あっ…ふーん



代官の言葉を合図に俺の隣に立っていた兵士たちが俺の肩を掴み、腕を後ろに曲げて、手錠をはめようとしてきた。俺は体を左右に動かし、抵抗しようとしたが7歳児が屈強な兵士に抗いことなどできず、俺はついに手錠をはめられてしまった。

明日には死ぬ。燃やされて熱さに苦しみながら…それを想像しただけで俺は恐怖と怒りで我を忘れてしまっていた。なにも悪い事をしたわけでもない。悪い事があるとすればこんな祝福を与えた気色の悪い神と、迷信に惑わされる学のないバカな農奴たちのせいだ。こんな奴らのせいで俺の人生がめちゃくちゃに終わるなんてたまったもんじゃない。そんなことが許されてたまるか。

「くそがっ!ふざけんな!」

「そんなので逃げられると思うなよ」

「このっ……脱糞しやがれクソ野郎!!」


そして俺は悪態をつきながらついに魔法を発動してしまった。


「「あぬっ⁉ぐぅあぁああぁぁぁぁ…⁉⁉」」


俺の両肩を抑えていた二人の兵士が同時に地面に倒れこんだ。苦しそうな表情を浮かべながら二人の兵士はお腹を押さえつけながらうめき声をあげた。


そして同時に巨大な放屁音と共に、ズボンのお尻付近が盛り上り、茶色いシミと悪臭がズボンと周囲に広がっていった。


「ついに正体を現したぞ⁉」


周りから悲鳴と怒号がなり始めた。

焦った様子の代官と司祭はすぐに兵士たちに指示を飛ばす。

その場にいた残りの兵士4人が剣を抜いて俺のほうに走り出した。


「くそっ⁉俺のそばに近づくなぁああ⁉脱糞!脱糞!だぷっ脱糞!脱糞!!」


「ぬうぅうう⁉」

「ぐっ…クソガキがぁぁ」

「いっ⁉」

「ぬおぉおぉぉぉぉ……⁉⁉」


兵士たちは剣を落とし、先程と同じようにお腹を押さえながら地面に倒れこんだ。そしてまた特大の放屁と共にズボンの後ろが盛り上り、悪臭を漂わせる。


その様子に母は泣き崩れ、父は茫然とその光景を見つめていた。


「お前たち武器を持って全員で押さえつけろ!!」

「この者に破門を言い渡す!今すぐ殺せ!!」


お付きの兵士たちは今だ腹痛に身を屈めたままだ。

すごい。大の大人が、それも屈強な兵士たちが地面に膝をつくほどの腹痛があるとは、不幸中の幸いとはこのことだ。


だが不幸中である事には変わらなかった。

代官と司祭の命令に大人たちは俺を囲むように飛びかかった。

一瞬だけ時間がゆっくりになるような感覚に包まれる。このまま何もしなければ何百キロの重さで押さえつけられて窒息死するだろうな。


だから俺は思いっきり叫んだんだ。



「お前ら全員!!だっぷんだぁあああああああ!!!!」



帝国の遥か北。

森に囲まれた小さな寒村で、汚いオーケストラが鳴り響いた。

総勢200人の口とケツ穴から噴き出したびっくりチキンの鳴き声に、俺は不意に笑ってしまった。まさか範囲攻撃も可能だとは。よく見ると村一番の看板娘と言われたローズが「おっ……おっ…おぉ……」とうめき声を上げながら白目になっていた。

お姉さん、そんな変態さんだったんだね。やばい、性癖が曲がってしまいそうだ。

だがそれよりも悪臭が酷い。鼻がひん曲がりそうだ。


「はっ…ざまぁみろバーカ!!俺は何としてでも逃げるぜ!あばよ!!」


だから俺は村の外へ逃げ出した。

このままなにもしなければ殺されるのは目に見えていた。

腕を後ろで拘束されながらも、なんとか転ばぬようにハンブルクの街道へと続く野道を俺は走っていった。


これで少なくとも一日に7回は魔法が発動可能なことが分かった。これってめちゃくちゃすごい事なんじゃないか?だってあの範囲攻撃を7回したら、1400人を一度に脱糞させれるって事だろ?

しかも最初に脱糞させた兵士たちもまた脱糞している。そんなに糞がたまっていたのだろうか?それとも「強制的に」の意味とはこういう事なのか?だとしたら恐ろしすぎる。腸に糞がないのに糞が出たとしたら、その糞はどこから生み出されたのだ?。魔法であろうと魔術であろうと、無から有を生み出すことは無可能とされている。もしかするとあの二度目の糞は兵士の体内の組織を栄養に生み出されているのではないか?

だとしたら何度も同じ人を脱糞させたら、ドラ〇ンボールのセ〇編のオッサンのように、服と糞だけを残して、干からびて死んでしまうのではないだろうか?

わからない、ただの憶測、いや妄想に等しい。でも俺はこの魔法をまだ完璧に理解している訳じゃない。司祭は人を強制的に脱糞させる魔法と言ったが、人が立てない程の腹痛に関しては知らない様子だった。

このクソみたいなというか、糞なんだが、この脱糞魔法にも可能性は満ち溢れているのではないか?家も親も人権も失った。でも死にたくない。迷っている暇なんてないんだ。こんな残酷な世界で生き延びるためには、俺はこの祝福に頼るしかない。


ハンブルクへと続く石畳の街道を歩きながら、俺はいばらの道を歩く覚悟を決めた。

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