自分を正しく評価して行動しよう
まぁ覚悟を決めると言っても、西にあるハンブルクに逃げるだけなんだけどね。東は俺の村を支配していた領主さまの土地だから逃げても追っ手が来て捕まっちゃう。
だから国境というか、領邦の境を超えなくてはならない。
確かこの街道を進んだ先にハンブルクの自治領にたどり着くはずだ。原野と低木の間を縫うように作られた街道の端を俺は進んでいく。途中で積荷を運んだ馬車や旅人なんかとすれ違ったが、みんな疑わしそうにこちらを見つめていた。だからと言ってなにかされるわけでも話しかけられるわけでもない。
両手を後ろで縛られた7歳児。それも見た目からして農奴。どうみてもトラブルの臭いしかしない俺に近づいてくるやつはいない。
しかし、街まで遠すぎる。これまだ自治領じゃないのだろうか?さっきすれ違った奴に聞いてみればよかったが。こんな姿で話しかけても物乞いだと思われそうだ。それはなんだか恥ずかしい。
そんなことよりもう空は夕方だ。
途中何度も休憩を挟みながら歩いてきたが、街は一向に見えてこない。裁判のせいで昼食は食えてない。空腹で胃が痛い。お腹の音が何度も鳴った。
駄目だ、今日はここで野宿になりそうだ。でもどこで寝る?足はもう限界。一人ぽつんと立ったまま、俺はあたりを見渡した。雑草の中で寝る勇気はない。虫とか蛇に襲われるかもしれない。そうなると感染症の危険性もある。でも冷たい石畳の上となると…今は季節は10月で肌寒い。薄着一枚の子供が体温を奪われながら一日を乗り越えられるかどうか……それに空は黒雲に染まっている。雨が降ればどっち道凍死は免れない。人間は思った以上に簡単に死ぬ。この世界に来て一番最初に学んだことだ。このまま行けば俺もその一人になりかねない。でもこの状況って俺何ができんの?人を強制的に脱糞させれるただの7歳児なのに…力もない、歩くスピードも遅い、この世界でまともな教育も受けていない。この世界で知っていることは神様がいて、勇者がいて、魔王たちを倒して今がある。あとは土いじりと、人は簡単に死ぬということ。こんな俺が生きて街にたどり着けるとは思えない。たどり着いてもそこで生きていけるかどうか……。
後ろを振り向いて、誰もいない街道を俺は眺める。
東の空はすでに暗くなりつつあった。
だめだ…歩こう。考えてる時間があったら動こう。じゃないと死んでしまう。
俺は迫りくる闇夜から逃げるように西のハンブルクを目指してまた歩き始めた。
後ろから馬が石畳を叩く音が聞こえてきた。
とっさに振り返ると、物凄いスピードで誰かが馬に乗ってこちらの方へ走って来る。
俺との距離はあっという間に近づいて、馬を操る女性と目があった。手を上げて話しかけようとしたとき、たった数秒、女性の目の動きと表情が動いた。
「すっすみません!あの!たす………」
そして俺の助けを求める声を聞く暇もなく、女性は通り過ぎていった。正直怒りが湧いた。なんでだ?なんで俺がこんな目にあってる?なにか俺が悪いことしたか?むしろ被害者だろ。勝手にこんな世界に連れて来られて、変な祝福のせいで魔女認定されて火炙りの形とかどう考えてもおかしいだろ!!なのになんで誰も手を差し伸べねぇんだよ!お前ら狂ってるぞ⁉はっきり言って!!ほんと終わってるわ!なんで…なんでこんな…なんで……。
「……」
死ぬのかな…俺。
「……死にたくねぇよお…だれか…」
ハンブルクがあると聞いた東の街道を振り返れば、先程通り過ぎた騎馬の背中はもう見えなくなっていた。次第に小さくなっていく夕焼けを見つめながら、俺はまた歩き出した。
それから数時間が立った後だろうか、その間にもまた騎馬や馬車は俺を無視してハンブルクの方へと走り去っていった。もう声をかける気も湧いてこない。助けても何の利益にもならない、それどころか犯罪の臭いしかしないガキを助けるお人よしなんてこの世界にはいないらしい。そりゃそうか……。
うつむきながら歩いていた俺は、ふと、自分の脚の影が消えていることに気が付いた。影どころか足元も真面に見えない。上を見上げれば満天の星空が映っていた。これが仕事帰りに見れたらまたなにか思う事もあったかもしれないが、今の俺にはこの景色を見て感傷に浸る余裕さえなかった。
逃げたはいいが、逃げただけだ。この世界の事なんて何も知らない、無力で小さな子供が一人で生きていくことなんてできやしない。
薄着一枚のなか、冷たい冬の風に吹かれていた俺はついに街道の端っこに座り、ゆっくりと横に寝ころんだ。
「……もう…疲れた」
最後に…この綺麗な夜空を見えたことだけでも良かったのだろうか……。
瞳を閉じる。
なにか音がした。
虫か、蛇か、狼か………なんでもいい。
つかれたから今日はもう寝させてくれ。
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