自己紹介
「イケメンだ、まごうことなきイケメンがいる」
どうみても今朝の自分とは似ても似つかないというより別人だ。
目鼻立ちはくっきりしており、切れ長な眉に柔和な瞳。肌は瑞々しく、全くと言っていいほど荒れていない。おまけに涙黒子がチャームポイントと言いたげな顔立ちをしている。
あの幻覚は現実だった、確かあの祠は条件付きで力を与えると言っていた。ということは条件を満たしたということになるだろう
さてその条件は一体何だろうか
今の状況ではあまりにもわかりやすすぎる、条件はまさに
一目惚れをすること
これだろう、これしかあり得ない。一見簡単なように思えるが一目惚れというのは実に難しい。自分が今一目惚れをしておいていえる立場ではないだろうがここは言わせてほしい
人が好きになる基準というものは環境や経験、遺伝子に左右される
八葉はどちらかといいうと人を好きになりやすい、つまりはチョロいのだ。
しかし人を好きになりやすい代わりに絶対にこの人という基準はかなり高い
もし一目惚れをしなかったのならば一生このまま過ごすことになっただろう
しかし一目惚れをしてしまったのだ、せっかくもらったこのチャンスを無駄遣いするのは絶対に看過することができない。
「おい、大丈夫か?さっきからカメラで自分だけみて・・・ナルシストなのか?」
どうやらカメラ越しに自分の顔を見すぎてしまったようだ。爽やかさんが訝しんでいる。
「いや、ちょっとボーっとしちゃっただけだよ。そうだ、自己紹介がまだだったね。俺の名前は八葉幸司だ、よろしく頼む」
「俺は浜崎裕翔だ、気軽に浜崎と呼んでくれ」
「よろしく浜崎。俺は名字でも名前でも好きな方で呼んでくれ」
話していくと浜崎はテニス部に入るらしい、確かにここのテニス部は規模が大きい。後大学進学をする予定だからなるべく偏差値の高いところに進みたかったそうだ。
この後もいろいろな話をしようとしたところで担任の先生が入ってきた。一年間担任となる先生はどこか頼りなさげな眼鏡をかけた男だった。
「えー、今年一年君たちの担任となる田中だ。んじゃあ自己紹介を軽くしていこうか。担当科目は数学、好きな食べ物はアップルパイだ。逆に嫌いな食べ物は納豆。こんな感じで緩めで構わないが必ず名前だけは名乗ってくれ、順番は出席番号。」
唐突に始まった自己紹介は予想してなかったわけではないがいきなりこられると流石に焦る。
幸い出席番号順なので考える時間は十分にある。
名前だけでも良いとは言われたものの、それだけでは与える情報が少なすぎる。適度な高校生活にはでしゃばりすぎてもいけないが逆に控えめ過ぎてもいけないのだ。
ひとまずは名前、そして好きなものと軽い挨拶。それくらいが妥当だろう。
普通は自分より前の人の内容と被りがちになってしまうがそれに引っ張られるのも悪くはないが、よくもない。
そして好きな物に関しては素直でいいだろう。ゲームに体を動かすこと。
挨拶は…そうだな「皆んなと仲良く楽しく過ごしていきたいから積極的に話しかけて欲しい」
あたりざわりのないありきたりな一文だが、初対面なのだ。これくらい堅いほうが変なイメージを持たれなくていい。
そうこうしている内に坂田の自己紹介が始まった。頭の片隅にいるだけでもドキドキしているが、いざ視界に入れると更に心臓の鼓動の回数が跳ね上がる。
「私の名前は坂田英理世です。好きなことは本を読みながらゆっくりすること、一年間よろしくお願いします」
聞きやすい声だ。一般的な女性よりも微妙に低い声。
あっさり終わった挨拶に追随して控えめな拍手が鳴り響く。
坂田は緊張していたのか、安堵の表情が見える。気持ちはわかる。今までの学校生活で散々自己紹介をしてきたが、自分も同じくさっぱり慣れない。
この後も似たような感じで自己紹介をしていったがその中でも物怖じのしないタイプ自己紹介があった。
「俺の名前は高田秀平!入る予定の部活はサッカー部で、好きな食べ物はたこ焼きだ!逆に嫌いな食べ物はめかぶ!みんなとたくさん話して仲良くしていきたいと思ってるからよろしく!」
元気の良い声で自己紹介を終えた高田はいかにも元気です!って感じなオーラが全開であり、人懐っこそうな顔をしており、少し背も小さいので犬みたいな印象を受ける。
物怖じしない性格からなのかもう近くの席の人たちと親しげな様子を見せている。こちらたしても是非仲良くなっていきたい所存だ。
この後は特に目立ったのは高田以降現れず、ついに自分の番となってしまった。
立ち上がると一斉に目線が集まる。今の顔の効果なのか一部の女子が明らかに違う、迫力に似た眼力を見せている。
あるいは値踏みのようなものなのかもしれない。
人は意識しなくとも人の行動や言葉の端々に値踏みをするように意識が向き、その意識の中で相手の順位を格付けていく。
それは友情にも働くものであり、もちろん恋愛的な意識は特にその傾向が強い。
いくら様々な面が凄くてもある一点においてダメならばいくら下がるかもわからないほどにその判定はシビアだ。その理由としては今後付き合っていくうえで…という建前のようなものが原因になるのだろうか?
現在イケメンな自分に集まる視線は敢えて無視をする、というより無視していかないとなかなか緊張して声が出ない。
こういう時は大抵勢いでどうにかなるため、前の席が終わった瞬間に間髪入れずに立ち上がり自己紹介を始める。
「自分の名前は八葉幸司といいます、好きなことは軽くゲームをすることと、体を動かすこと。苦手なことは…うーん、特にないけど虫とかは苦手かな。
皆んなと仲良く楽しく過ごしていきたいから積極的に話しかけて欲しい、一年間よろしくお願いします。」
少々想定と違ってアドリブも入ってしまったが、噛まずに言えたのでオールオーケー。
自己紹介が終わり、席についた時には始めの緊張感はどこかへ行き一目惚れの鼓動だけが体のなかを拍動していた。
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