宣戦布告は突然に


兄貴の小姓としてこの傭兵団に合流して一週間がたった。その間の俺は兄貴のテントの掃除や水くみ、料理などの雑用から食事の際に歌を歌うなどの催しもしなくてはならなかった。正直これが一番きつかった。でも料理はおいしかった。なんでかというとお肉と冷えたビールが飲めたからだ。この時代の寒村なんてめったにお肉は食べれない。家畜は冬のための非常食か労働力、または都市に売る事がほとんどで生産者である俺たちは食うことはめったになかった。だからこの世界で塊肉を食えるなんて初めてだった。寒村に居た時はいつもお腹空かせてたからな。美味しかったし、やっと得られた安心から本当に涙が出たよ。ちなみにこの時代は生水は厳禁だから、子供でもビールは飲む。でも常温だし、夏場は腐りやすいからあまりおいしくない。でもそのまま生水で飲むよりは衛生面からも、味や匂い的にもマシだ。ただ冷たいビールが飲めたのには驚いた。なんでもこの傭兵団には俺とは別に祝福持ちが三人いるらしく、その一人が氷の魔法使いらしい。そのため平時は食糧の冷却保存をしているらしい。傭兵団なんて社会の掃き溜めかと思いきや、意外と有能な人材もいる用だ。と思ったら団長の従弟らしい。他の祝福持ちの二人は過去に団長と縁があってここに居るとか。兄貴も有能な祝福もちなんて普通は傭兵なんかやっていないと言っていたし、なにかしらの事情を抱えているらしい。

あとは7歳の子供が傭兵団に居る事の珍しさから話しかけてくる人たちへの自己紹介や、彼らの武勇伝を聞きながら世間話をしていた。いつもは傭兵として市民や貴族からも侮蔑の対象になっているからか、やはり子供に尊敬のまなざしを向けられると、彼らは誇らしげな顔を浮かべながら満足していた。そのため俺は何人かの傭兵たちとは好を結び、弟分のように可愛がってもらっていた。一部は俺に性的な関係を持ち込もうとして来る人もいたが、その時は兄貴や先輩たちに対処してもらっていた。

あと四日目には俺が脱糞魔法の祝福持ちなのは、普通にジョンを通して団長も団員も知ることなった。中には敬虔な信者もいると先輩から聞いていたが、そういう人たちも苦笑いを浮かべることはあったけど、意外とみんなにうけた。ちなみにそいう敬虔な信者の多くは元は騎士だったらしく、仕事を失ったことで傭兵に堕ちてきたらしい。ただ彼らもすでに傭兵として適応を遂げており、潔癖症な強盗殺人鬼といった印象を感じた。ジョンから俺の紹介が団員たちに発表されたときは大爆笑だったし、試しに傭兵に連れられている娼婦たちを脱糞させろとジョンに命令されて、仕方なくやったらもう大変。その日は30人の娼婦たちによる脱糞祭りとなった。

おかげで俺は傭兵たちからの支持と引き換えに、娼婦全員――といっても小汚いババアが殆ど――に嫌われてしまった。でもこの年齢なら娼婦にお世話になる事もないし特に問題はない。というか大人になってもあんなババアにはお世話になりたくない。みんな歯が茶色いし、なんか変な病気持ってそうだし。お風呂なんてないから男も女もみんな汚いし臭いからな。それでも村で過ごした年月の中で多少は気にならなくなったが、傭兵団の中はそれと比じゃないぐらいの悪臭と、それを誤魔化そうとする娼婦の香水で鼻水が止まらなかった。

でも正直、村に居た時よりも楽しかった。祝福を貰って10日も立っていないが、初めてこの祝福に感謝した。たぶん、俺のような人間は傭兵団みたいな場所でしか生きていけないと思う。それは彼らも同じだ。生き残るために手段なんか選んでる暇ない。訓練と称して賭博交じりの模擬戦を眺めながら、俺はなんとなくだが勝手に、彼ら傭兵たちにシンパシーを感じてしまっていた。

そして意外と充実した毎日も、ついに終わりを遂げる。


二日前、リューベック侯爵ヨハン三世より渡された最後通牒を拒絶したハンブルクに対して、ヨハン三世とその血縁関係にあたる三つの諸侯がハンブルクに宣戦を布告したのだ。


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