第17話 土魔法

「でよ、とりあえず七色までで一旦切り上げて量産体制に入った方が、できるだけ早く全員に七個ずつ配れるって、そういう試算が出たってよ」

「気合入ってますねー」

「ったりめーよ! 研究班のヤローどもがやってる、このフルカラーの地毛を生やす技術の開発によ、早く目途がつけばいいんだがなー。そっちはなかなか難儀してるみてーだぜ。お前も引き続き協力してくれよ!」

「あの時のことはよく覚えてなくて……あの瞬間なんか神が降りたみたいな……」

「髪だけに神ってか? ハハハ、ちげーねぇ!」

「それより隊長、ずっと気になってたんですけど、なんで土管であぐらをかいてるんですか?」

「ん? これか? なんか賢者のアンチクショウがよ、お前が土管に興味あるって言ってたからな、オレ様の力作を用意してやったのよ。水くせーなぁ。お前にそういう趣味があんなら先に言っとけってんだよ。オレとお前の仲じゃねーか」

「あー……それはそのー、なんてゆーか、手違いってゆーか……」

「どした?」

「土管が好き、ってワケじゃないです……スミマセン……」

「なんだぁ? ちげーのかよ。あいつもテキトーなこと言いやがって」

「この度はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした」

「気にすんなって。朝の準備運動にちょうど良かったぜ。出来も気に入ったしな!」

「今後は二度とこのようなことを――」

「おいおい、なにもそこまで畏まらなくったっていいんだよ。こっちが居心地悪くなるじゃねーか」

「昨日、謝る練習をたくさんしたの」

「ハッ! お前これまでさんざんやらかしてきやがったからな。しゃあねーわ、ハハハ!」

「そんなに多くないと思うんだけどなぁー……」




「まーこんな感じで土ってのは基本的に力作業になっちまうなー」

「疲れたのであります……もうダメなのであります……」

「よわっちぃなー。いつもの威勢はどうしたよオラ」

「隊長さんについていくのは、つらく苦しい道のりなのであります……」

「いちいち大げさだなーおい」

「力作業がキツすぎるのであります……」

「あのなー。力作業っつってもよー。魔法でアレコレ動かすんだから、あんまり土そのものの重さの感覚とかに引きずられすぎんなよ。土の重さはわかったうえで、魔法でポイ、ってな。ま、慣れるまではなかなかムズいかー」

「精進するのであります……」

「つらく苦しい道のりだぜー。お前にできんのかー? おうおう」

「がんばるのであります……!」

「なかなか根性ついてきたじゃねーか。もうあん時みたいに泣くんじゃねーぞ」

「泣かないのであります! 約束したのであります!」

「昨日泣いたって聞いちまったけどなー。まあそんくらいは許してやるよ、ハハハ」

「だ、誰に聞いたでありますか!?」




「それで魔王をドカーンってする魔法を教えてって頼んだら、こうなっちゃったの」

「そりゃーお前、そうなるだろうがよー」

「土管ネタでも流行ってるの?」

「ドカーンってのをさぁ、そのまま頭に思い浮かべるとよ、土管にしかならねーってんだよ」

「なんでー?」

「ドカーンって爆発する音のことでも言ってるみてーだけどよ。魔法の気持ちになってみろよ。いきなりドカーンって言われても、なんのこったか、わかんねーんだよ」

「魔法の気持ち?」

「おうよ。魔法は目も見えねーし耳も聞こえねー。心で思うことしかできねーんだ。だからちゃんと心で伝えてやんなきゃいけねーんだよ。わかるか?」

「……なんとなく……」

「ま、これから付き合いが長くなるんだ。おいおい仲良くなってけばいーんだよ」

「……心友になれる?」

「なれるさ! オレはもう心友だぜ! 土のクソヤローだけだけどな、ハハハ!」

「ならば我も土とは、もはや心友であるな!」

「お? なんだか知らねーが気合入って来たな? じゃ訓練の続きいくぞオラ!」

「お願いするであります!」




「だからな、こーやっていきなり足の下に穴を開けちまえば、どんだけ魔法に警戒してる相手もイチコロなわけよ」

「スバラシイのであります! 落とし穴なのであります!」

「ま、そういうこったな」

「お城とか町のまわりにもこういうのを張り巡らせているでありますか!?」

「ハァ? んなことしねーよ。落っこったら、あぶねーじゃねーか」

「あぶなくないと罠じゃないのであります」

「罠なんかいらねーよ。そんなもんに頼らないでも、オレらがしっかり守ってやるから、安心しろってんだ」

「さすが心友なのであります」

「その呼び方オレに使うのやめろよ。恥ずかしくなるじゃねーか、まったくよー」

「感心した時には、こう呼ばざるを得ないのであります」

「おいおい、いつもは感心してねーのかよ。失礼なヤツだなぁ」

「隊長さんにはいつも感心しているのであります」

「呼び方が違ってんだよバーカ」




「建築もできるの?」

「おう、つーかそれが本職みてーなもんだな、土魔法使いってのはよ」

「ブロックとか出せるの?」

「おうよ、慣れれば何だってポンって出せるぜ。そのあと力が抜けちまうけどなー」

「もしかしてその土管も?」

「そうだぜー。ま、これはポンっていうより、じっくりコトコトって感じで仕上げたけどな!」

「ポンじゃダメなの?」

「別に構わなねーけどよー。細かい造りとかにコダワんなら、ヤッパじっくりやらねーとな。疲れ方もハンパねーけどな、ハハハ」

「……まさに職人さんの、つらく苦しい世界なのです」

「いや、それで面白れーんじゃねーか。お前そういうコダワリ持ってねーのかぁ?」

「……なかなかうまくいかないのです……」

「ったりめーだチクショー! 魔法なめてんじゃねーぞ! それこそじっくりコトコトつきあってくんだよ、わかったか!」

「はい!」

「よし!」




「おう戻ったぞ。んじゃ、いつものやるかお前ら?」

「イェー! 全員準備は出来てるぜ! いつでも来いやぁクソッタレ!」

「よし! じゃあ行くぜ、ポイントA!」

『うるせーな、なんもねーよ! だまってろバーカ』

「ポイントB!」

『サーフィンしてたらサメが来てよー、いま焼いてんだけどウメーぜこれ!』

「ポイントC!」

『55層クリア! 報酬は氷漬けの忍者! 街もどってっから交代!』

「ポイントD!」

『虹アフロのカツラ届いたぜ! サンキュー!!』

「ポイントE!」

『毎度恒例魔界境界突撃寸止め肝試し♪ 記録は四・二メートル♪ イェー!』

「ポイン――」

『ウダウダやってネェでオレのハナシ聞けヤァ!』

「おいおいポイントX、お前の番はまだまだ先だぜ? ちょっと待ってろよー」

『ヤベェんだよ! こりゃタブン例のアレだぜ! こんなん見たことネェ!』

「おうマジか!? 冗談だったら後で虹アフロ没収だぜ? わかってんのかコラ!?」

『んなもん落としちまって拾いにも行けねーんだよ! チクショウ!!』

「わかった、ムリすんなよ! 忍者は今どうしてる?」

『コイツだけは絶対に落とさネェ! なんとか戻る! 首洗って待ってろヤァ!』

「了解!」


 来たか。


「安息日の直前にご登場たぁ、粋なコトしてくれんじゃねぇか『災い』さんヨゥ!」

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