第23話 ここは魔界ではない

 これで十枚目の障壁を展開完了。あと六枚は張るか。


「ねー兵長さん」

「……兵長はやめろ。今は兵を率いていない」

「じゃあ何て呼べば?」

「……なんだろうな」

「英雄さん?」

「兵長の方がマシだ」

「じゃ兵長さんで」

「……仕方ねぇな」

「でね、聞きたかったのはー、外の世界ってどこもこんなに荒れてるもんなの?」

「……荒れてる?」

「だって、さっきまではまだ畑みたいなのあったけど、もうなにも無いし」

「ただの平和な自然の風景じゃねぇか」

「自然かー。そう言われればそうだけど……」


 今夜借りる予定の宿の結界はどうすべきか。


「お城を出て町から外に出たときはね、なんか普通だなぁって思ったの」

「あれが普通かよ……」

「道の両側にズラーっと人が並んで旗を振ってくれてたね。なんか有名人になったみたいだったー」

「お前は相当有名になってたらしいぞ」

「ホント? なんでだろー」

「俺は細かいことは知らん」

「でー。昨日、隣町についたでしょ。そこまでは別に違和感とかなくて。むしろココ異世界じゃないでしょって思ったくらいだった。まー、町に誰もいなかったのは、チョットこわかったけど」

「住民は全員避難してるからな。軍が展開してるのもこの先だし、あそこがゴーストタウンみたいになっちまうのは仕方ねぇよ」

「で、今朝起きて町を出発して、そっからだよ。急に田舎みたいになっちゃって」

「いなか……? よくわかんねぇな」

「畑とかばっかりで、それもすぐチラホラになって、今はもう荒れ放題の野原でしょ」

「城下町とそれを囲む町の数々は、この国の中心部だからな。それなりに人もいるし、いろいろ発展もしてるさ。だがその外となると、ほとんどが未開拓の土地ばかりだ。未開拓っていうか、開拓しても潰されて自然に還るって言う方が正しいか」

「魔族が襲ってくるってヤツ?」

「ちげぇよ、モンスターだ。こんなところにまで魔族が来てたまるか。今回の四天王だって例外中の例外だ」

「町が潰されるのって魔族がやってくるからじゃないの?」

「それはもっと西の方の話だ。俺達は今回は、そこまでは行かねぇよ」

「そっちって、もっと荒れてるの?」

「そもそも、ここは荒れてねぇ。荒れてるってのはな、岩しかなかったり、常に竜巻みたいなのがウロウロしてたりする土地の事を言うんだ」

「竜巻がウロウロ……それって魔界のハナシ?」

「魔界はもっと狂ってるぞ」

「ふえぇ……」

「魔界じゃなくてもな、強力な魔族がいる周辺は、土地そのものが歪んだりすることもある。魔法使いなんかは、それに釣られて頭がおかしくなる奴もいるぞ」

「地獄よりヤバそうなんですけどそれ……」

「さっきのキモい地獄に比べりゃ、たいしたことはねぇよ」

「えー? あの子、そんなに近寄らなければ、まだなんとか耐えられると思うんだけど……」

「マジかよ。俺は二度と御免だぜ。魔界に逃げ込めば絶対に会わないで済むってんなら、喜んで逃げ込むぞ」

「なんか地獄観の違いが深刻なような」

「知るか。お互い地獄は御免だ、ってのは同意できるんじゃねぇか?」

「同意であります!」

「ならそれでいいだろ」

「そうでありますか」

「ああ」

「ならばよかろう!」

「お前、口調変わりすぎだろ……よく疲れねぇな」

「ふふん」

「ほめてねぇからな」

「また価値観の違いが……」

「いつまでも口が止まらねぇ奴だ……」


 詳細の設計は、こんなものか……いや、もう一重、念のため増やそう。


「おお! なんか向こうで土煙が上がってる!」

「前線が見えてきたか……今夜泊まるのはあそこだ」

「にぎやかそうだね!」

「にぎやか、か……気楽なもんだな」

「昨日は静かすぎて、こわかったんだよー」

「すぐに寝てただろうが」

「目をつぶってたの! そしたら、いつの間にか寝てたの!」

「あぁそぅ」

「ムキー! なんかバカにされてる気がする!」

「バカにはしてねぇよ。アホだと思ってるだけだ」

「ひどい!」

「おい、ちょっとはお前もコイツの面倒を――どうした? いつになく深刻そうだな」

「……ああ、いえ、いろいろと念には念を押してバケモノ対策をしていたもので、つい無言になってしまっていました」

「お前は、たいてい無言だと思うが」

「まあそうですかね」

「それよりバケモノって、さっきも言ったが四天王はまだ気にしなくていいんじゃないか? 明日以降なら注意が必要だとは思うが」

「そっちではありませんよ」

「……まさかアレのことか?」

「ソレです。何か良くない予感がしたもので」

「……ついてくる、ってのか……?」

「今は三枚目の障壁が持ちこたえていますが、突破されるのは時間の問題です」

「マジかよ……勘弁してくれ……」

「いざとなったら四天王にぶつけてみようかと」

「……それだけは、やめてやれ。もしかしたら平和的に解決するかもしれない相手なんだ。限りなく少ない可能性ではあるがな。魔族になら、ぶつけても良いとは思うが、人の言葉を話す相手に仕掛ける所業じゃねぇよ」

「……そうですね。別の手を考えます」

「魔王にでもぶつけてやればいい」

「それはさすがに許してはもらえないと思うので、やめておきます」

「……そうか」


 時空の歪みに放り込むか。召喚獣としてリンクされる危険があるが……私でないなら良しとしよう。リンクされた方が出てしまったら、ジャンピング土下座をするしかないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る