第18話 試練の時

 ……チクショウ。


 目の前の空がうっすら明けてきやがった。安息日に入ったのは確実か。クソッ、コイツは神を恐れネェ魔族なのか? そんなヤツがいるなんて聞いたことネェが、そもそもコイツが例のアレなら、どんな例外があっても不思議じゃネェ。とにかく、まずはこの状況をなんとかしネェといけネェが……


「申し訳ないでござる。拙者が早く動けるようになれれば、貴殿も身動きしやすくなるでござろうに――」

「オィ、もうそのハナシは聞き飽きたんだよ! いいから黙って寝てろボケ」

「御意……」


 コイツの方はまだ丸一日は動けネェ。コイツらだけにしか使えネェ『テレポート』の魔法は、行ったことがあるトコならどこでも絶対に瞬間移動できるっつー、サイコーにイケてるモンだが、一度つかっちまうと三日三晩、指一つ動かせネェらしいからな。オレのためにアレを持ってきてくれたってのに……チクショウ! どうしてこうなった!


 そもそもは、そろそろ報告の時間だから見晴らしが良さそーなトコ行くかって、小高い丘に登っちまったのが悪かったんだ。つまりはオレの失態だ。でもよ、魔界じゃあるめぇし、丘が動き出すなんて思わネェだろ!? ……いや、隊長は何が起こるかわかんネェから気を張れって言ってやがった。オレには虹アフロをかぶる資格はネェ、ただそれだけの事だ。状況の確認、次に何をするか考えろ。


 コイツはまっすぐ東に向かってノンキに歩いてやがる。後ろにはその跡がクッキリ、西の果てまで続いてらぁ。今までの速度からいうと、六十時間以上歩いてきたなら魔界から来たって計算になる。もしコイツが人並みに一日八時間睡眠とか取りやがってんなら、魔界から出て今日が四日目の行軍ってことになるな。クソッ、さすがにこのルートは危険すぎて魔界の境界ギリギリの地点には通常は誰もいネェ。先週、臨時で忍者ペアが飛んで様子を見てきたが、そんときゃコイツはまだ来てなかった、ってワケか。ついてネェな!


 まぁ後ろのことはいい、問題は先だ。あと十時間もすると村に着いちまう。多分もうそろそろしたら、また丘になって眠っちまうだろうから、そのあと降りて村に急行すればなんとか避難は間に合うだろ。その後も直進を続けられると、何個か村や町を潰した後に三日後にはもう城か……クソッ、直接城を狙ってくる魔族がいると、こうもアッサリと侵入されちまうのか。今までどんだけラッキーだったのか思い知らされるぜ。とにかく、念のためオレはこのまま、なんとかあそこまで這っていくぜ、オラァ!




 まだ寝ないのか、もう日は登り切ったぞ。あと数時間で日没だ。マズい、このまま進まれると、その頃にゃ村はコイツの下敷きだ。仕方ネェ、気合入れるか!


「チョット止まれヤァ!!」


 へッ、耳元で大声出してやったぜ! コイツのコレが耳なら、オレが何言ってるかわかんネェでも、さすがに何か反応は示すだろ。注意がこっち向きゃ、足も止まるかもしれネェ。その隙にどうにかしてコイツから離れて、村に直行だ、って、オッ!? コイツ止まりやがった、ラッキー!


「……我に無礼な口をきく愚か者は何処だ……」

「……魔族が喋っただと!?」

「まぞく? ああ、そうか、わかっておらぬのか……愚かな者よ……」

「チョット待て! テメー、魔族じゃネェってのか!? 確かに言われりゃ、そんな気はするがよ」

「我は魔王様直下、四天王が一、――」

「ハァ? そんなハナシ聞いたことネェぞ! マジかよ!? ヤバすぎだろ!」

「ふん、ようやく我に恐れをなしたようだな。はよう出てこい、悪いようにはせぬ」

「コッチもハナシがあるんだ! チョット目の前に出るから待っててくれ!」

「よかろう、あまり待たせるなよ……」




「やっと現れたと思ったら、なんだ貴様は。ゴミのように小さいな」

「テメーがデカすぎんだよ! 丘が歩くんじゃねぇって、マッタク」

「態度が悪いな。少しお仕置きが必要か?」

「んなことより、この先に行くのはチョット待ってくれ! 避難させて来っからよ」

「何を言っているんだ貴様は……」

「テメーに踏みつぶされたら、たまらネェんだよ!」

「……ああ、貴様みたいなゴミが、この先に沢山いるのか」

「そうさ! テメー、んなことも知らネェで今まで歩いてたのか!?」

「知らぬな。我はただ、命じられたままに地の果てまで進み、全てを破壊するだけだ」

「クッソヤベーこと平気で言いやがる……それまでお構いなしに誰でも彼でも踏みつぶしていくってのかコノヤロー!」

「……そうされたくなければ逃げるがよかろう。我は別に構わぬぞ」

「好き勝手言ってんじゃネェ!」

「……貴様、我を愚弄するのも大概にせよ。ただでさえ苛ついておるのだ。もう貴様を喰っても良いとまで思えるようになってきた……! おい、その背中に負っているモノは何だ!? 我に捧げよ!」

「コイツは喰っても旨くネェからヤメロ!」


 ここまでか……チクショウ!!


「問答無用ぞ!!」




『おい、お前、逃げ切ったのか? 今どこにいる?』

「連絡が遅れてすまネェ隊長、あのあと通信機も落としちまってよ。今はアイツの進行先にある村にいる。避難はとっくに終わってるみてーだなコラ」

『おう、ソコならもう、避難は済ませてある。コッチでも遠目からアレを確認させたが、ありゃあヤベーってどころじゃねーな。攻撃したか?』

「物理は全然効かネェ。魔法は嫌がって暴れて危険すぎる。一番ヤベェのは、どれを仕掛けてもオレが攻撃してるってことに、アイツは気づきもしネェってトコだ。以上」

『マジもんだな。オレらじゃどうすることも出来ねーってか!?』

「そうかもな。でよ、いくつか伝えなきゃなんネェ事がある。よく聞きやがれ」

『おう、何だ?』

「まず、忍者はソッチに戻せネェ。貴重なコマだってのに悪ぃ」

『構わねーよ。オレが指揮すんのは、あくまでお前ら部隊のクソ共だけだ』

「オゥ。で、次に、アイツは魔王配下の四天王だ」

『魔王の何だって? 今お前、なんつった!?』

「四天王だよ。自己紹介されちまったわ」

『お前、アレと話したのかよ。つーか話すバケモンなんて聞いたことねーぞ!』

「オレだって何が何だかワカンネェうちに気がついたらよ、おハナシしちまってたんだ! 意味ワカンネェ!」

『まあいい、他には?』

「自分の本名を名乗りやがった」

『ハァ!? つくづく常識の無ぇヤツだな! で、名前は?』

「んーと、ガルグレイヴ、だったか、そんなんだ」

『またケッタイな名前してんなオイ。わかった、じゃあお前もサッサと戻って来いよ』

「ああ――」

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