八投目 トラウマが恥ずかし過ぎる

「まだ30分くらいか——」


「それで? どうするの?」


「まずは今回は生き延びる事に集中だ。一週間後、またあの部屋に戻れる」


「戻るの? あそこに!?」


嫌な思い出しか無いライバー部屋に戻る事を嫌ってユーシーは両手で顔を覆う。

そんなユーシーの事など気にもしないで、攻略の為に——と、考えて。ディアはユーシーの目を見つめる為に視線を合わせ、チュートリアルを攻略する為の作戦について話した。


「そうだ。そこで狩人の弓矢を絶対に購入してくれ。出来たら俺とドガートの分も」


ドガートは再起不能かもと思いながらも、可能性は少しでも高い方が良いと思い話を続ける。


「防具を装着したらタブレットを操作しろ。何か気付けるハズだ。それから次はお前もコレを持って来い」


「あの部屋は嫌よ……」


ユーシーが泣き出しそうな理由など皆目見当もつかないディアは「とにかく生き残るぞ——」と、大事なピースとなったユーシーをどうやって一週間守り抜くかを必死に考えた。


「やっぱりドガートには手伝って貰わないとダメか」


自分一人では限界があると感じたディアは辺りが暗くなるのを待ってドガートの待つ家屋へと移動を開始した。


しかし——


「ドガート! どこ行った! おい!」


ドガートが休んでいた家屋からは引き摺り出された様に人の幅の血の跡が続いていた。


「しまった——」と、気づいた時には遅く、ユーシーを迎えに戻ると室内は荒らされ血が散乱して、ドガートの家屋と同じ様に引き摺られた様に血の跡が続いていた。


「誰だよ! クソ! どうなってるんだよ! こんなのクソゲー過ぎるだろ!」


ガキンッ——


街の真ん中で大声を上げるディアの胸を矢尻が弾く。


「ガハッ! 衝撃だけで……これかよ……」


幸にも、矢尻の勢いよりも防具の耐久性の方が上だった為に貫かれる事は無く。それでも衝撃で肋骨の一本や二本は折れているであろう痛みに耐える。


ガン!

ガキン!

ガキ!


グジュ——!


「狩人って、一人じゃねぇのかよ——」


弓は多方向から飛んできた。一度は防げても、囃し立てる攻撃に鎧は砕け、砕けた鎧の隙間を突いてその内の一本が胸を貫いた。


「俺は死ぬのか……こんなところで……」


ゲームの世界に転生出来たと考えた。

チート能力を授けられたと考えた。


そんな物——


この世界には無いのに。


「死ね、人間!」


弓を持った狩人が足の裏でディアの頭を押さえ弓を引く。


「待て——」と、ディアの言葉と同時に矢は放たれて、無防備なディアの喉元を貫いた。


「ゴポォホッ——ガバ、バァアハ!」


「これでか?」


「だと思います」


二つの影がディアを蹴り飛ばした直後、四人の脳裏に声が聞こえた。


『ミッション5【狩人の正体を暴け】達成! ミッション達成報酬——達成者ディアを全快致します』


暴き方の指定は無かった。

ディアが気付いた時点でミッションは達成された。


「どうした! 何だコレは!」


今度は二つの影が狼狽えている。


「それよりも、ここから離れるぞ!」


ディアの身体が光を放ち修復されて行く。

身体の次は防具が。

そして、全ての修復が終わると、微かに感じていた空腹や眠気まで完全に回復していた。


「コレは凄い! けど、こんなチート……タイミング良く発動させるのは無理か——」

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