紹介

スラム街の万屋にたどり着いた俺たちは村から略奪した金属製の農耕具や祭具、また衣類や毛皮、宝飾品なんかを売り払った。総額で5212ダカット。やはり祭具や宝飾品が一番高かった。だが予想外だったのは毛皮や衣類もかなりのお値段がしたと言う事だ。まぁ今みたいに大量生産なんて出来ていないだろうからだと思うけど。操縦士の男に聞いてみたら、毛皮はハンブルクが扱う重要な製品で、どこでも需要があるらしい。毛皮の原産地の多くはここから北東の地にある氷の大地からもたらされるとか。それ以外の重要な産物としては意外だったがビール製造だ。なんと年間の製造数は20万樽以上。この帝国で流通しているビールの3割以上がこのハンブルクで作られている。だからハンブルク内の商工業者の5割はビール製造業者だ。ハンブルクの人口は帝国内第三位の16000人。帝国北部有数の港湾都市であり、漁業町であり、ビールを生産する商業都市でもあるのだ。

傭兵団がここに支部を設置したのも納得できる。操縦士の男は万屋の男に対して、ハンブルク政府への任務報告の引継ぎを任せたあとは、万屋の男から情報収集を行っていた。どうやら他の傭兵団も同様の仕事をハンブルクから依頼されていたようだ。リューネブルク領とその同盟軍の領土はハンブルクを「U」の字に囲むようになっている。そのため各地に傭兵団を派遣させ、村々を略奪させていたようだ。あと自治政府やヨハン三世の動向なんかも聞いていた。ちなみにジョンは先の村への襲撃でピストルが壊れたらしく、中古品を物色していた。そして用を済ませた俺たちは、屋台で軽い昼食を取ると、ハンブルクを出て今度は南に向かった。先程は東から来ていたが、三日前に分かれた本体との合流先に向かうようだ。この傭兵団は各地の支部だけでなく、幾つもの拠点をもっており、場所が周りにばれない様に移動しながら生活しているらしい。ついに傭兵団のボスに会うのかと聞いてみたら、そんな簡単に会えるわけがないと怒られた。俺が所属する事になった?傭兵団は結構な大所帯らしく、戦場で出会った幾つもの傭兵団が今の団長の下に合体して出来たらしい。操縦士の男はその母体となった傭兵団の一つで、序列4位だったとか。高いけど微妙な数字だなと思ったが、顔には出さず、びっくりしたような表情を浮かべてなんとか乗り切った。


「お前はまだ正式にこの傭兵団に入ったわけじゃない。あくまでも俺の小姓だ。出生したきゃまずは俺の下で手柄を立てることだ。そしたら俺が頭に推薦してやる。それで認められたら今度は俺と同僚だ」


「もしかして直臣と陪臣みたいな関係ってことですか?」


「よくそんな言葉を知っているな…本当に7歳児か?」


操縦士の男の言葉に俺の心臓は一瞬だけ飛び跳ねるような感じがした。


「えっえぇ…そうですけど」


「その反応がもうガキじゃねぇな。お前が魔女として火炙りにされかけたのは、それが原因かもな」


操縦士の男はどこか冗談気味に言っていたが、俺は何も言う事が出来なかった。


「――まぁ話は戻るが、だからまずお前に必要なのは俺に対して、あの、とか、その、みたいな言葉で話しかけない事だ。俺に用がある時は兄貴とよべ。わかったか」


「わ分かりましたっ兄貴!」


「そうだそれでいい、生き残りたいのなら自分の立場を理解しておけ」


「はい」


ハンブルクから南に進むこと数時間。深夜になるころには目的地にたどり着いた。数百年前に放棄された古城の跡地では、かがり火に照らされたテントと、男たちの影が無数に伸びていた。するとその影の中から一人の男が馬車から降りた俺たちの下へ走ってきた。


「兄貴、お疲れ様です」


目の前に立った中肉中背の男は一瞬だけ俺の方を見ると、すぐに視線を元に戻した。


「頭はなんていってる」


「すぐに報告と、金庫番に資金を渡しておけと」


「分かったすぐに頭の元に行く。金はお前が渡して来い」


「わかりやした」


「あと新しい小姓を手に入れた。闇魔法の使い手だ。挨拶しておけ」


「えっ⁉…闇魔法……了解です兄貴」


天との中央へ去っていく操縦士の男の背中をぼーっと見つめていると、部下の男がジョンに向かって話しかけていた。


「こいつ歳はいくつだ?」


「7歳だぜ。人を強制的脱糞させる魔法が使えるんだ」


「は?」


「本当だぜ?なんたって俺が実験体にさせられたからなぁ!!」


「おいおい…冗談な…」


「兄貴がそんな面白くない冗談言うか?」


「いや…そもそもあの人は冗談なんて言わない。だから頭に気に入られてるんだ…まさか本当にそんな祝福が……」


「所詮、闇魔法なんだろう…教会が言ってることが全部正しければな」


「お前それ、俺と兄貴以外で言うなよ。食うために傭兵やってるだけで、敬虔な信者だっているんだ」


「へっ…だがこいつすげぇぜ。街に来るまでに通りかかった旅人に何回かやってみたが、全員腹押さえて脱糞してやがった。しかも立てないぐらいの腹痛で、腰に力が入らなくなる魔法だ」


「どんな悪魔と契約したらそんな魔法使えんだよ…おいガキ、お前その魔法何回使えるんだ?」


「今日いろいろ試してみましたけど7回が限界でした。でも一回の魔法で最低でも200人は脱糞できます」


俺の言葉にジョンは腹を抱えて大笑いしていた。


「ぎゃははは!払いてぇよ!聞いたか?最低でも200人は脱糞できますって…そんな言葉ふつう聞かねぇよ!でも本当だぜ?通りかかった50人ばかしの隊商に使ったら、全員が一斉に脱糞しやがったからなぁ!ありゃ爽快だったぜ」


「一日に最低でも1400人は脱糞させれるってことか……」


「お前、こいつと同じこと言ってるぞ…気が合って良かったなぁ?」


「下らないこと言ってんじゃねぇよ…とりあえず俺のことは先輩とでも言っておけ脱糞小僧」


「ぷっ…兄貴と同じこと言ってやがる」


「このジョンはしょうもない奴だが、剣も銃もなんでも使える器用な奴だ。戦場では一番頼りになる。俺たちの仕事は兄貴の世話係と、仕事の手伝いだ。俺たちの活動範囲は兄貴が責任を取れる範囲に限る。それ以外は自己責任だが、兄貴の迷惑になるから基本的に余計なことはするな」


「分かりました先輩」


「俺は何て呼ばせようかな…」


「赤薔薇のジョンでいいだろ普通に、お前の名前知らない奴この団に居ねぇからよ」



それってどういう意味…と聞く勇気は俺にはなかった。


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