明日は忙しくなりますね」

「そうだな」

「明日なにがあるのー?」

「何って、お前……」

「四天王さんに御挨拶するんですよ」

「おお……ついに四天王と対面する日が来たのだな!」

「明日、な」

「ふふ……腕が鳴る……今から待ち遠しいぞ……覚悟しておけ……」

「じゃ相手頼む」

「……賢者よ、どうしてもというのなら、そちに任せても良いぞ?」

「いえ、私は静観しますので」

「……!」

「……逃げやがった」

「まだ出発までは時間がありますから、しばらくは遊ばせてあげましょう。活気がある現場もこれで見納めでしょうし」


 ……仕方ねぇな。




「兵長さーん!」

「……ようやく帰って来たか」

「みんなと一緒に訓練してきたよー!」

「訓練?」

「敵が攻めてきたらー、あーしてこーしてーって言いあっててー、それに『うんうん』ってしてきたのー。ほら、あそこでもやってる感じのヤツー」

「……迷惑かけなかっただろうな?」

「みんな忙しそうだったから、後ろでおとなしく『うんうん』してたー」

「……ならいい」

「あれ何の訓練か知ってるー? おしえてー」

「訓練じゃねぇよ。実戦前の打ち合わせだ」

「実戦?」

「ここは戦場になるかもしれねぇんだよ。ボケっとしてるのはお前くらいだ」

「四天王を止められないと、そうなっちゃうの?」

「ああ」

「じゃ止めないとね。お城も潰されたらイヤだし」


 ……コイツ、いろいろ、ちゃんと、わかってるのか?




「兵長さん兵長さん」

「……なんだよ」

「兵長さんって、どんなスキルが使えるんですか?」

「どんなって……剣技だろ」

「カッコイイ技名のヤツ教えてくださいよー」

「そんなの無ぇよ」

「えっ? ひとつも?」

「ガキの頃なら確かに、いろいろ気になる技とか有ったし、見よう見まねで試してたこともあったがな」

「そんなんで魔族と戦えるんですかー?」

「どうして、そうなるんだよ」

「だって通常攻撃しかしないんでしょ? 魔法も使わないって聞いたしー」

「通常攻撃ってなんだよ……攻撃は攻撃だろ、好きにさせろよ」

「流星殿は、昨日の模擬戦闘で兵長殿のスキルを確認しなかったんですか?」

「もぎせん……あー、昨日のヤツは、見ててもよくわかんなかったー」

「あれがまさに、兵長殿の剣のスキルの質と量が共に際立っていることを示していたのですよ。本当に感服しました」

「技名は?」

「一つ一つに名前を付けていたら日が暮れるでしょうね。そもそも、あの時に見せて頂いたものをさらに組み合わせるなどして、どんどん多彩なスキルとなっていくでしょうし、名付けなど無粋なのではないかと思いますよ」

「なんだかよくわかんないけど、とにかくスゴイってこと?」

「そうです」

「お前ら、おだてても何も出ねぇからな。特に賢者、お前に褒められても、全然うれしくねぇよ。皮肉か?」

「そんなことはありませんよ」

「フン」

「兵長さんよしよし――あっ! それならー、兵長さんのスゴイ剣技スキルをまとめて『兵長スペシャル』って名付けてあげるー!」

「……ダサいからやめてくれ」

「えー? いいと思うんだけどなー」

「よくねぇよ」

「あーあ、スキル欲しいなー。魔法は教えてもらったけど、スキルは教えてもらえなかったんだよねー」

「教えて簡単に身につくスキルなんか有るわけねぇだろ」

「技名を言えばスキルが発動したりしないの?」

「魔法じゃあるまいし、そんな夢みたいなこと言ってんじゃねぇ」

「スキルは魔法と違って、心で願えば叶うものではありませんよ。体を動かして結果を出すものです。地道な努力の積み重ねが物を言います。まあその点においては魔法もそうですかね」

「神頼みなんかでスキルを手に入れられるほど甘くねぇんだよ。神なんか関係ねぇ。自分の力でなんとか手に入れて使うのがスキルだ」

「じゃあムリだー!」

「そんなことはねぇぞ。お前も既に使っているスキルはある」

「えっ? 何? 技名は!?」

「昨日の逃げまくってたアレだ。相手があまりにすばしっこくて逃げきれてはいなかったが、アレなら大抵の魔族からも逃げられると思うぞ」

「ホント? そんなにスゴイ!?」

「ああ、逃げ足が速いどころか、まさにすっ飛んでたからな。そのままわらに突っ込むくらいの勢いでな――よし、アレを『偽逃げ足』スキルと名付けてやろう。感謝しろ」

「……『偽』ってダサいー。微妙に言いにくそうだし。ぎにぎぇぁあ……にぎぇえあぁ……ほらー」

「足を使ってねぇからな。ちゃんと『偽』って申告しとかねぇと神罰が下るぞ」

「さっきスキルは神様関係ないって言ってたじゃん!」

「よく覚えてたな。合格だ」

「ムキー!」


 ……いつのまにか、俺まで変なノリに巻き込まれちまった……




「よし、今日はここでキャンプだな」

「了解です」

「えー? 町がもう、この先に見えるのに、なんであそこで泊まらないんですかー? ……あ、もしかしてー、こわいんでしょー?」

「ちげぇよ。あそこで寝てる間に四天王が町を破壊し始めたら、後手に回って万が一ってこともあるから危険なんだ」

「ほえー」

「明日もここでしばらく待機して、四天王が町に着きそうになったら、こちらも動きましょう」

「そうだな」

「あったかいオフトンで寝たかったなー」

「テントでキャンプするってのも冒険っぽくて良いだろ?」

「おおーなるほどー」


 ……どんだけ頭お花畑なんだ……ハァ……その勢いで、魔界もお花畑に変えちまってくれ。

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