第16話 心友の絆

「大丈夫ですわ。あの方は優しい方ですもの。ちゃんとお詫びをすれば、許してくださるに決まってますわ」

「そうかな……ぐすん……」

「ええ、私が言うんですもの。間違いございませんことよ。安心しなさいな」

「ありがと……ぐすん……」

「私はあの方にいつも助けていただいてきましたの。あの方は誰にでも絶対に優しくする、そんな素敵な方なんですのよ」

「……ぐすん……」

「いつまでも泣いてちゃいけませんことよ。あなた勇者なんでしょう? 勇気を出しなさいな」

「……勇者なんかじゃないもん……」


 この子ったら、本当はこんなに純粋で可愛い子だったのね。異世界で幸せに暮らしていたのに急にコチラに連れてこられて、随分と心細い思いでいたんだわ。だからちょっと混乱しておイタをしていただけだったのね。私ったら、なんて心が狭かったのでございましょう。令嬢としてあるまじき失態ですわ。




「御免なさいね。訓練をおろそかにしてしまって。あとでちゃんと手取り足取り電撃を流して差し上げますわ」

「ううん……多分ダメだと思う……雷ってみたことあるけど、なんか凄すぎていまいちピンとこないんだもん」

「そんなこともあるものなのね」

「お姫様はスゴイね」

「いえ私の場合は、ただ生まれたばかりの時に、運悪く雷に撃たれてしまっただけですわ。奇跡的になんとか死なずに済んだのですけれども、雷魔法を無自覚に無詠唱で発動してしまう体質になってしまって、とても迷惑しておりますの」

「無詠唱!? そんなこともできるの? いいなーやってみたいなー」

「いけませんわ。ビックリしただけで人に雷を落としてしまうんですのよ。こんなですから、私はお城の外には出られないんですの。ここにいれば結界がありますから、私がうっかり雷を落としても、人に当たる頃には威力が弱まって、ちょっと黒ずんで煙が出るくらいで済むんですのよ」

「へぇ……魔法って使えたらそれだけで楽しいって思ってたんだけど、そんなこともあるんだね。うっかり口にするだけで魔法が出ちゃうくらいなら、まだカワイイもんなのか」

「そういえばあなたは、誰彼構わず不意打ちを平気で仕掛けてくる、って噂になっていましたわ。そういうことだったのね。私達って似た者同士ね。ふふっ」

「ふふっ、そうだねー」




「外に一度も出たことがないの?」

「ええそうよ、町にすら行ったことがないわ」

「そんな生活、イヤにならないの?」

「イヤに決まってるわ。でもどうしようもないもの。そんな孤独で哀れな私を、あの方はいつも気遣ってくださるの」

「いい人だねー」

「いいこと? さっきも言ったけど、後でちゃんと謝りに行くのよ」

「うん、わかった」

「偉いわ。心の友あなたのそういう素直なところはいいわね」

「お姫様ありがとう! だいすき!」

「あらありがとう。うれしいわ。でも『お姫様』っていうのは、ちょっといただけないわね」

「えっ? どういうこと?」

「私はお姫様なんかじゃなくてよ。こんな身なりでお城にずっといるものだから、皆様そろって私の事を姫って呼んでいるだけよ。前王のお子様はお二人だけだって、誰でも知っていることですもの。今の王様は私より年下でいらっしゃるし、私を姫と呼んだところで、混乱など起こるはずもないのよ」

「じゃあお姫様でいいでしょ」

「イヤよ。心の友あなたにはそう呼ばれたくないわ。だってこころともですもの」

こころとも……!?」

「私たち打ち解けあったじゃない。初めてできた大切なお友達に、他人行儀な呼ばれ方なんてされたくはないわ」

「……なんて呼べば……?」

「そうね……心の友あなたが決めて。心の友あなたが決めた私の名が、本当の私に相応しい名なのよ!」

「急にそんなこと言われても……」

「さあ、勇気を出して! 私はもう心の友あなたの名を決めているわ!」

「……じゃあ……決めた! 心友そなたは今日から雷電と名乗るがよい!」

「! 雷電!!」


 あっ、いつものをやっちゃいましたわ。


「おおー心が震えたぞ……まさに雷電の名に相応しい……」

「流星もようやく勇気を出せたようで嬉しいわ」

「いま何と言ったか?」

「流星よ。無邪気に振舞うその様はまるで天を流れる星々の煌めき……心の友あなたの事を私はそう思ったの」

「流星……おお……そうだ、我の名は流星、我こそは流星だ! 雷電、礼を言う」

「私こそ。今日から私は雷電よ! 雷電と私を呼ぶ者には心を許してあげるわ!」

「何度でも呼ぶぞ雷電! 心友しんゆうの真の名を我はおろそかにはせぬ!」

「しんゆう……? それは?」

こころともと書いて心友しんゆう……我が大切にしている言葉だ……」

心友しんゆう……なんて素敵な響き……どんな呪文よりも美しい……」

「よいであろう? この言葉で繋がった面々は、固い絆で結ばれる運命にあるのだ」

「しっかりと心に刻んだわ。ありがとう、心友しんゆう!」




「ところで本当の名前はなんて言うの?」

「忘れてしまいましたわ」

「なんかの時に困らないの?」

「必要になったら情報局にでも問い合わせれば済む話ですし、そもそも必要になることなんて普段は無いですわよ」

「へー、こじんじょーほーの管理がてってーしてるんだねー」

心友あなたって面白いことばかり言いますのね、本当に」




「おう姫さん! なんだ? 今日はめずらしくハッピーしてんな? おい」

「あら隊長。今日は良いことがありましたのよ。その無礼な態度も今日だけは特別に許して差し上げますわ」

「けっ、減らず口だけは相変わらずかー。ま、普段からそんな感じなら、少しは可愛げがあるってもんだな!」

「! ……おだてたってなんにも出ませんことよ」

「知るかよ。それより今日の心友あいつはどうだった? なんかまた、やらかしやがったか?」

「あいつ? ああ、心友ゆうしゃさまでしたら特にどうということはありませんでしたわ」

「んー? やけにニヤついてんじゃねーか。ホントはなんかあったんだろ? 言ってみろよオラ」

「なんでもないって言っているじゃないの、まったく……」

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