第19話 英雄の帰還

「調査隊との定期連絡が、ただいま完了したとの報。忍者ペアは直ちに魔界境界の合流ポイントに直行、遅くとも明日の日暮れまでには調査隊と合流できる見込み。合流次第、城のホールに兵長を連れて直接帰還するとのこと、以上」

「おう、やっとのお出ましか!」

「これでようやく希望が持てますな!」

「いやしかし、いくらあの英雄様といえども、あのようなバケモノが相手では、さすがに……」

「それを言ってしまってはオシマイでしょうが」

「賢者様ならどうにかできるのでは」

「あのような者に頼るなど、わたしは賛成できませぬ。あの儀の時だって、あの者がイキナリ突っ込んでいって闇が発生したのですぞ? 怪しい事この上ない」

「左様。アレの実力は確かだが、普段からのあの冷酷、もとい冷静さが無ければ、魔族だと言われても納得する。国の者でもないしな」

「それに比べれば我らが英雄様は、もう十年もお一人で魔界にて魔族を打ち倒し続けていらっしゃるのだ。前王の長子でもあらせられるし、誰にも真似のできない実績もある。そして我らをお救い続けてくださっている。あのお方こそが勇者の名にも相応しいくらいだ」

「おい、さすがに言い過ぎだ。宰相様のお耳に入ったら、いくら温厚とは言え、さすがに許しては下さらぬぞ」

「いいではないか。最近は当の本人が別の名を名乗っているらしいぞ」

「ああ……星が流れるとかなんとか言うアレか? あの噂、本当だったんだ」

「そもそも来た時に勇者じゃないとかって本人も言ってたって――」

「それも言っちゃダメなやつだろ」

「もういいんじゃね?」

「黙れ! これからこのホールはオレらの部隊が占拠する! 文句はねーな! じゃサッサと出てけオラァ!」




「おう、お疲れさん」

「……お前一人か」

「ああ。ソッチもそのようだな」

「……いつもの事だ」

「そうだな。ところでコッチの話は聞いてるかオイ?」

「大体はな。さっき映像も確認した。さすがにあんなのは初めてだ」

「魔族だと思うかよ?」

「違うな。いつも相手してる糞どもは狂ってやがるが、コイツは前に進むか破壊するか食うか寝るかしかしないんだろ? 安息日に休まねえってのも、魔法を使うとしたら、ありえねぇとは思うが――まぁこれは魔界にいると時間の感覚がよくわかんなくなるし、確かなことは言えねぇか」

「四天王だって言いやがってんのはどうだ?」

「まず人の言葉を話したってのが信じられねぇ。四天王なんてのを拝んだことはねぇ。魔王もな。会ったら俺がぶった斬ってやるってのによ」

「お前が魔界で散々暴れまわってやがんのに、突然いまさら四天王が城に遊びに来るってーのは、やっぱイマイチ腑に落ちねーなー」

「さぁな。俺のやってる事に手応えなんて微塵もねぇし、その四天王とやらも俺みたいに殴り込みをかけてきただけかもしれねぇし」

「まあいいさ。とりあえず王さんに活いれに行くぞオラ。あいつ今スゲー落ち込んでっからよ」

「……英雄の仕事か。嫌になる」

「お前なあ。またすぐに、いなくなっちまうだろーが。今度こそマジで帰ってこれねーかもしれねーんだからよ、弟には優しくしてやれってんだよ」

「……」




「兵長、長らくの遠征、ご苦労であった」

「はっ」

「兵長、わしからも労いの言葉を言わせてくれるかの」

「身に余ります」

「いやいや、そんなことはない。長きにわたり、ようやってくれておる。感謝しかないのじゃ」

「もったいなきお言葉」

「そして、さっそくまた難儀なことを頼むしかない――既に聞いておろうな」

「御意」

「前代未聞の事態が起こっておる。国としては頼れる者が、そなたしかおらぬ。協力者と共に、今こそ国を救う英雄となってくれるかの?」

「……善処します」

『兵長!』『兵長殿!』『兵長様!』『英雄様!』『我らが……』

「静まれ! ――よいな、必ず、かのバケモノをくい止めるのじゃ!」

「はっ!」

『おおおおあおあああああおおおあーーーー!!』

「ケッ、アホくせーな」

「何か言ったかの隊長」

「なんでもねーよ」

「ほっほっ」

『あおあおあおあおああああおおおおーーーーーーー!!』

「うるせー」

「嫉妬か?」

「同情だよ」

「そうか」

『あいうへへうぼああああおおおおあおあおあーーーーーーーーーーーーー!!』




「本当に済まぬ、わしが不甲斐ないばかりに、親子そろって皆、つらい目に……」

「もうやめろって、年なんだから、体に障るぞ」

「うう……」

「アンタが居てくれるから、俺は安心して無茶やれてるんだ。アイツの面倒も見てくれてるし、感謝しかないのはむしろ俺の方だ」

「そんな、やめてくだされ……」

「ケッ、オレが居ても安心出来ねーってか?」

「バカは黙ってろ」

「はいはい」

「お主ら二人こそが国の守り神なんじゃ……頼りにしておる……」

「まかせとけよ! あのバケモノが来やがったら、オレがド派手に道連れにしてやるから、その様を有難く拝むんだな!」

「まだ外してねぇのか。何考えてんだ」

「イケてんだろうがよー。必殺技ってのはこうでなくっちゃな!」

「暴発したら守り神も糞もねぇだろ」

「そん時ゃそん時さ、ハハハ!」

「あいかわらず滅茶苦茶な奴だ」

「……ほっほっ」

「……ところで協力者ってのは、賢者はまぁいいとして、流星ってのは誰だ? 聞いたことねぇぞ」

「あー、その子はのー……」

「オレの心友ダチだ。不満か?」

「……なら問題ない」

「おう、仲良くしろや」

「……善処する」

「ほっほっ」

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