決戦準備(5)

「ただいまー」


ショッピングモールから帰宅した後、玄関から家に入り、手洗いとうがいをすませるとリビングから顔を覗かせる女性がいた。母である。


「おかえりーちょっと遅かったね、夜食べて帰ってくるのかと思っちゃった。」


「友達とショッピングモール寄って帰るーって言ったじゃん。」


「それは聞いてたよ。でももし食べてなら言ってくれる?それによってちょっと変わって来るんだから」


「わかってるよ、食べてくる時は連絡する」


「そうしてちょうだい。」


そう言って荷物とともに自分の部屋へと向かう。うちこと八葉家の夕飯は大体18時30分から19時くらいだ。今が大体19時30分くらいだから確かに母が言った通りちょっと遅い。先ほどの母の忠告は多分いつも食べている時間に帰ってこない時の夕飯の有無についてだろう。そこに関しては申し訳ないの一言だ。


部屋のいつもの位置に荷物と今日の戦利品を横におき、部屋着に着替える。


着替える最中に服が気になってくる。


今日買った結果、いつも着ている服のTシャツやパンツのレパートリーが増えて、その上に着る上着が新たに追加された。


なんとなく装備のスロットが増えた、とつい思ってしまうがゲームとは違うのだ。なんでも着れば良いわけではない。そういうわけで上着の方も浜崎のフィルターを挟みどれでも最低無難に落ち着くような形となった。


(飯を食ったらタグ外して一旦洗濯だすか…)


部屋着に着替えて夕食の席へと向かう。リビングの食卓には温かさを示す湯気を燻らせた料理と茶碗が置かれていた。どうやら部屋に行っている間に温めてくれたようだ。


「いただきます」


食卓に座り手を合わせる。本日の献立はご飯に魚、味噌汁であり、小鉢には玉ねぎとわかめを酢和えが添えてあった。


魚の塩気で進む米をかき込みながらも親と会話していく。どこに行ったのか、何を買ったのか、一緒に行った友達は誰なのか。正直ここまで聞かなくてもと思った部分もあるが会話の一部として咀嚼し、消化していく。


約30分もたてば夕飯が食べ終わり、手を合わせて終わる。空になった皿を台所へ持っていき、軽くゆすいで食洗機に入れる。


「幸司、風呂入っちゃなさい。後がつかえる。」


指示に従い着替えを持って風呂へ向かう。風呂と脱衣所は一体になっているため、入ると鏡があり、そこには見たことのないイケメンがあった。


改めてみると、そのイケメン度合いがわかる。毛穴やシミひとつないきめ細やかな肌だ。そういえばスキンケアとかどうなのだろう。


あいにくと化粧品などは疎く、風呂上がりに化粧水とクリームをつける程度だ。それである程度はニキビなどは抑えられていたので今の顔もそれと同じ肌質だとかなり楽だ。


とはいえ折角ある肌だ。現状維持が望ましい。改めて今度、スキンケアの用具を取り揃えるとしよう。



きっと坂田もそれがいいと思ってくれる、というか思っていてほしい



我ながら気持ち悪くなったものだ。ここ数日も経ってないというのに頭の中心は大体あの子で回っている。きっと無意識ながらも軸はぶれずに選択してしまっていることだろう。


早々に服を脱いで風呂場に入り頭と顔、体を洗って浴槽にはいる。


体のギャップを感じるか、と思っていたが杞憂だった。いつも通りの感触。体は変わっても感触に変化はないという証左に他ならない。


そうして20分ほどの入浴を終えて自室に戻る。手にはマグカップが握られており、中身は今日買ったもの中の1つであるデカフェのコーヒーだ。


部屋に入って一口飲んでみるが、普段コーヒーはあまり飲まないため味が良くわからなかった。


(取り敢えず当初の目的である服選びは達成。他の細々としたものは…まあ概ね大丈夫。挨拶もできてると思うし、立派に仮面は被れてる。)


とりあえずの目標の一つとして八方美人があり、それを心掛けて行動してみたが、それを発揮することはあまりなかった。


本当の八方美人が存在するならば、もっとあるはずだ。反省するべき点ともに明日以降の行動を刻んでいく。


明日は水曜日。確か明日は…そうだ。部活動紹介とかがあったはずだ。まだ授業は始まらないが、明後日に実力テストがあったはず。出題科目は国語、英語、数学、理科、社会の5科目。


中学の遺産が残ってるとはいえ、親との約束があるため抜かるわけにもいかない。


早々に明日の準備を整え、開いたのは中学の時の問題集とまっさらなノート。


ふと時計を見つめ、就寝時間を定めた八葉は数学の問題へと意識を向ける。


目指せ、20位。


心の内で決めた目標に向かうべく動き出した手は就寝まで止まることはなかった。


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トキメく仮面の砕き方 @masaba894

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